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「マーケティングの常識と『脱』常識」
マーケティングだけではありませんが、「基本」の大切さは言うまでもないところです。マーケティングの基本といえば、大家フィリップ・コトラーの名があがります。コトラーはマーケティングを学問として体系化、理論化し、この分野の「創造者」です。2004年2月号の「P.コトラーのマーケティング論」では、コトラーへの特別インタビューを含め、数多くあるコトラーの書籍には未掲載な論文も載っています。

ただし、「基本に忠実」なだけでは落とし穴に陥ることもあるでしょう。セオリーや模倣が重視される戦略もあるものの、市場のグローバル化、製品のコモディティ化が急速にめぐる現在、それらは脆弱でもあります。「『コモディティ化」時代のマーケティング戦略」(2005年8月号)、「『脱』常識思考のマーケティング」(2004年11月号)と銘打った特集では、これまでの常識、定石とは異なった視点を持つ論文が集められています。いずれも戦略マーケターの思考をほぐしてくれるでしょう。
関連論文掲載のDHBR
表紙
2005年8月号 特集:「コモディティ化」時代のマーケティング戦略
定価 2,000円(税込) 目次 この本を購入
FROM the EDITORS  ― この号の読みどころ ―
「マーケティングの科学」を考える
 1971年、フィリップ・コトラーがMarketing Decision Makingという「マーケティングを科学した本」を著しました。この本はその後二回の改訂を経て、現在Marketing Modelsに改題されています。彼に直接聞いたところによれば、67年に発刊された、かの有名な『マーケティング・マネジメント』よりも先に書き上がっており、彼の処女作になるはずだったそうです。
 最近、「マネジメントを科学する」「マーケティングを科学する」といったことがいわれますが、そもそもさかのぼること半世紀前、マーケティングは統計学や経済学と出会い、マーケティング・サイエンスという地平が拓かれています。
 残念ながら、冒頭に紹介したコトラーの書籍も、すでに十六回の改訂を重ねたEconometric Models in Marketingといったロングセラーは邦訳されていません。81年に初版が発行された、世界で最も読まれている企業財務の教科書、スチュアート・マイヤーズとリチャード・ブリーリーのPrincipals of Corporate Financeも翻訳されたのは第六版で、それも2002年のことでした(邦訳『コーポレート・ファイナンス』日経BP社)。
 日本語でマーケティング・サイエンスの体系を学ぶには、おそらく『マーケティングハンドブック』(朝倉書店)が最適でしょう。書名にハンドブックとありますが、900ページ近い大物です。もちろん積読の一冊です。
 個々の領域に絞れば、いろいろあるとはいえ、その意義を正しく理解するということでは、次の二冊でしょう。
 まず、ジェラルド・ザルトマンの『心脳マーケティング』(ダイヤモンド社)。ザルトマンについていえば、ビンセント・P・バラッバとの共著『ハーバードで教えるマーケティング戦略』(生産性出版)というのが92年に出されていますが、その進化形が本書です。まだ発展途上の領域ですから今後さらなる研究が待たれるとはいえ、認知心理学や大脳生理学など、学際的なアプローチは評価すべきです。
 もう一つは、エマニュエル・ローゼンの『クチコミはこうしてつくられる』(日本経済新聞社)です。弊誌2001年6月号でも「バズ・マーケティング」という論文のなかで、クチコミ効果について紹介していたり、ここ最近「クチコミ関連本」が何冊か発刊されたりしていますが、本書がベスト。
 これら二冊のほかには、マーケティング・サイエンスの文脈からプライシングを考えるという意味で、ヘルマン・サイモンの『価格戦略論』(ダイヤモンド社)も良書の一つといえるでしょう。
表紙
2004年11月号 特集:「脱」常識思考のマーケティング
定価 2,000円(税込) 目次 この本を購入
FROM the EDITORS  ― この号の読みどころ ―
マーケティング秀才の落とし穴
 ●フォード・モーターの〈エゼル〉
 ●ゼネラルモーターズの〈キャデラック・アランテ〉
 ●RJレイノルズの〈プリミエ〉(健康なタバコ)
 ●ペプシコの〈クリスタル・ペプシ〉
 ●コカ・コーラの〈ニュー・コーク〉
 ●IBMの〈PCジュニア〉
 ●かつてのAT&Tの〈ビデオフォン2500〉
 ●フェデラル・エクスプレスの〈ザップ・メール〉

 これらはすべて、いわゆる「失敗商品」です。そして、その失敗の理由は総じて「従来の成功法則やマーケティング・セオリーをきちんと踏襲した」結果でした。いやはや、マーケティングの秀才たちはどうして線形思考に陥ってしまうのでしょうか。
 さて、消費者の購買行動を調査・分析する際、彼ら彼女らの模倣行動を前提に置くことで、マーケティング調査は大きく変わるはずです。特集1は、この模倣行動はグローバル化しており、それゆえに突発的かつ短期的な予測不可能な現象として表れ、したがって「二匹目のドジョウ」を狙っても、これからはなかなか成功しないと説きます。セオリーの脆弱性を実感。
 低価格を選好する顧客層と高価格をいとわない顧客層に大別されていたマス市場に、その中間と呼べる「新富裕層」がついに大市場として台頭した。それはCRMやワン・トゥ・ワン・マーケティングでは開拓できない。特集2も、セオリー破壊のマーケティング論を展開しています。
 ブランド・エクイティという概念の登場により、ブランドは一躍注目される領域になりました。しかし――。特集3は、カスタマー・エクイティを高めるものでなければ、ブランド戦略は無意味にすぎないと主張します。“Brand is not a king.”ですね。
 ダイレクト・マーケティングはいかに緻密で、実態に即した計画が立案できるかが成否を左右します。特集4で提唱される「ARPRO」モデルは、データ・サンプルにおける「選択バイアス」を排し、これまで常識と思われていたマーケティング活動に異を唱えるものです。
 特集5は、サービス産業における雇用がオフショアリングによって海外流出するという懸念、また低コストの労働力が国内市場を席巻するといった危機感に、冷静な分析で応えます。この後の競争環境を読み解くうえで、有益な示唆に富んだ論考です。
 グローバル・ブランドはその出生国の影響を大きく被る。これもまたマーケティングにおける幻想にすぎない。特集6では、何がグローバル・ブランドの価値を決定するのか、大規模調査によって検証します。
表紙
2004年2月号 特集:P.コトラーのマーケティング論
定価 2,000円(税込) 目次 この本を購入
FROM the EDITORS  ― この号の読みどころ ―
MarketingはSellingではない
 二〇〇一年一一月号で、ハーバード・ビジネススクール名誉教授のセオドア・レビットを特集しました。そして今号でフィリップ・コトラーを取り上げましたが、両者の業績は異なれど、きわめて重要な共通点があります。
 それは「マーケティングとセリング(販売)はまったく別物である」という主張です。二人とも、我々のインタビューにおいて、この点をことさら協調していました。
 今号には掲載していませんが、コトラーは一九七七年に寄稿した“From Sales Obsession to Marketing Ef-fectiveness”という論考で、マーケティングとセリングの履き違いについて警鐘を鳴らしています。またレビットは六〇年に“Marketing Myopia”という論考を寄稿し、同じくこの点を指摘しています。両者はさらに「マーケティングは全社的な取り組み」であるという点でも一致しています。
 日本には(おそらくアメリカやヨーロッパでも)、自称マーケターがたくさん生息していますが、コトラーとレビットの定義に照らせば、本物のマーケターはきわめて稀少な存在であり、企業はその育成により尽力すべきであると痛感させられます。
 特集1は「マーケティングとは何か」「マーケターの仕事とは何か」について再考を促すものです。また昨今アメリカで積極的に取り組まれている「コーズ・マーケティング」についても紹介します。
 特集2は、ターンアラウンド(再生)に取り組む企業は必読です。拡大は簡単ですが、縮小は難しいものです。この問題について体系的な判断基準を整えている企業は多いのでしょうか。下手を打つと、組織のトラウマになりかねません。
 特集3はきわめて短い小論ですが、マーケティングのあるべき姿を喝破する内容です。マーケティング・インテグレーションの必要性はけっして薄まることはなく、今後も大きな課題の一つです。身につまされます。
 特集4は、経済学出身のコトラーならではの論考でしょう。マーケティング・サイエンスの研究者や実践者にすれば、その中身は目新しいものではないでしょうが、コトラーの別の一面を垣間見ることができます。
 特集5は、二〇〇二年八月号に掲載した「デ・マーケティング戦略」を併読してください(ちなみにHBRでの初出は七一年です)。「市場シェアを管理する」必要性は当時としては斬新なものでした。ドラッカーと同じ意味で、コトラーも創造者です。
 特集6は、芸術という領域に焦点を当てているとはいえ、紹介されている事例を、ビジネスの世界になぞらえながら読むと、コラボレーションを成立させる要件が見えてきます。
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