自分の思い込みで素晴らしいアイデアを諦めるな

このアイデアを製品化・サービス化すれば、明らかに需要がある。そして、自分にはそれを実行するリソースもある。だが、それでもやらないこともあるだろう。失敗を恐れているからではない。あまりに真っ当すぎるアイデアだと考えて、そのうち誰かがやるだろうと勝手に思い込んでしまったからだ。あなたにとって当たり前の気づきであっても、それは世の中を変えるような、創造性に満ちたアイデアかもしれない。


 絶対にうまくいくとわかっていた革新的なアイデアを、私は8年間、実行に移さなかった。

 そのアイデアには、技術的な裏付けがあったばかりでなく、社会的価値もあった。実行に移せば、米国内の極めて重大かつインパクトの強いチャリティーへの寄付を後押しできるはずだった。けれども私は、そのアイデアを放置し続けた。

 私が一歩を踏み出さなかった最大の理由は、恐怖ではなかった。多忙や怠惰といった、起業家精神を阻むよくある原因からでもなかった。最大の理由は他にあった。

 それは、アイデアが自明に思えたからだった。あまりにまっとうなアイデアだったので、他の誰かが必ず実現すると私は確信していた。だから、私が行動を起こすのは時間とエネルギーの無駄遣いになると思い込んでいたのである。

 私は間違っていた。アイザック・アシモフやスティーブ・ジョブズら、著名なイノベーターたちの話にちゃんと耳を傾けていたら、とうに気づいていたはずだ。自明性とはすなわち、創造的プロセスに共通かつ重要とさえ言える要素なのだ。

 あなたがスタートアップ企業を立ち上げる可能性を検討しているのなら、あるいは組織内に変化を起こしたいのなら、私の経験から学んでほしい。かつての私のように、先延ばしにしてはいけない。

 何年もの間、私はバーで、チャリティー団体のために資金集めをするイベントを主催してきた。友人たちに声を掛けて集まってもらい、理念について意見を交わし、その理念を実現しようとしている団体に関する情報を提供した。写真を見せ、話をし、各チャリティー団体がどのように役立っているかを説明したのだ。

 こうしたイベントに集まる面々の中には若い投資銀行家たちもいて、500ドルとか1000ドルを一度に寄付すると言ってくれることも少なくなかった。そういうとき、私は彼らに礼を言い、小切手を切ってくれるかと尋ねた。「小切手?ないですよ」と、彼らはたいてい言った。「25歳が小切手なんて使いません」

 そこで私は、ウェブサイト経由でチャリティーに寄付できることを説明した。だが、バーにいる間に携帯電話でネットにつないでウェブサイトを閲覧してくれと頼んでみても、うまくいかないことのほうが多かった。たいていこう言われた。「あとで、自宅のコンピュータから探して寄付します」。彼らは善意のかたまりだったが、あとで実行してくれることはほとんどなかった。

 結局、こういうイベントで集められる寄付金は現金に限られ、多くの場合は、たまたま余分な金を持ち合わせていた人たちからかき集めた20ドル紙幣の束で、合計しても数百ドル程度にしかならなかった。

 その一方で、同じイベントでバーの勘定を支払う段になると、全員で割り勘してベンモー(Venmo)などの個人間送金アプリを使って互いに差額を清算していた。そのとき、私は気づいたのである。米国を拠点とするチャリティー団体のどこにでも寄付することができる、シンプルなアプリがあってしかるべきだ、と。

 自明だと言った意味が、わかっていただけただろう。

 このようなツールを構築するチームをすぐにでも組めるとわかっていたが、他の誰かが実行するはずだと私は考えた。そう思い込んだまま、何もせずにいたのだ。だが私はこのとき、自明だからこそ、このアイデアを一歩前進させるべきだったのである。

「クリエイティブな人に、どうやってそんなことを思いついたのかと尋ねると、誰もが少し後ろめたい気持ちになる。なぜなら、実際には何もしていなくて、単に物事が見えただけだからだ。それはしばらくすると、ごく自明のことのように思えてくる」と、スティーブ・ジョブズは1996年にテクノロジー雑誌『WIRED』に語っている。「クリエイティブな人は、自分の経験と結びつけて新しい物事を生み出すことができるからだ」

 アイザック・アシモフは1959年、同じ考え方をあてはめて、「チャールズ・ダーウィンとアルフレッド・ラッセル・ウォレスがいかにして、それぞれ独自に『自然選択による進化論』にたどり着いたか」を著述している。2人とも探検旅行をして、植物と動物の生態の多様性を観察した。2人とも、トマス・ロバート・マルサスの『人口論』を読み、『人口論』が生態の多様性を説明するのに役立つ可能性があることに気づいた。「いったんこのコネクションが成されると、あとは自明になる」とアシモフは著した。彼の記述によれば、生物学者トマス・ヘンリー・ハクスリーは、「『種の起源』を読んだ後、『このことに気づかなかったとは、私はなんて愚かなんだ』と叫んだと思われる」。

 ミネソタ大学から発表された論文によれば、自明なことに気づくことは「創造的プロセスの5段階」の重要な一部である。

「すべてが明晰に見えるとき、あなたの解決策は自明でシンプルであるように思える。だが実際には、シンプルに見える理由は、すべてのピースがしかるべき場所に収まり、あなたの解決策を照らし出すからだ」と、同論文は述べている。

 ただし、これにはもう1つの側面がある。すなわち「自明な」答えがほとんどの人にとって自明ではない、という点だ。なぜなら、たいていの人がそもそも、問題について考えていないからだ。

 アイデアは、問題を認識して斬新なソリューションを探す人にしか訪れない。ダニエル・スミスがその著作How to Think Like Einstein(未訳)の中で説明しているように、「間違った問題を抱えていたら、アインシュタインでさえ解決策を見つけられなかっただろう。可能な問題、つまり、当初の期待とは異なる独創的なソリューションが可能な問題に取り組む必要がある。その偉大な問題を見つけるには、特にソリューションが自明に思えるときには、熟慮が必要だ」

 ついに、私はアイデアを前に進め、Givzを共同創設した。そしてこの経験が、パートナーやステークホルダーからの問い合わせに備えるのに役立った。

 最近、某社の代表者の不安を和らげる必要があり、私は、シンプルに聞こえるアイデアが、実際シンプルであることを説明していた。

「本当ですか」と相手は言った。「それなら、すごく簡単ですね」

その通り。


HBR.ORG原文:Don’t Give Up on a Great Idea Just Because It Seems Obvious, December 07, 2018.

■こちらの記事もおすすめします
戦略の立案と実行を隔てる4つの溝の正体
賢明なリーダーはまず実行し、その成果を「戦略」と呼ぶ

 

アンドリュー・フォアマン(Andrew Forman)
オンライン慈善寄付プラットフォームGivzの共同創設者。