新自由主義の主張に
対する異議

 こうした新自由主義の主張に異議を唱えるのがPorter and Kramer (2006, 2011)[注2]である。彼らは社会性は経済性の犠牲の下に成り立つという新自由主義の前提を否定し、両者の密接な関わり合い、相乗効果を主張する。もっとも、企業の社会性と経済性を統合する考え方は、実はPorter & Kramer (2006, 2011)をはるかにさかのぼり、金井他(1994)や金井(1995)がすでに「戦略的社会性」という概念によって統合的フレームワークを提唱していることをここに記しておきたい[注3]。

 さて、Porter & Kramerは、これまでの企業は社会的責任(CSR)活動を本業とは関係のない周縁に位置づけ、場当たり的に資金を投じていると批判する。そして様々な利害関係者に囲まれて経営が進行する現代においては、企業が社会に対して責任を負う「企業の社会責任(corporate social responsibility)」ではなく、「企業と社会の統合(corporate social integration)」が重要であり、また企業による社会性追求は、自社の本業(製品もしくは事業プロセス、またはその両方)を通じた「競争上の文脈(原語はcompetitive context、ほぼ「自社にとっての競争条件」と同義)」の改善のためになされるべき、とする。

[注2]Porter and Kramer (2006), Strategy & Society: The link between competitive advantage and corporate responsibility, Harvard Business Review, December 2006: 1-17.Porter and Kramer 2011), Creating Shared Value, Harvard Business Review, January-February 2011:1-17.

[注3]「経営戦略の本質は、企業活動が社会全体の健全な発展に貢献するとともに、企業自体の発展にも役立つという基本的関係を築くことにある。このような企業と社会の望ましい関係を築くためには、社会に存在するさまざまな問題を企業が満たすべき社会的ニーズとしてとらえ、本来の事業活動を通じてその解決に貢献していく必要がある。(太字は筆者)」「このようにして、企業はメセナやフィランソロピーを超えて、新事業の創造を通じて社会の多様な問題を解決し、新たな社会価値の創造に貢献するという『戦略的社会性』を実現できるようになる」(大滝・金井・山 田・岩田1997:p.317-318)。Porter & Kramer(2006、2011)のアイデアは、ほぼこれら日本の研究者の主張に沿ったものであるといってよい。
金井・腰塚・田中・中西・松木・松本・桶田(1994)『21世紀の組織とミドル:ソシオダイナミクス型企業と社際企業家』産能大学総合研究所.
金井一賴(1995)「地域の産業政策と地域企業の戦略」『組織科学』v29.n2.
大滝・金井・山田・岩田(1997)『経営戦略―創造性と社会性の追求』有斐閣.