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グローバル・ネットワークとしての企業 |
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評者: 黄 燐(リンは石へん) 神戸大学大学院 経営学研究科 教授 |
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今回紹介の書籍 |
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徹底検証 中国企業の競争力 |
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安室憲一=著 (日本経済新聞社) |
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国際ビジネスの進化 |
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ジェフリ−・ジョ−ンズ=著 (有斐閣) |
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市場烈々 |
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董明珠=著 (日経BP社) |
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| グローバル企業の真実の姿 |
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顧客、技術や競争条件など市場環境が激しく変化する今日、企業はその規模を問わず、否応なくグローバルな事業展開が求められている。世界じゅうに散らばる市場機会を敏感にとらえ、地球の裏側で起こる変化に対しても柔軟に対応しなければ、企業はグローバル化された競争レースから振り落とされる。企業を取り巻く取引関係や市場環境が激しく流動化するなかで、企業そのものが地球的規模に広がった「ネットワーク」に変身し、いまや企業経営の優劣が「グローバル・ネットワーク」間の競争で決まるようになった。
グローバル企業とは、いったいどのようなものなのだろうか。本稿では、グローバル企業の真実の姿、そして、グローバル・ネットワークに変身する企業と市場環境の相互作用の新しい様相について、何らかのヒントをくれる三冊を取り上げ考察したい。「グローバル・ネットワークとしての企業」とは、市場取引、OEM、提携、合併や子会社などさまざまな関係によって連結された企業の集まりを指す。この概念は「国際連結決算」の企業グループより広く、その境界はあいまいだ。
グローバル企業やグローバル競争については、偏った視点に基づく議論が多い。グローバル企業に関する誤解の一つは、グローバル競争が特定の産業に限定されているという認識である。 たとえば、自動車、家電・電子や情報通信などの技術革新が目覚ましい産業を舞台に、世界的大企業によるM&A(合併買収)あるいは提携などのニュースが日々伝えられている。グローバル競争とは、このような巨人同士の戦いととらえられているのだ。そこからは、世界的大企業間でのみグローバル競争が繰り広げられ、海外に子会社を持たない企業や中小企業は、グローバル競争とは無縁であるという誤解が生じている。
しかし、今日、国内市場における企業経営は、地球の裏で起こっている技術革新や競争から多大な影響を受けている。企業規模にかかわらず、企業が地球的規模で海外の顧客、取引相手や競争相手と密接に関係し合っている場合、その企業はまさしくグローバル企業であろう。
実際、中小企業も生き残りをかけ、世界市場の動向に目を配り、チャンスを敏感に嗅ぎ取ろうとしている。また、外資系企業の進出、あるいは地元中核企業の海外移転による雇用消失など、「産業空洞化」が急速に進むなか、一般の人々も実感をもってグローバル化を受け止めているのである。
さらに、グローバル企業は一つの支配的な姿に収斂するという議論もある。たとえば、ローカル企業が強力な競争力を有する巨大な多国籍企業によって排除され、地元経済が支配された結果、多様性に満ちたローカルな社会や文化が崩壊し、貧富の格差が世界規模で拡大すると認識されている。そこでは、企業を世界経済のグローバル化がもたらす負の側面の元凶としてとらえられているのである。
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| 「階層組織の企業」対「ネットワークの企業」 |
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国際ビジネスの経営史研究者によって書かれた『国際ビジネスの進化』は、グローバル企業の真実の姿を考えるために、幅広い視点と多くの歴史的事実を提供してくれる。たとえば、経営学の世界では、階層組織の企業が依然として支配的な地位にあるように思われているという指摘だ。また、国際ビジネス研究では、複数の国に拡張された垂直統合的な組織が、海外事業の最も一般的な企業形態ではないという主張である。
特にアメリカの研究者たちは、海外事業において、階層組織が支配的な形態かどうかという点について議論せぬまま、それを暗黙の前提としている。そこで想定される企業の姿とは、海外直接投資によって垂直統合された、アメリカ型多国籍企業である。
国境を超えた企業活動は、情報通信技術が著しく進歩した近年に始まったことではない。グローバル化の歴史は、海外直接投資によって拡張された多国籍企業の歴史よりははるかに古い。それなのに、グローバル企業に関する誤った議論の多くが、アメリカ型多国籍企業を主役として、戦後に隆起した自動車、家電・電子や情報通信などの産業の現実に偏っている。
著者は、国際ビジネスの歴史を戦後アメリカ企業の海外直接投資に限定すること自体、誤りなのだと指摘する。ヨーロッパ、アメリカ、日本の企業を比較し、近代資本主義が誕生してから約二〇〇年間に及ぶ国際ビジネスの歴史を振り返れば、世界市場で事業を展開する企業の多くは最初からグローバル・ネットワークであったことが理解できるというのだ。
一九世紀から第二次世界大戦まで、国際ビジネスの主役はイギリス企業であった。その活動の多くは階層組織を備えた大企業によるのではなく、家族経営による小企業や、ネットワークに参加した企業によって行われた。明治以降、日本の総合商社を中心にした国際ビジネスの企業形態も、階層組織によって支配されたのではない。
一九八〇年代以降、技術革新の多くは階層組織としての企業の内部ではなく、企業と企業が連結しているネットワークの結合部で起こった。また、海外直接投資で確実に支配できる事業形態よりも、合弁事業、契約、ライセンス協定および提携などの事業形態によって異なる国の企業同士が結合し、多くの国際ビジネスが組織されてきた。
今日、海外事業の多くが階層組織ではなく、競争と協調の関係から形成された複雑なネットワークによって成り立っている。このような変化は、自動車、家電、電子、情報通信などの産業のみならず、天然資源、あらゆる製造業、サービス業のグローバル化に多く見られると著者は言う。
多様性に満ちた市場環境に対しては、多様性のある企業形態のみが適応できる。複数の海外市場、多様な環境で事業活動を展開する企業は、複雑で変化の激しい挑戦を受けている。企業と市場環境との相互作用という視点から見ると、企業は複雑で柔軟性のあるネットワーク形態を採用して、市場環境の複雑さに対応せざるをえない。
このようなネットワークのなかで経営資源が移転し、企業経営の中核能力も行き渡っていく。階層組織は「境界のはっきりした」企業形態であるが、これまで階層組織を好むと思われていたアメリカ企業自体も、より複雑なネットワークに変貌しているのだ。モジュール生産の代表格であるデルのビジネスモデルを思い浮かべれば、アメリカ企業の変身ぶりがよく理解できる。
緩やかな関係によって連結されたネットワークでは、企業はたえず変化する他企業との関係を維持しつつも、もはや階層組織内部で付加価値創造活動を行おうとしなくなる。その結果、イノベーションの多くは、複数の企業が重複した場所で発生する。ネットワークに組み込まれた企業には、俊敏に環境の変化に反応し、迅速に学習できる能力が求められるのである。
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| 国際ビジネスの進化 |
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ジェフリ−・ジョ−ンズ=著 桑原哲也、安室憲一、川辺信雄、榎本悟、梅野巨利=訳 有斐閣 |
1998年発行 定価 3,570円 (税込) |
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| ビジネス・システムによるグローバル競争 |
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グローバル化がもたらす変化は、企業の姿を変えることにとどまらない。世界は多様性に満ちている。グローバル競争は、企業のビジネス・システムを一つの支配的な型に収斂させるより、むしろ新しいビジネス・システムを持つ競争相手を生み出している。
日本企業が台頭した八〇年代、日本企業のビジネス・システムはアメリカ企業のそれとはまったく異質であると認識され、系列――なかでもトヨタ生産方式のように企業グループによる「ものづくり」の仕組みが注目された。アメリカ企業は多様であいまいな関係で連結した日本企業のビジネス・システムを学習しようとした。
だが、日本的な考え方やその生産管理手法を導入しても、アメリカ企業は日本企業のビジネス・システムと同質にはなりえなかった。自動車産業を見れば明らかなように、ものづくりの仕組みそのものも、一つの型に収斂することはないからである。
二〇〇〇年頃になると、日本企業は中国企業からの挑戦を受けるようになった。グローバル競争のなかで中国企業が頭角を現してきたことは、新しいビジネス・システムの出現と考えるべきなのであろうか。
この問いにヒントをくれるのが、日本の経営学者が著した『徹底検証 中国企業の競争力』である。本書は、中国企業のものづくりの仕組みと、企業内部管理の仕組みの特異性に注目する。そこに示されるのは、最初からアメリカ企業や日本企業のグローバル・ネットワークに組み込まれている中国企業が、取引相手の海外企業から積極的に学習し、中国という特異な市場環境のなかで新しいビジネス・システムを模索する姿である。
中国企業による「ビジネス・システムの革新」というイノベーションは、世界企業のさまざまなネットワークが重複する「あいまいな境界」である中国市場で起こっている。イギリス企業は一九世紀初頭以降、ビジネス・システムの興隆盛衰に約二〇〇年をかけてきた。日本企業は戦後約五〇年をかけてグローバル市場でそのビジネス・システムを確立した。
一方、中国企業は、グローバル競争とグローバル企業のネットワークに組み込まれることを前提に、新しいビジネス・システムの確立を模索している。今後もグローバル競争の目まぐるしい変化と急激な技術革新が、中国企業のグローバル化のプロセスをいっそう圧縮させるであろう。
グローバル・ネットワークとしての企業と市場環境との相互作用の新しい様相は、すでに確立されているアメリカ企業、ヨーロッパ企業や日本企業よりも、新参者である中国企業の変化を観察したほうが、多くの示唆に富んでいると著者は言う。
グローバル競争力の基盤は、六〇、七〇年代にアメリカ企業が誇っていた優越な製品技術や新しい製造方法、八〇年代に日本企業が誇っていたものづくり、あるいは研究開発能力、経営管理能力など個々の要素に限定したものではない。むしろ、ネットワーク化した企業の内外にあるさまざまな資源と能力をすばやく調達し、環境の変化に合わせて迅速に調整して統合するビジネス・システム全体に関わる能力がより重要になる。
中国企業は、単純大量生産システムによって世界最強のコスト・リーダーシップを握り、世界各国の企業にその製品を供給することで驚異的な成長を遂げている。ただし、中国企業がグローバル競争の一角を占めるような独自のビジネス・システムを形成するまでには至っていない。それができるか否かが判明するには、まだまだ時間がかかりそうである。
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| 新興市場での俊敏さと迅速さ |
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中国市場で起こっているグローバル競争と中国企業の競争力に注目した場合、次のような疑問が湧いてくる。中国の国内市場で急成長し、高い市場シェアを勝ち取った現地企業は、どのように市場を開拓し、高い競争力を築いてきたのだろうか。
その実態を詳細に記述した書物はほとんど見当たらないが、『市場烈々』は中国企業の成長プロセスと競争力を理解するための貴重な資料である。
本書は、わずか五年で中国のエアコン市場でトップに成長した新興企業の経営者による立身伝である。著者の董明珠氏は、営業の現場から営業部長、副社長、そしてグループの経営トップになるまでの一〇年間で経験したさまざまな出来事を、当事者の視点から詳細に記述している。その記録からは、中国という制度化されていない新興市場においてビジネスを成功させるカギが浮き彫りとなってくる。
本書によれば、董氏が新興市場においてビジネスを成功に導くことができた最大の理由は、代金回収問題を解決したことである。それは、代金先払い契約販売を実行し、内部管理システムとしての厳格な財務管理制度を確立したことで成し遂げた。また、信用できない中間業者を排除し、有力な販売チャネルに対して販売促進サービスを提供して確固たる販売力を実現したことも大きく寄与している。
さらに、新興市場で起こりがちな価格競争を回避するほか、アフターサービス体制の強化、販売地域を限定するテリトリー制の導入、直接出資による販売会社設立などの「流通系列化」戦略を次々と編み出し、いっきに実施した。潜在的な需要を掘り起こすためにオフシーズンの販売キャンペーンを成功させ、返品制にもメスを入れて収益力を高める努力も怠らなかった。
同社の管理手法は、日本企業から見て、何一つ奇策はない。むしろ注目すべきは、市場と顧客の動向を俊敏に反応し、素早く対応する能力であろう。同社の成功プロセスには、中国に限らず、新興市場で競争優位を発揮し、維持するためのカギがある。また、同社の競争力は、製品力、販売力や内部管理体制などを包含したビジネス・システム全体によってもたらされている。
中国国内市場の急成長と熾烈な競争によって、中国企業は新しいビジネス・システムを生み出しつつある。そして、国内市場で競争力を増し、海外市場へ進出し始めた。そこで起こっている変化と競争は、もはや日本企業とは無縁ではない。
グローバル・ネットワークでの競争に関して理解のない企業は、目前に起こっている現実しか認識できない。また、競争の焦点が技術を超えて、ビジネス・システム全体に広がっていることを理解しなければ、新たに出現した競争相手の脅威も認識できない。
グローバル競争は、企業の姿を変えているだけでなく、市場環境と企業との関係も大きく変化させている。この変化に対応するためには、グローバル企業に関する誤った理解を改めることが第一歩であろう。
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| 徹底検証 中国企業の競争力 |
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安室憲一=著 日本経済新聞社 |
2003年発行 定価 1,890円 (税込) |
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| 市場烈々 |
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董明珠=著 漆嶋稔=訳 日経BP社 |
2003年発行 定価 1,890円 (税込) |
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評者プロフィール |
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評者: Huang Lin 神戸大学大学院 経営学研究科 教授 |
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1979年北京大学入学、85年神戸大学経営学部卒業、90年同大学経営学研究科博士課程修了(商学博士)。専攻はグローバル・マーケティングと流通システム論。著書に『新興市場戦略論』(千倉書房)、『WTO加盟後の中国市場』(蒼蒼社)、『流通空間構造の動態分析』(千倉書房)などがある。 |
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