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『ハーバード・ビジネス・レビュー』を読んで「イノベーション」の 何たるかを識る
世界でも政策でもイノベーションが大流行である。ITが高度化し、市場がグローバルに統合されつつあるなか、企業はもちろん都市や国にとっても競争力を維持する唯一の手段がイノベーションであることが「イノベーションという呪文」といわれるほどの氾濫の背景にある。ここ数年、マイケル・ポーター教授との競争力コース、世界経済フォーラムの競争力調査、「GIES2007」(グローバル・イノベーション・エコシステム)などに深く関与した経験から、日本でのイノベーション議論は技術に偏り、イノベーションをもたらす社会システム全体の革新や国や企業の要件としての人財の開発などがとかく軽視されていると思う。こうした点に広く深く言及する『ハーバード・ビジネス・レビュー』を読んで、イノベーションの基礎を知ることは企業人にとって不可欠であろう。
サンドバック代わりに「批判的」に読む
『ハーバード・ビジネス・レビュー』(HBR)に寄稿した日本人のなかで、私が最もその回数が多いそうだが、30代から40代にかけては、最も熱心な読者の一人でもあった。もちろん、世界各国のクライアントが読んでいたからでもあるが、マイケル・ポーターやピーター・ドラッカーなど、斯界の権威と呼ばれる人たちと「シミュレーション・ファイト」するためでもあった。「本当にそうなのか」「違う考え方はないのか」と、批判的に読むことで、彼らの主張や理論が理解できるばかりか、自分の考え方やアイデアも磨かれていく。言い換えれば、HBRをサンドバック代わりに使わせていただいたわけだ。HBRは、批判的読書には格好の雑誌であり、ビジネス・プロフェッショナルたる者、これくらい読みこなせないといけない。
多種多様な切り口の論文がインスピレーションを湧き上がらせる
コンサルティング・ファーム在籍時、現場改善も含め約300もの事例を扱った。現在はターンアラウンド・マネジャーとして企業の体質改革に取り組んでいる。いま、改革に求められるのは自部門の範囲に固執せず、経営全体の流れを理解できるクロスファンクショナルな人材だ。このような改革のリーダーシップを執れる人材を育成するには、さまざまな実務の経験値を高めることも必要だが、経営の「ボキャブラリー」を増やし、その本質を考える知的修練も必要である。『ハーバード・ビジネス・レビュー』は、真似事のテクニック論ではなく、具体的な問題解決事例が豊富である。多種多様な切り口の論文からインスピレーションが沸くので、本格的なボキャブラリーを身に付けたいミドル・マネジメント層に特に薦めたい。
経営リテラシーを効率的に鍛える20代の頃からの愛読誌
経営のプロフェッショナルは、経営リテラシーの研鑽と実践的な経験を積むことで、的確な指示を出す。経営リテラシーは、座学や本で鍛えることができる。しかし、優秀な人材ほど、なかなかその時間を確保できない。そんな人こそ、『ハーバード・ビジネス・レビュー』(HBR)を購読するとよい。毎号、テーマを絞り、世界最高峰の教授陣や企業リーダーたちが、最先端のフレームワークや実践的取り組みについて寄稿している本書を継続的に購読するほうが、一冊数千円もする専門書を読むよりも効率がよい。私もHBRを、20代の頃から読んでいる。
時宜を得た特集と論考に、多くを学ぶ
『ハーバード・ビジネス・レビュー』(HBR)は、私の若い頃からの愛読誌である。時宜を得た特集と、私淑するP.F.ドラッカー氏をはじめとする各分野の世界的権威や第一線の経営者による数々の論考から、多くを学んできた。いまだに強く印象に残っている論考は多数あるが、それらがいかに自身の思索、行動の糧となってきたかを振り返る時、HBRへの感謝の念を強くする。昨年30周年を迎えたHBRがこれまで果たしてきた使命はきわめて大きく、この節目を踏み台にしてさらなる飛躍を期待する。それを可能にするのは何よりも良質な読者を得ることである。ビジネスのさまざまな立場で、みずから考え行動しようとしている多くの方々にHBRをお薦めしたい。けっして期待を裏切らないと思う。
自分自身を省みるための新しい知的刺激
「リーダーの仕事は変革である」。私が学んだハーバード・ビジネススクールのジョン・コッター教授の言葉である。これは、彼が『ハーバード・ビジネス・レビュー』(HBR)に寄稿した論文で述べたものだ。変革とは、世のなかの動き、お客様のニーズに合わせて、自分たちの事業やマネジメント・システムを改善していくことにほかならない。そのためには、現場を知り、お客様を知り、ライバルを知らなければならないが、その一方、自分自身を省みることが欠かせない。そして、たえず新しい知的刺激が必要になる。私はHBRを毎号楽しみにしている。
知的怠惰を予防する「読む薬」
ビジネスの知、マネジメントの知というものは、たえず新しい発見や経験によって、更新され続けなければならない。『ハーバード・ビジネス・レビュー』(HBR)には、そのような「サムシング・ニュー」があふれている。それは最新号に限らない。私が1991年に米国版に寄稿した“The Knowledge Creating Company”(「ナレッジ・クリエイティング・カンパニー」)は、いまなお読まれており、筆者としては望外の喜びである。市場や組織は経済学が言うような静的なものではなく、動的で、言わば有機体である。ビジネススクールに通う、教科書やノウハウ本を読むだけで満足していては、そのダイナミズムについていけないばかりか、やがて知的怠惰という病にかかってしまうだろう。(HBR)は、それを防止するフィットネスといえる。
高質にして偉大なる「積読」雑誌
『ハーバード・ビジネス・レビュー』(HBR)は、「積読」(つんどく)雑誌である。「積読」といっても、悪口ではない。凡百の雑誌は、刊行と同時に読み流され、消耗されていくだけだ。高質な「積読」雑誌は、古典たりえる書籍同様、本当に必要な時に、取り出され、読者がじっくりと考えを深める手助けをしてくれる。HBRが手元に届くと、英語版なら一番後ろのエグゼクティブ・サマリー、日本語版なら簡単な内容紹介も書かれている目次、ここをざっと読んで、書棚の見えやすい部分にしまい込む。そして、何か考えたいトピックがある時に、古いものから新しいものまで逍遥すると、必ず「これ」という論文にめぐり合える。最近は、関連性の高い論文をまとめたアンソロジーも出してくれているが、過去の各号のなかから、自分にとって意味のある記事を拾い出す「編集作業」こそ、同誌の価値だと思う。
世界唯一のグローバル・マネジメント誌
2008年、ハーバード・ビジネススクール(HBS)は創立100年を迎えるが、1922年、『ハーバード・ビジネス・レビュー』(HBR)はHBSの機関誌として創刊され、以来、実践的なビジネス教育という共通の目的の下、歩調を共にしてきた。『フォーチュン』『ビジネスウィーク』『ニューズウィーク』など世界的なビジネス誌は多数あるが、世界的なマネジメント誌となると、私はHBR誌しか知らない。私がHBSで教鞭を執り始めた後、日本でHBRが発行されると聞いて、「はたしてうまく翻訳できるのだろうか」と心配していたが、現在のDHBRを読む限り、経営の現実を深く斟酌し、しかも滑らかで読みやすい日本語で表現されている。30年間の継続的改善の賜物である。