ただし、そこでわかるのはあくまでも文脈にどっぷりとつかった特殊解なので、自分の商売にはそのまま取り込むことができません。そこからさらに本質を抽出する作業が必要になります。

 拙著『ストーリーとしての競争戦略』でも取り上げた、中古車売買のガリバーインターナショナルの戦略ストーリーも、その本質部分ではZARAと似たような論理に立脚しています。それは 「後出しジャンケン」という論理です。

 従来の中古車販売業者は、一般消費者から買い取った車を店舗に並べて、売れたら大きなマージンを手にし、売れなければ不良在庫を抱えていました。それに対してガリバーは、一般消費者から買い取っても小売りはせずに、そのままBtoBのオークションで販売しています。最初からオークションでの売却を前提として買い取るので、確実に利益が見込める価格で買い取ることができます。中古車取引につきもののコストとリスクから解放されるというわけです。

 ZARAやガリバーのような成功事例なりそこに盛り込まれている打ち手を知ったとしても、生のままでは役に立ちません。ところが多くの人は、人目を引く「ベストプラクティス」や、一撃必殺の「飛び道具」を求めがちです。

 今なら「これからはSNSを活用したマーケティング!」といった話が飛び道具の典型例です。もちろん悪い話ではないのですが、SNSマーケティングも、やれば効果があるというものではない。SNSで成功している会社もあれば、完全に失敗している事例もある。SNSという構成要素とか手法だけを見るのではなく、その会社の戦略ストーリー全体を見てみないと成功の秘訣はわかりません。

 だいたい飛び道具として取りざたされるようなものは、多くの人がやろうとすることです。競争戦略の本質は「違いをつくること」です。だれもが気になる飛び道具や必殺技に寄りかかってしまうと、独自性なり差別化がかえって殺されてしまうことにもなりかねません。

 読書に関しても同じです。成功している経営者に、「どんな本を読んでいますか」と聞くと、「経営戦略のフレームワーク」的な本を読んでいる人はそれほどいません(ドラッカーなどの超本質論的な本は別ですが)。小倉昌男さんや永守重信さんなど、優れた経営者の書いた本を読んでいる人が圧倒的に多い。彼らにとっては結局それが有用だからです。

 他社の経営者の書いた本は個別の文脈の中に埋め込まれているので、すぐに応用することはできません。しかし、優れた読み手はそこで抽象化して本質をつかむ。ファーストリテイリングの柳井正さんは驚くべき読書家ですが、読み方として「本を読むのではなく、本と対話することが大切だ」と強調しています。対話は今も昔も本質にアプローチするときの基本でしょう。

 優れた経営者というのは抽象化してストーリーを理解し、その本質を見破る能力に長けています。商売を丸ごとで見て流れ・動きを把握して、それを論理化することで本質にたどり着くことができます。もともとは具体的な個別の事例が、自分のアタマの引き出しにしまうときには論理化された本質に変換されています。

 結局のところ本当に役に立つのは、本質部分で商売を支える論理なのです。戦略構築のセンスがある人は、この種の引き出しが多く、深いものです。他社の優れた戦略をたくさん見て、抽象化するという思考を繰り返す。

 自社に独自の戦略ストーリーを構築するための構えとして、これが大切だと僕は思います。

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