「V回復」の陰にあるもの

 急速な業績回復の要因として、日本航空の大胆な意思決定や経営努力があったことはいうまでもない。グループ全体の三分の一に当たる1万6000人を削減し、国内線を4割減らすなど選択と集中を進めている。

 「やればできるじゃないの!」という話だ。それにしても、「だったら、なぜもっと前からできなかったのか……」という素直な疑問が出てくる。華々しいV字回復は、破綻以前の日本航空の経営がいかにユルユルだったかを改めて浮き彫りにしている。

 ここまでは、ま、よいとする。「わかっちゃいるけどやめられない」で、ズルズルいった挙句にたどり着くのが経営破綻の常態だからだ。日本航空だけではない。すべてを白日の下に晒してリセットをかけ、平時ではやりきれない荒業に出る。これが破綻→再生という資本主義における究極の「ぶっちゃけ」が用意されているそもそもの意義だ。

 問題は日本航空の「最高益」の背後にある奇妙なメカニズムにある。ここまで「高収益企業」とか「収益力」とか「最高益」という言葉にいちいちカギカッコをつけているのは、利益回復が単純に「やればできるじゃないの!」という話でもないからだ。V字回復に貢献しているのは、日本航空の経営努力よりも、後先を考えない政府の介入が日本航空にはかせた「ゲタ」の方が相対的に大きいというのが僕の見解だ。

 2011年度の全日空と日本航空の損益を比較すると一目瞭然だ。営業収入、営業利益、経常利益、税引き後の当期利益の順にみると、全日空では14115(億円、以下同じ)、970、684、281という数字が並ぶ。すでにみたように、これは全日空としては最高益で、グローバルにも業界の水準を上回っている。

 日本航空では、これが12048、2049、1976、1866となる。営業収入は全日空よりも小さくなっている。これは不採算路線(特に国内線)からの撤退による事業の絞り込みを反映した数字だ。それでも利益は全日空を大きく上回っている。もちろん大幅な賃金カットなど経営努力もあるけれども、無視できないのは、破綻に伴う資産評価損計上によって、減価償却費が大幅に抑制されたということだ。これが日本航空の増益に大きく貢献している(新聞報道によると約500億円のコスト削減効果があるという)。

 航空会社の減価償却費として大きいのは、言うまでもなく高額な航空機への投資だ。航空機の簿価を比較すると、全日空が7500億円に対して、日本航空は半分の3700億円。資産評価損の計上によって、航空機簿価の5800億円分が調整されている。しかも調整額のうち、2800億円は継続使用の機体を対象にしている。ということは、将来にわたって減価償却費の抑制によるコストダウン効果が持続するということを意味している。

 さらに重要なポイントは、日本航空では営業利益と経常利益と税引き後の当期利益の間にほとんど違いがないということだ。全日空では儲けに対して当然のことながら法人所得税がかかるので、当期利益は経常利益よりもずっと小さくなる。ところが、破たんを経験している日本航空の場合、繰越欠損金の優遇策の恩恵で、2018年度までにおよそ4000億円の法人税が免除される。しかも、所得税の手前で、債権放棄によって金利負担も軽減されている(だから経常利益と営業利益の差が小さくなっている)。

 ことほどさように、日本航空の「V字回復」は経営努力によって花開いたというよりも、経営努力と無関係のところでつくられた「造花」の色彩が強い。これが何を意味するのかについては、また次回。ひとつご贔屓にお願いします。

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