事業のタネやアイデアは現場にある

 長年培った技術を生かして新分野を開拓するために、では、経営者は何をすべきか。技術経営の観点で重要なことは、まず「上の人間がいかに現場を知らないか」を知ることです。その上で、必要な予算があれば目をつぶってハンコを押し、現場が事業のタネを探すよう促すのです。もちろん、すべてにハンコを押すわけにはいきませんから、取捨選択は重要です。この点については、次回詳しく述べたいと思います。

 パナソニックが松下電器産業だったころ、電池出身の個性的な役員が多かったので、不思議に思って聞いたことがあります。2次電池が注目を集めるはるか以前ですから、電池事業に成長性があるとは誰も考えていません。「だから、電池事業の人間は必死で考えるんだ」という話でした。

 例えば、技術者が夜の港で釣り人を見かけて、「浮き輪が光ると便利じゃないか」と考えたりする。そのアイデアを会社に持ち込んで、さっそく電池内蔵で光る浮き輪の商品化を話し合うという具合です。役員会でいくら議論しても、光る浮き輪のアイデアなんか出てきません。

 答えは現場にしかないし、現場がやる気にならなければ何も生まれません。つい先日、あらためてその思いを強くした出来事がありました。私は、東京商工会議所がチャレンジする中小企業を顕彰する「勇気ある経営大賞」の選考委員長を務めています。2012年の大賞を受賞したのは、日本レーザーという従業員40人ほどの企業です。

 レーザー機器や光学機器を輸入・販売している同社には、かつて親会社がありました。親会社から社長が派遣され、数年おきに交代していたといいますから、社員が「どうせ2、3年で本社に戻るんだろう」という目で社長を見るのもやむをえないでしょう。

 ところが、あるとき派遣されてきた何代目かの社長は、「これではいかん」と考えて「オレは帰らない。ここに骨をうずめる」と宣言しました。そして、経営改革を進めるとともに、経営者と従業員で親会社から株式を買い取り、従業員・役員を株主とする会社として、独立。事業はどんどん成長し始めました。

 聞くところによると、日本レーザーでは以前、輸入する製品について親会社の審査があったそうです。現場が「いける」と思った製品でも、親会社が「ノー」と言えばそれまで。独立後は、かつてダメ出しをされた製品の輸入もできるようになり、実際にかなり売れているようです。

 事業のタネも明日のアイデアも、すべては現場にある。「ない」という企業は、上から見えないだけです。現場から経営者に上がってくる途中、それらは既存の様々なルールで排除され、殺されているだけなのです。

 まったく、東北の被災地と同じです。現場はあれもやりたい、これもやりたいと思っています。それをルールがつぶしている。したがって、私から経営者へのメッセージは、現場に任せましょうということ。日本企業の経営者にいま最も足りないのは、「任せる勇気」です。