「しないこと」も経営者の仕事

 人間だれしも時間は1日24時間と決まっている。一人で1日48時間も使えるという人はいない。24時間あっても、本当に「24時間仕事バカ」だと死んでしまう。睡眠もとらなければならない。プライベートの生活もある。どんなに集中力があっても、まともに仕事に使える時間はせいぜい一日12時間だろう(ちなみに僕は「一日4時間仕事バカ」を目指している。これでは経営は到底勤まらない)。

 何から何まで、商売丸ごとを動かして成果を出すのが経営者。しかもハンズオンのスタイルで仕事をするとなると、時間がいくらあっても足りなくなるのが当たり前。ということは、自分で手を出すことと、手を出さないこと、その線引きがよほどしっかりしていなければならない。

 しかも、仕事は商売全体丸ごとの経営である。優れた経営者のハンズオンの背後には、それよりもずっと多いハンズオフの領域があると考えてよい。むしろ、初期設定がハンズオフで、ある条件を満たしたときにはじめてハンズオン・モードが作動する、というのが実際のところだろう。使える時間が一定であることについて徹底してハンズオンであるということは、別のことについて徹底してハンズオフであるということを意味している。ハンズオフあってのハンズオン。逆もまた真なり。「色即是空、空即是色」である。

 ハンズオン、ハンズオフという区別は、組織の意思決定が集権的か分権的かというのとは似て非なる話だ。権限委譲を進めて、意思決定は部下に任せる。しかし、そのイシューが何か、商売の現場がどういう状況で何が起こっていてどこに問題の本質があるのかを自分の頭と目と手と肌で掴んでいる。これは分権的だけれどもハンズオンという状態だ。意思決定の権限が自分のところに集約されていて、やたらと決めることが多い。しかし、意思決定の対象になっていることについては肌感覚で分かっていない。対象から離れたところで次々に回ってくる決裁書類にばんばんハンコをつく。これは逆に、集権的だけれどもやたらとハンズオフになっているという状況だ。

 オンとオフの境界線をどこに引くかという問題は、その経営者の経営スタイルを知るうえで決定的に重要なポイントだと思う。それは、「○○億円以上の案件はオン、それ以下であればオフ」とか、「開発と生産設備投資の案件はオン、営業から先はオフ」といったような、垂直的・水平的分業による形式的な線引きではあり得ない。

 いつどこでどのようなことについてハンズオンのスイッチが入るのか、ハンズオンとオフの切り替えメカニズムがどうなっているのか。これは外から簡単にわかる話ではない。その経営者の仕事のプロセスをじっくり観察しないとつかめない。だから、「こういうことをしています。これが私の経営スタイルです」という話は枚挙にいとまがないが、「私はこういうことをしないようにしています」という話はまれだ。

 その経営者が「何をしない」ことにしているのか。これが経営という仕事を深く理解し、その経営者の資質や能力、スタイル、さらには経営哲学を読み解く深くカギだというのが僕の仮説だ。経営者の方々をじっくり観察する機会があるときは、僕はいつもこの切り口でその人を見ている。

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