ところが、やってみるとこれがパッとしない。なにしろ大企業の大工場ですから、歯車どころか、歯車の歯になったようなものです。一所懸命仕事をしても、ほかの仕事とどうつながって、どういう成果になるのか、全然実感がない。これじゃあ正社員になってももたないな……、ということで、早々に別の仕事を探しました。

 それで転職したのが、いまの広告代理店です。広告代理店といっても地方の会社ですから、従業員が300人の中堅企業。こういう景気ですから、地方都市で広告というと苦しいように聞こえるでしょ。もちろん実際に苦しい環境なんですけど、けっこう堅調にやってるんですよ、ウチの会社は。

 従来のメディアの広告は下火ですけど、地元の会社で地域密着という強みを生かして、フリーマガジンとかフリーペーパーの事業に力を入れて、これがわりと調子いいんですね。スポットにたくさん置いといて、どうぞもってってくださいというやり方じゃなくて、ウチのは一人ひとり、お家まで訪問して手で届ける。この顧客接点のつくり方が商売のキモになってます。高齢化でお年寄りの方が多いと、そういうアプローチの方が消費者に届くし、シルバーの方々との接点でわかることも多い。地域ではシェアがナンバー1になってます。 

 仕事はやりがいありますよ。いちばん大きいのは、自分の生まれ育った地元、この地域社会に貢献できているという実感が持てるということですね。地域密着で消費を活性化していく。商売をやっている人にもお客さんにも喜んでもらえる。ま、これが広告業の原点なんでしょうけど、そういう実感をもって仕事ができる。

 僕以外の社員もみんなそういうやりがいをもって働いています。みんな同じ方向を向いて頑張っている。だから職場もイイ感じですね。上司にも恵まれています。いまの上司、若手の中では出世頭なんですけどね、この人についているとホントに勉強になるんですよ。たとえば、一緒にクルマで移動しているときとか、道路沿いになんてことないフツーの赤い看板が出てるでしょ。そういうときに、「あのカンバンな、あれがなぜこの場所に出ているのか、なぜ赤いのか、そうしたことを見た瞬間に説明できる。それが真っ当な広告マンだ」と教えてくれる。違う業界から入ってきた僕を、仕事のいちばん根本のところから鍛えてくれるんですね。感謝しています。

 アメ車の整備と工場の品質管理の後、いまのが3つ目の仕事ですけど、これは一生の仕事として続けてきたいと思ってます。ま、いまのところは、という話で、10年たったら考えが変わっているかもしれませんけど。ただ、毎日仕事をしていて、「あー、確かに自分は仕事をしているな」という納得が前よりもずっと強いんですよ。今回はアタリだと思ってます。毎日の仕事に手ごたえがあります。

 アメ車やロックンロール?相変わらずスキですよ。ただ大スキな古いカマロとなると、家族もいるし、自分で乗るのはちょっと現実的ではないですね。ほら、整備代も高くつくし。でも、いまでも休みの日には街に出て、ロックンロールのライブを聴くのが楽しみなんですよ。やっぱりクルマはアメ車、クルマの中でかかっている音楽はチャック・ベリー。「ロール・オーバー・ベートーベン」ね。これ最高。ま、あからさまにスキなことだからといって、そのまま仕事にはならないものですね。スキなことは趣味でやった方がいい。いまになってそう思いますよ。

 ……という話を、出張した機会に移動で一緒になった若者から聞いた。彼は年のころでいうと30歳前後。彼の目には力があった。若いけれども、自分の足で立ち、自分の手で仕事をしているという自信にあふれていた。