ここで問題となるのは、言うまでもなく企業の社会経済的パフォーマンスをどのように定義し、どのように計測するのか、という点であるが、これは現在も研究が続行中であり、最終第6回に譲ることにする。

社会性と経済的価値の両立が
持続的競争優位を生む

 今回の結論として、これら3つの因果関係モデルのうち、第2と第3の考え方は、企業の経済的価値最大化を無条件に戦略の従属変数と設定する既存の企業観に対し、明らかに修正を迫るものだ。例えば次回述べるように、これまでは企業の財務的リターンを唯一無二の評価尺度としていた資本市場がESG(環境・社会・ガバナンス)に関わる投資基準を援用し始めたり、伝統的戦略理論の父祖と称されるポーター自身が、今回見たように既存戦略理論の限界を素直に認め、社会性への傾斜を強めたりしているのは、時代の持つ企業観が変化してきている明確な兆しと捉えられる。

 こうした企業観の変化は、戦略の究極のゴールである「持続的競争優位」の定義にすら修正を迫ることになる。だが、ポーター・クレーマー論文にすら論理の揺らぎが生じているように、今後は明確にこの方向へ進むべきだ、という共通認識はいまだ企業コミュニティにおいても学会においても成立していない。

 このような状況下で、企業の視点に立って少なくとも言えることは、そうした企業観(企業の見られ方、企業に望まれる価値)の変化を先取りし、自社の本業領域での社会性追求と自社競争力の強化、自社独自の方法による社会性追求と新たな経済的価値創造とを両立できる企業にこそ、持続的競争優位は宿る可能性が高いということだ。

 本業を通じた社会性と経済性の厳密な因果関係は実証研究に譲るとして、両者を同時成立させるという戦略的意図・構想を持って、そのタフな目的の実現に必要な資源や能力をいち早く蓄積し始める努力が求められている。そこで企業間に差がつくだろう。その点日本企業の大半は、少数の例外を除き、欧米中韓印等の先進企業に比べていちじるしく後れを取っているというのが筆者の皮膚感覚である。

 次回は、企業が包括的ビジネスに取り組む際に社会性と経済性を同時追求する動機付けが生じる理由として、企業を取り巻く外的環境・利害関係者の意向がどう変化してきたかを論じる。