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MOTと知的財産マネジメントの融合 |
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評者: 妹尾堅一郎 東京大学先端科学技術研究センター 特任教授 |
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今回紹介の書籍 |
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MOT入門 |
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早稲田大学ビジネススクール=著 寺本義也、松田修一=監修(日本能率協会マネジメントセンター) |
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知的財産―基礎と活用― |
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佐伯とも子、京本直樹、田中義敏=著 (朝倉書店) |
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独創を貫く経営 |
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林原健=著 (日本経済新聞社) |
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| 経営の「旬」な領域 |
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世のなかには「旬」なものがある。旬と言えば「食物の最も味のよい時季」といった意味となろう。だが、旬は食べ物に限らない。学問やビジネスにも旬がある。ある期間、多くの研究者が特定分野の研究に集中し、その分野を急速に発展させる。結果、その知見は世に浸透していく。
昨今の技術分野の研究開発領域では、ITやバイオ、ナノテクノロジーなどがその代表である。IT分野ならば、「ユビキタス」「グリッド」が最近の旬なキーワードになるだろう。逆に、高度成長期に旬であった原子力や大型船舶、宇宙工学といった巨大システム分野は一時期の勢いを失っている。経営における旬な研究の歴史は、本誌の特集をたどってみるとよくわかる。
とまれ、「旬」とは単なる流行ではない。世のなかのビジネスや経営の動きに連動し、必要とされる研究が集中的に行われたのである。つまり、「旬」とは世のなかの動きと研究とが寄り添う、きわめて幸運な状況なのだ。
本稿では、現在まだ「旬」ではないが、「旬」になるのが明らかであり、かつなりつつある分野について論じたい。それは、「MOT」(技術経営)と「知的財産マネジメント」である。
紹介する三冊は「古典」ではない。しかしながら、今後「旬」となる分野について議論を進めるきっかけを与えてくれるだろう。
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| MOTに注力した事業創出 |
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現在、日本においては「産業活性化」がきわめて重要な課題である。その際、注力しなければならないのは「事業の新陳代謝」である。
先進諸国では、「経済成長」と「新規企業の設立」との相関関係が重視され始めている。つまり、新事業が次々と起こることが、経済活性化のバロメーターになるのだ。日本の新規事業の立ち上げ率は、先進諸国中でも特に小さいという。要するに、事業の新陳代謝が進まないことが日本の活力を削いでいるのである。
新陳代謝が不全のために、社会全体の元気がなくなる――これは生態系の比喩を使うとわかりやすい。高度経済成長時代に比して、生態系が枯渇し始めたのである。かつて若々しかった木々もいまや大木になり、大企業病にかかって久しい。周りの下草(系列中小企業群)も枯れ、新芽を吹く草木(ベンチャー)も数えるほどだ。
となれば、森全体がダメになる。産業活性化のためにも、企業内の新規事業のみならず、「企業発ベンチャー」「大学発ベンチャー」等で産業界の新陳代謝を促進しなければならない。
さらにもう一つ、産業活性化にとって重要な問題が「技術研究開発投資の非効率性」である。日本をはじめ先進諸国では、以前から、技術開発投資がなかなか成果に結びつかないことが悩みだった。そこで積極的に打開策を打ったのがアメリカである。一九八〇年代に二つの戦略、すなわち「MOTへの注力」と「知的財産戦略」(プロパテント政策)を積極的に進めたのだ。
「MOTへの注力」では、いかにして先端技術を研究開発し、いかにしてそれをビジネスに結びつけるかを徹底的に研究した。アメリカは、その成果を教育を通じて普及しようとした。それが近年のアメリカ企業の勢いに結実してきたのである。「死の谷」「ダーウィンの海」、あるいは「キャズム」等といった基本概念は、その研究の過程で出てきたものである。
ところで評者は、MOTの問題を以下四点に集約できると考えている。
(1)ナレッジが技術に至らない(研究の問題)。
(2)技術が製品やサービスに至らない(開発の問題)。
(3)製品やサービスが事業に至らない(狭い意味での市場開発の問題)。
(4)事業が成功に至らない(経営、中でも事業戦略の問題)。
ようやく日本でも、技術開発投資の非効率が問題視されるようになってきた。多大な投資が成果に結びつかないことは企業の深い悩みである。もちろん、従来は効率的であったものが近年になって非効率と見なされてしまうといった、「非効率性」自体の基準の変化も経営環境の変化と共に起こっている。あるいは、ITによる産業構造の変化で、事業における効率性の概念自体が変わってしまうこともあろう。
一方、多くの大企業では、どんなに素晴らしい技術が開発されても、年商数十億円規模が見込めなければ事業化は断念され、その技術はお蔵入りしてしまう。だが、この技術が地域の中小企業やベンチャーに移転されるならば、新規事業の創出に寄与するだろう。大学で生まれる研究成果も同様だ。
先ほどの「事業の創出」と、この「技術移転」の交差するところに、「企業発(スピンオフ)ベンチャー」や「大学発ベンチャー」の必要性が生じるのである。
そして、「新規事業」の創出・展開と、「既存事業」の革新・充実など、これらを進展させる技術革新と改革を継続的に起こせる「産業人財」が求められているのである。こうした背景からMOTの教育が注目を浴びている。
『MOT入門』は、早稲田大学ビジネススクールのMBAコースに併設されたMOTコースの教材である。本書は、MOTを学ぶ人々にとって役に立つことは間違いない。続編として、『MOTアドバンスト技術戦略』『MOTアドバンスト経営戦略』(以上、日本能率協会マネジメントセンター)とシリーズ化されており、いずれも早稲田大学の試みを世に知らしめる意欲作である。
ただし本書について、私には気がかりなことが二点ある。第一は、これらMOTシリーズが「技術系のMBA」と銘打っていることだ。類書もその点を強調しているものが多い。たとえば、『技術経営入門』(藤末建三著、日経BP社)には「猫(理系経営者)に小判(経営知識)があれば憂いなし」といったジョークとも自虐とも取れる文言が躍っている。はたしてMOTは技術者の経営教育なのだろうか。
たしかに「鬼に金棒、技術者に経営知識」は重要だ。しかし、それが「猫に小判」にならないとは言い切れない。他方、「虎に翼、経営者に技術知識」もおろそかにはできない。しかし、それが「豚に真珠」とならないとも限らない。MOTでは、技術者に経営を教えるほうがよいのか、経営者に技術を理解させるほうが適切なのか。
実は、この議論は虚しい。要は、技術基盤型産業の担い手として、事業プロデュースができる人財と、それを援ける支援人財を育てる必要があるだけなのだ。
議論すべきは「技術系vs事務系」ではない。そうではなくて、事業マインドの有無だ。事業マインドを持つ者に必要であれば、それが技術知識であれ、経営センスであれ、教育すればよいだけではないか。それはカリキュラム構成の話なのである。
第二に気がかりな点は、知財マネジメントについてほとんど触れられていないことだ。たしかに『MOT入門』では「情報管理と知的財産」について十数ページが割かれているが、それはネットワーク・ビジネスに必要な著作権に関するものであり、技術経営上最も重要な特許等の「産業財産権」に関してではない。ましてや技術を基盤とした経営を行う際に必要な知財マネジメントにはまったく触れていないのである。
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| MOT入門 |
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早稲田大学ビジネススクール=著 日本能率協会マネジメントセンター |
2002年発行 定価 2,940円 (税込) |
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| 知財マネジメントの後れを取り戻す |
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さて、先述したように、八〇年代以降、アメリカはプロパテント政策、つまり特許を中心に知的財産を戦略的に活用する政策に転じた。そして、企業は「知財マネジメント」に注力した。結果、いまやアメリカ政府と企業の知財戦略が世界をリードし、国際競争力の源泉として知的財産権がきわめて重要視されるようになったのである。
アメリカが特許や著作権等の「知的財産権」を武器に経済の再生を進めたことは、日本の「貿易立国・技術立国」政策を再考させた。日本は完全に立ち後れ、ようやくここにきて「知財立国」政策を取るに至ったのである。
しかし、いま問題視すべきは、出願件数の多寡ではない。出願件数が多いにもかかわらず、特許として認められる割合が低いこと(効率が悪い)であり、数は多いが応用特許ばかりで基本特許が少ない(基幹は欧米に押さえられている)ことなのだ。
一方、中国は日本に多くを学び、大量生産から手づくりまで、あらゆるモノづくりを請け負えるまでの実力を蓄えてきた。結果、最近では「アメリカ=知恵づくり」「中国=モノづくり」「日本=試作品づくり」などと笑えぬ図式まで出来つつあるという。
科学技術においては、情報科学、コンピュータ科学等が引き金となって、IT、バイオ、ナノテクノロジーをはじめとする先端科学技術開発に加速がかかり、その知的財産の創出と保護がきわめて重要になっている。
また、大学の社会的貢献への要請が高まると共に、大学の技術研究を産業に寄与させようという「産学連携」が強く求められている。知的財産による技術移転は、その中核である。さらに、アニメ、ゲームの著作権やブランドの重要性が認識されると共に、大きなビジネス課題になってきている。
しかしながら、このような環境変化にもかかわらず、知的財産の創出、権利化、活用、さらに訴訟対応といった一連の知財マネジメント・プロセスを自覚して遂行している企業はまだまだ数えるほどだ。ましてや知財戦略を策定し、経営戦略における知財マネジメントの位置づけを明確にしている企業はほとんどない。
つまり、経営者の認識の後れこそが問題といえるだろう。中村修二氏の訴訟で二〇〇億円の一審判決が出たことから、この知財マネジメントの問題のごく一端がようやく世間の目に触れるようになってきた。しかし、それはごく一端にすぎない。
知財マネジメントを推進するうえで、まず学ぶべき基本知識の習得に役立つのが『知的財産―基礎と活用―』である。
本書は、東京工業大学における「エンジニアリング知的財産講座」の成果を踏まえた教材だ。「知的財産とは何か」から「知的財産マネージメント」に至る全五章は、理工系の学部学生や技術者を対象として書かれている。知的財産権の法的側面や法務的側面に重点が置かれており、内容もよく整理されている。分量も半期の教科書として適切であるといえるだろう。評者の担当講義「知的資産マネジメント」でも参考書として指定している。
だが本書において残念な点もある。それは、本書は知財法務を軸とした解説に重点が置かれており、MOTと知財の関連について、ほとんど触れられていないのである。知財を軸としてどのように技術研究や開発を展開していくべきか、その解説が欲しいところである。とはいえ、理工系学部生向け教材という性質上、本書にそれを求めるのは酷であろう。
要するに、MOT関連の書籍には知財マネジメントがなく、知財関連の書籍ではMOTが触れられていないのだ。だが、MOTと知財マネジメントとは表裏一体であるべきであり、その点の研究とそれに関する書籍が待ち望まれるのである。
現在、評者は東京大学先端科学技術研究センターにおいて、知財マネジメントとMOTの融合を試みると共に、「MOTIPS」(Management of Technology & Intellectual Property School)と称する教育プログラムの開発と実施の責任者を務めている。
つまり評者は、本稿で取り上げた本を決して非難しているわけではない。また、無いものねだりをしているのでもない。「旬」になりつつある分野を指摘し、そこへの期待を込めているのである。
知財マネジメントとMOTが融合する研究が進み、その成果が学術書としても、またビジネス書としても著されなければならない。ここに紹介した二冊には、そのきっかけになってほしいのである。
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| 林原の挑戦 |
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MOTと知財マネジメントの両者を融合的に扱うことは難しい。だが、経営学ではまだ扱えていないこの課題をしっかり押さえ、世界的に活躍している企業がある。
たとえば、インターフェロンや新しい糖類の開発で世界的に有名な岡山の林原である。評者は、先日同社を訪問する機会に恵まれ、社長の林原氏から直接話を聞くことができた。
一〇〇年の歴史を誇る「家業」である同社は、長期でなければできない(すなわち、だれも手をつけない)技術研究に注力する。株式を公開した企業にこれはできない。結果、その先端技術が生まれ、かつ知財権で防備を固めた時、製品は他の追随を許さないことになる。
一方で、たとえば実験用のハムスターの飼育法などは自社内のハウツーとして秘密保持を強める。さらに、みずからは基礎的材料に特化して、他社への製品販売かライセンス供与に集中し、一般向けの商品化のリスクを回避する。要するに「オンリーワン戦略」の王道をMOTと知財マネジメントによって歩んでいるのである。
この世界的な研究開発型企業は、地域産業活性化のお手本として大いに推奨したいところである。その模様は林原社長の自叙伝『独創を貫く経営』(日本経済新聞社)に詳しい。
このように「学」のはるか先を行く「産」がいる。携帯電話の金型で世界的シェアを誇るインクスの山田社長の刺激的な経営思想などもその一つだ(『インクス流』ダイヤモンド社)。
いずれにせよ、MOTと知財マネジメントの融合に関する研究と実践は、これから「旬」に向かって胎動し始める。ぜひ、読者にもその点に注目していただきたい。
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| 知的財産―基礎と活用― |
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佐伯とも子、京本直樹、田中義敏=著 朝倉書店 |
2004年発行 定価 3,045円 (税込) |
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| 独創を貫く経営 |
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林原健=著 日本経済新聞社 |
2003年発行 定価 1,470円 (税込) |
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評者プロフィール |
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評者: 妹尾堅一郎 東京大学先端科学技術研究センター 特任教授 |
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1976年慶應義塾大学卒業、大手化学メーカーを経て90年ランカスター大学経営大学院システム・情報経営学博士課程修了。産能大学助教授、慶應義塾大学助教授、慶應学術事業会代表取締役、丸の内シティキャンパス初代校長、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授を経て2003年より現職。研究領域は問題学・構想学、知識創造方法論、知財マネジメント・技術経営論等。実践領域は先端人財育成、産学連携・学術事業プロデュース等。著訳書に『「読む」技術』『研究計画書の考え方』『雷害リスク』『問題解決という問題』(近刊)(以上ダイヤモンド社)、『知的情報の読み方』(水曜社)等がある。 |
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