ミクロからマクロまでの多種多様な要素が相互に絡み合った「構造的問題」といってしまえばそれまでですが、僕に言わせれば、問題の核心はウォール街型の報酬システムにあります。リーマンショックのときも、それ以前の「金融危機」と同様に、ウォール街で働く人々の巨額な報酬は批判を受けました。それに対する当事者の反論は例によって「多額の報酬を払わないと優秀な人材を確保できない」といういつものロジックです。

 いくらなんでもこれは詭弁でしょう。だとしたら、なぜそうした巨額な報酬に値する人々があれほど愚かな間違いを犯したのか。そもそも70年代当時のウォール街でも、ハイエンドな金融サービスが展開されていましたが、彼らの報酬は今ほど巨額ではありませんでしたし、報酬システムもずっと単純なものでした。ゴールドマン・サックスなどの投資銀行もまだ上場しておらず、ストックオプションで個人が何十億円も手に入れるということもありませんでした。行き過ぎた報酬システムこそが問題を引き起こしたと考えるのが自然でしょう。

比較的健全な日本の金融

 とあるヘッドハンティング会社の人に、日米のCEOが受け取っている報酬について調査したデータを見せてもらう機会がありました。日本のCEOの平均的な報酬の内訳は、ほとんどが基本給とボーナスで、ストックオプションなどのLTI(Long Term Incentive)はわずか12%。これに対してアメリカのCEOの報酬は、基本給とボーナスは33%で、LTIが67%も占めます。これは全業種のデータなので、金融業に限ればさらにLTIの割合が高くなるはずです。

 ストックオプションなどの株価に連動した報酬システムを「長期インセンティブ」と総称するわけですが、これは考えてみれば皮肉な話です。

「長期インセンティブ」を付与すれば、経営者の企業価値を高めようというモチベーションが高まるのは事実でしょうが、それで具体的にどのような経営行動をとるのかといえば、結局のところ、「短期的」に株価を釣り上げて高額報酬を得ようという話になります。特にウォール街の金融機関のような「長期インセンティブ」が報酬の大部分を占めるシステムの下で働いていたら、後先を考えずにステイクホルダーを犠牲にして短期的な私利私欲に走ってしまうのも仕方がない気がします。

 ようするに報酬システムを見直す必要があるのですが、そう簡単にはできません。議員の議席を減らすのと同じです。自分たちの報酬を問題にしているだけに、当事者自らそれを見直すということはほとんど期待できない。「多額の報酬を払わないと優秀な人材を確保できない」という手前勝手なロジックがそれを象徴しています。

 行き過ぎた報酬システムはウォール街型金融業の抱える宿痾のようなものです。是正には相当長い時間がかかるとみてよいでしょう。もしくはローウェンスタインが言うように、ウォール街に自己改革はそもそも望めないのかもしれません。