|
|
 |
 |
 |
 |
 |
 |
 |
戦略的CSRマネジメント |
 |
 |
 |
評者: 水尾順一 駿河台大学 経済学部 教授 |
 |
 |
 |
 |
今回紹介の書籍 |
 |
|
 |
 |
 |
企業社会責任の経営学的研究 |
 |
 |
 |
森本三男=著 (白桃書房) |
 |
 |
 |
企業戦略と倫理の探求 |
 |
 |
 |
R.エドワード・フリーマン、ダニエル R.ギルバート ,Jr.=著 (文眞堂) |
 |
 |
 |
価値創造企業 |
 |
 |
 |
J.ドノバン、R.タリー、B.ワートマン=著 (日本経済新聞社) |
 |
|
 |
 |
 |
 |
 |
 |
 |
 |
 |
 |
 |
 |
 |
 |
 |
 |
 |
| CSRの領域、ベクトル、そして責任レベル |
 |
現在、ISOの規格化をテーマとしてCSR(corporate social responsi-bility:企業の社会的責任)に世界的関心が高まりつつある。CSRとは何か――これを定義する前提として、二つの枠組みを提起したい。
第一は、企業が働きかける「対象」としての「企業内(組織)へのベクトル」と「企業外(社会)へのベクトル」である。つまり企業のステークホルダー(利害関係者)についてだ。
ステークホルダーの満足を追求する企業行動は、企業の持続可能な成長や発展の根幹をなす。「ブランド・エクイティ」という概念があるように、企業の利害関係者を「ステークホルダー・エクイティ」と見なすこともできよう。「啓発的自己利益」、すなわち企業が利害関係者の利益を尊重することが、企業自身の長期にわたる利益の源泉になるという見方である。
第二は、取り組む「領域」としての「予防倫理」と「積極倫理」の二つの方向性である。予防倫理の領域は、社会や企業をさまざまなリスクから保護し、社会に対する不祥事の発生を未然に防ぐ活動である。
積極倫理は、地球環境への積極的な適合を図る活動、地域との交流や奉仕活動、弱者救済のための支援活動など、企業組織と社会の健全な成長を保護、促進する目的を達成するための積極的な支援活動である。
これら二つの枠組みを基に、CSRの「責任」レベルを規定すれば、法的責任、経済的責任、倫理的責任、社会貢献的責任の四つの階層構造に区分できる。そのうえで、CSRとは、「企業組織と社会の健全な成長を保護、促進することを目的として、不祥事の発生を未然に防ぐと共に、社会に積極的に貢献していくために企業の内外に働きかける制度的義務と責任」と定義することができよう。
|
 |
 |
| 温故知新のCSR |
 |
『企業社会責任の経営学的研究』は、CSRに対する消極論と積極論、CSRの方法論、企業業績との相関性の分析理論などについて、その歴史をたどりつつ、その深層を探求している。
本書では、ミルトン・フリードマンたちが主張するCSRの消極論について、「利益追求と公益の追求とは合致すると主張する一方で、利己心と他利心は両立しないという自己矛盾を起こしている」と著者は指摘する。そして、結果的に消極論は、エドワード・フリーマンやアーチ・キャロルたちが主張する積極論の反面教師として、積極論の展開に貢献することとなる。
本書は、CSR積極論の内容について、キャロルらの理論を援用しながら「CSR修正三次元モデル」を整理・体系化し、CSRの方法論から実践理論に至る基盤を築き上げた。
まず第一次元として責任範疇を「法的責任―経済的責任―制度的責任―社会貢献」として下位から上位レベルへと段階的に高次化させた。法に違反する企業の社会貢献は無意味であるわけだ。第二次元はCSRに期待する内容についてである。たとえば法的責任では、賃金や納税など「経済的環境」、障害者雇用やPLなど「社会的環境」、製品安全基準や排ガスなど「物的環境」に区分する。そして第三次元は、CSRに対する社会からの要請に取り組む企業の実践姿勢である。何もしないという意味の「反発」から、予想されることへの事前対応の「防御」、前向きに取り組む「調和」、そしてリーダーとして積極的に対応する「賛同」の四段階がある。しかし、この姿勢は必ずしも段階的に発展するのではなく、初期段階から賛同ということも十分考えうる。
企業システムを戦略的視点からとらえれば、部分最適ではなく全体最適の視点から議論されなければならない。従来、CSR全体を把握して、その取り組みを評価するシステムは構築されえなかった。本書はその点からも有意義な手法を示唆し、近年多くの企業が採用する環境会計やCSR会計のヒントも明示してくれる。
CSRへの実践的取り組みには、CSRと業績との相関性から論じられれば説得力を増す。本書によれば一九七六年、通産省は企業考課を実施し、社会貢献活動への取り組みを企業みずからが評価し、業績や従業員のモラールとの相関性を分析した。それによれば、企業の適度な社会貢献活動は社会からの評価を高め、従業員からも賛同を得て、業績とモラール向上を通じて善循環の高まりが期待できるという。
だが、過剰な社会貢献活動はあるポイントを頂点として財務負担が大きくなる。同時に従業員の賛同も得られず、業績は逆相関を示す。CSRの財務負担については、アメリカ企業の事例から考えれば、税引前利益対比で三%が上限であると評者は考える。
本書は最後に、社内外のステークホルダーから共感を得ながらCSRと企業業績を長期的に拡大均衡させていく「均衡的CSRによる長期的企業オプティマム」という命題を提起する。これは、本業と一体の下で独自性が高いCSRの実践、活用可能な経営資源の明確化、段階的責任の遂行などを通じてなしうるものである。また、経営理念を踏まえた「CSR行動基準」の策定なくしては実現しえない。CSRのあり方を考える日本企業にとっては忘れてはならない教訓である。
|
 |
|
 |
 |
 |
|
|
 |
| 企業社会責任の経営学的研究 |
 |
森本三男=著 白桃書房 |
1994年発行 定価 4,095円 (税込) |
|
 |
 |
 |
 |
 |
 |
 |
 |
 |
| CSRの戦略的アプローチ |
 |
企業によるCSRへの取り組みは、「慈善活動」であっても「慈善事業」ではない。企業の営利活動の一環として積極的に取り組むという意味から、CSRはコストではなく、「戦略的投資」としてとらえる必要がある。当然、経営理念やトップの意思、それを踏まえたCSR行動基準・企業倫理規定に適合することが求められる。企業倫理は、企業が持続可能な成長を目指すうえで枢要な価値観となる。それはまた、戦略的CSRマネジメントの根底をなすものでもある。
戦略的CSRマネジメントは、次の三つの視点からスクリーニングを行い、PDCAのマネジメント・サイクルのなかで継続的に改善しなければならない。第一の視点は、ビジネスチャンスとビジネス・リスク、社会的適応性の「市場環境要因」である。
第二は、「経営資源要因」である。ヒト・モノ・カネ・情報・文化で構成される経営資源は、質と量、範囲とレベルなどの強みと弱みを把握し、分析する。自社の経営資源で困難な場合には、NPOとの連携やアウトソーシングも検討課題となろう。
そして第三は、「意思決定の前提与件」である。これは長期性と継続性、選択と集中による社会への効果的な作用をもたらす有効性と、最小のインプットで最大のアウトプットを産出する経営資源の効率性なども与件となる。さらに、アウトプットがもたらす多様な作用のシナジーも意思決定の前提でなければならない。
こうして市場環境要因の視点から「方向性」、経営資源要因の視点から「可能性」が検討されれば、意思決定の前提与件を踏まえて、「自社の持続可能な成長」が次なる戦略的判断基準となる。
日本では、これまで企業の不祥事が繰り返され、学習効果の蓄積が見られず、企業倫理の定着は果たしえなかった。日本企業において「企業倫理も重要な全社戦略の一つである」という議論が閑却されてきたためである。
『企業戦略と倫理の探求』は、戦略と倫理の統合に対する必要性と可能性、さらにはその方法論的命題を探求している。本書は知的推論を超え、多様な相対主義について分析すると共に、組織や企業、個人を鏡に投影しつつ、道徳的見解と企業の意思決定の間にある密接な関係を表現する役割を体系的に論じている。
企業戦略の根底に、確たる価値観と倫理的観点が重要だと指摘し、「社会に敏感に対応する」ことと「その時々の都合で変化する」ことを混同するCSRに対しては、「場当たり的戦略」として否定する。
社会の動向に過剰反応を示す企業行動には戦略が不在だが、逆にその動向に鈍感すぎる企業行動には社会の共感が得られない。時代の変化を察知し、問題を先取りする社会的反応は企業戦略上も重要であり、CSR活動の社会的適応性や一貫性など「社会的責任を
“戦略的思考”でとらえる」理論の重要性がそこにあると評者は考える。
本書はまた、事業戦略の理念型を分析し、超優良企業に至る基本的考え方が「個人の尊重」にあることを明らかにした。個人の尊重とは、「顧客や従業員などの一人ひとりを完結した全人格的な存在として見ることであり、換言すれば、それは顧客や品質への配慮の基底をなすもので、結果として企業の公約や業績を理解するカギとなる」と主張する。
個人の尊重は、日本企業が再考すべき緊要の課題でもある。ここ数年の企業不祥事を鑑みた時、個人を尊重する消費者重視の経営が求められているのは万人の認めるところである。また、人権への配慮、男女共同参画、さらには労働環境や雇用の確保など、ワークスタイルの改善と支援なども従業員の尊重という点で必要不可欠である。
このような日本企業の現状を考えれば、今後の企業経営には「(多様な)個人が自主的に物事を選択でき、高度な自律性を持つことができる価値観が最も重要である」という著者らの指摘は、時宜を得たものといえよう。
|
 |
 |
| 戦略的CSRマネジメントと企業の価値創造 |
 |
戦略的CSRマネジメントの概念を実践するには、具体的な方法論や手法も必要である。『価値創造企業』は、企業価値を創造するための実践的な道標、すなわち価値創造経営という概念を導入する手法を具体的に提供してくれる。この手法は、日本ではEVA(経済的付加価値)やCFROI(投下資本に対するキャッシュフロー・ベースのリターン)という表現で呼ばれ、企業価値を測定する有力な手法として導入する企業が近年増えてきた。
本書は副題に「株主、従業員、顧客――全ての満足を最大化する経営改革」とあるとおり、CSRのベースとなるステークホルダーのなかでも特に株主、顧客、従業員の三者のバランスを重視する。そして、三者に対応する市場としての資本市場、製品・サービス市場、労働市場における価値実現のあり方を経営に取り入れている。
価値創造をアメリカ型の株主価値に限定するのではなく、重要なステークホルダーである顧客や従業員までをも含めて考えるべきという主張は、評者が論じる「ステークホルダーを起点とした戦略的CSRマネジメント」に共通する。
企業は優秀な製品や顧客サービスを提供することでさらなる成功に結びつけ、その成功を通じて内部組織的には競合他社を凌駕する報酬体系で従業員と価値の共有を行うことができる。また、優秀な人材の確保はさらなる企業の発展につながり、善循環の経営に結びつけることができる。
資本収益率の評価には、通常ROI(投下資本利益率)やROE(株主資本利益率)が使用されるが、本書ではCFROIを取り上げている。CFROIは、企業が将来にわたって生み出す継続的なキャッシュフローの測定を目的とし、価値を将来のキャッシュフローの関数と見なして、キャッシュフローとそのタイミングやリスクを考慮する。これは企業価値に関する短期予測のみならず、企業の長期計画にも反映させることができる。
本書は、企業がこの価値創造経営を実践するうえでの重要な二つのポイントを指摘する。第一は、顧客価値の評価分析で、企業の製品やサービスの品質と価格を市場シェアと連動させた「顧客価値マップ」の作成である。
第二は、企業全体の業績評価と従業員の業績評価との連動である。従業員価値ベースの報酬制度は、従業員個人の職務、グループへの貢献、部門および企業全体の業績との連動が枢要となる。長期的な価値最大化という共通目標の追求は、評価システムも共通の土俵で実践することで、全社一丸となった企業文化の醸成を可能にする。
すなわち著者が論じるように、報酬やトレーニングなどの価値創造や、多様なリスクによる価値破壊など、企業価値に影響を与えるパラメーターとしての「価値ドライバー」を明確に定義し、組織内に浸透させたうえで、個人レベルでの企業価値に対する貢献度を業績評価の指標にすることが重要なのである。
従業員価値の共有とは、組織全体で個人レベルと組織全体の評価の連動を図ることである。そのためのインフラ整備、すなわち細分化された事業単位やグループさらには個人レベルで売上げ、利益、コストなどの業績と貢献度が掌握でき、それらが報酬や人事体系と一体化した情報システムの再構築も必要となる。
戦略的CSRマネジメントも、明確な業績評価システムが前提となり、企業全体の評価との連動を通じて、個人の活性化と、結果として前著にある「個人の尊重」によって企業全体の価値創造に結びつく。
なお、本書においても若干触れられているが、企業のステークホルダーには、ほかにも取引先と地域社会(地球環境も含める)が存在するわけで、彼らの価値創造も考慮しなければならないことは言うまでもない。
レイモンド・チャンドラーが残した「強くなければ生きていけない、優しくなければ生きている資格がない」という言葉のごとく、二一世紀を生き抜かんとする企業には、持続可能な成長を目指し、経済価値追求の「強さ」と社内外のステークホルダーへの「優しさ」双方が求められる。その意味から、この三冊は戦略的CSRマネジメントを洞察し、「強さと優しさを兼ね備えたい」と願う読者に光明を与えてくれるに違いない。
|
 |
 |
|
 |
 |
 |
|
|
 |
| 企業戦略と倫理の探求 |
 |
R.エドワード・フリーマン、ダニエル R.ギルバート ,Jr.=著 文眞堂 |
1998年発行 定価 4,410円 (税込) |
 |
 |
 |
 |
 |
 |
 |
 |
|
|
 |
| 価値創造企業 |
 |
J.ドノバン、R.タリー、B.ワートマン=著 日本経済新聞社 |
1999年発行 定価 2,100円 (税込) |
|
 |
 |
 |
 |
 |
 |
 |
 |
|
 |
 |
 |
 |
評者プロフィール |
 |
 |
評者: 水尾 順一 駿河台大学 経済学部 教授 |
 |
 |
 |
1970年神戸商科大学商経学部卒業、同年資生堂入社。コーポレート・デザイン室課長、法務部課長等を歴任後、99年退職、同年駿河台大学経済学部助教授、2000年より現職。博士(経営学、専修大学)。専門は経営倫理論、ブランド論。著書に『セルフ・ガバナンスの経営倫理』(千倉書房、2003年)、『ビジョナリー・コーポレートブランド』(白桃書房、編著、2003年)、『マーケティング倫理』(中央経済社、2000年)、『化粧品のブランド史』(中央公論社、1998年)などがある。 |
 |
|
 |
 |
|
|
 |
 |
|
|