モチベーションを高める「進捗の法則」
リーダーにとって、「部下の意欲を高めること」は昔もいまも変わらぬ課題として挙げられます。課題解決に有効な手段として浮かぶのは、「適正な評価」「明確な目標設定」「インセンティブの付与」などでしょう。そのほか、「対人関係の支援」「仕事の進捗の支援」などもあります。ところで、これらのうち、もっとも効果が高いのはどれだと思いますか。
ハーバード・ビジネス・スクール 教授 テレサ M. アマビールらの調査によると、マネジャーが掲げた答えには、「評価」「目標」「インセンティブ」などが多く、一方で「仕事の進捗の支援」を挙げる人が少なかったといいます。この結果に対して、アマビール教授らは「マネジャーの多くは勘違いしている」と指摘します。教授らは15年以上もの間、知的労働者の生産性に関する研究に取り組み、社員の本音を調査した結果、その行動にもっとも大きな影響を及ぼすのは「社員が日々の進捗を感じること」という結論(これが論文のタイトルの「進捗の法則」になります)に至りました。
論文では、マネジャーがどのように「進捗の法則」を活用したらよいかから、進捗のほかに有効なものは何かまで、生産性を高める方法について説明しています。なかには、知らずしらずのうちに部下の仕事への意義を失わせる4つのケースといった、マネジャーによっては少々耳の痛い記述もあります。具体的な方法論は本誌をご覧いただくとして、ここではアマビール教授らがどのようにして、この「進捗の法則」を見出したか、その手法に着目したいと思います。というのも、この手法は私たちが日々のビジネス・シーンに取り入れることで、生産性を高めるのに役立つと考えたからです。
人が行動を起こす、あるいは起こさない理由は複雑で、ときには自分自身でさえもわからないときがあります。したがって、部下に「その仕事に精を出さないのはなぜだ」「なぜ、人の足を引っ張るようなことばかりするのか」と問うたところで、本当の答えが得られるとは限りません。そのような状況において、今回の研究では個々の社員の心の中をどのように探ったのでしょうか。その答えは、「日誌」にあります。教授らは26のプロジェクトに携わった238人のプロジェクト・メンバーに、その日の仕事内容や最も印象に残った出来事のほか、気分やモチベーションの高低などを日誌に記入してもらいました。こうして集めた1万2000近くにものぼる、気の遠くなるような膨大な日誌データを緻密に分析して、気分がよい日には何が起こったか、何が仕事の意義を失わせているのかを調べて、論文の結論を導き出しました。
私たちは日々のコミュニケーションが大事だと言いますが、言葉のやり取りだけで本音を探るには限界があります。実際、声なきところに、相手の本当の思いやメッセージがつまっていることが少なくありません。たとえば、心理学を学んで相手のしぐさから心のなかを読みとるような手法もありますが、同様に「日誌」につづられた行間にも多くの真意が隠れていることが、この研究を見るとわかります。このように、今回紹介する論文「進捗の法則」は、「進捗」のもつ影響力を再認識するのに有効であると同時に、社員の本音を引き出すためのプロセスにも読みどころがあるといえます。
ちなみに、この「進捗の法則」は、研究の重要な要素である「インナー・ワーク・ライフ」(感情、モチベーション、認識の相互作用)の質の向上が前提となっています。以前、本誌に発表された論文「知識労働者のモチベーション心理学」(DHBR 2008年3月号)に詳しい説明があります。また、こちらには調査方法に関する詳細な記述もありますので、より正確な調査のプロセスを知るには両論文を併せてご覧いただくことをお勧めいたします。(編集部)
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2012年04月10日