Future Vision 経営の未来
一般論では語られていない
製造業におけるDX推進の現実問題

株式会社ISIDビジネスコンサルティング

デジタルトランスフォーメーション(DX)による新たな顧客体験の創造やビジネスモデル変革の重要性は至る所で語られている。だが、製造業におけるDX推進については、一般論では語られていない現実問題があり、それを克服しない限りDXは絵空事で終わってしまう可能性がある。

ISIDビジネスコンサルティング
経営戦略コンサルティング本部長 寺嶋高光氏と代表取締役社長 一丸丈巌氏

形ある製品・設備を持つ
製造業ならではのDXとは

 昨今、DXに関する多くの書籍や記事では、デジタル化時代の競争に打ち勝つために、AI、IoTなどの先端技術を活用した経営改革を実施し、新たな顧客体験の創造やビジネスモデル変革につなげる重要性が語られている。

 加えて、縦割り組織に阻まれて横断的な連携が取れない、レガシーインフラが足かせとなり戦略的投資ができない、主力事業部門からの反対で変革が進まない、といったDX推進時に直面する困難と、解決策としての組織変革手法がよく紹介される。

 DX実現支援に数多く携わっている我々からしても、こうした指摘に異論はない。しかし、とくに製造業に関していえば、世の中で語られるDXに関する一般論では十分でないと感じる。

 DXは、音楽・映像などのデジタルコンテンツを扱う産業から進展し、形ある製品を便利に使うライドシェアなどのサービスに広がった。ただし、この段階では、まだ製品自体はその形を変えていない。むしろDXが進む過程で製造業や製品自体の価値は、相対的に低下している。今後、製造業のDX推進では、製造業だからこそできる製品自体の価値向上も含めて新たな顧客体験の創出などを実現する必要がある。

 たとえば、各種のセンサーなどを通じて、製品が日々どのように使用されているかという稼働状況ばかりでなく、使いながら顧客が何を感じているかといった情報まで定量値として把握することも、技術的には可能になっている。これらの値の時系列推移や相関関係の探索から、製品機能および顧客体験価値を高めていく試みが考えられる。

 あるいは、ものづくりの現場では、デジタル空間に物理寸法を含む工場を再現し、レイアウト・工程品質・リードタイムに対する高精度の検証を行うことも可能だ。これにより、少ない人的リソースで柔軟なものづくりを実現させ、タイムリーかつ低コストで、個々のユーザーに適合した製品を提供することも視野に入るであろう。

 しかし、これらの取り組みは、限定された実験の場ではうまくいっても、実業務に広く展開することが難しい。デジタル世界に取り込まれたデータの分析結果をもとに、多様な機能・機構を持つ現実世界の製品や生産設備の挙動を変える際に、複雑に絡み合う各要素の不整合を原因とした不具合や事故が発生することが許されないからだ。

製造業のDXでは、図に示すとおり、取り扱う情報の種類と量が格段に多い。また、関連情報の所在も複数部門にまたがっている。整合性の確保に向けては、現実世界を射影するデジタル世界での情報構造を定義し、それらを横断的につなげる必要があり難度が高い。

構造化されていない情報では
DXの成果が出せない

 製造業の上流工程は、企画・設計・生産技術で構成されている。企画部門での商品企画書、設計部門でのCAD図面、生産技術部門でのQC工程表や生産設備仕様など、各部門が生み出す情報が上流から下流に向けて詳細化されながら、製品が形づくられていく。

 DXを通じて製品価値を高めるには、工場、販売・サービス現場、製品利用環境という下流工程(発信側)で生まれる膨大なデータから意思決定に必要な情報を見極め、上流工程(受信側)に迅速かつ適切に反映しなければならない。その際、予期せぬ不整合を防ぐには、情報の構造化が不可欠である。

 情報の構造化とは何かを簡単に説明しよう。発信側の情報は、実態データ、原単位データ、背景データに大別される。実態データとは製造現場や利用環境における各オペレーションの実績であり、原単位データとは実態データの良し悪しを評価するための指標。背景データは、実態データに何らかの特徴的な傾向が見られる場合に、その意味付けを補足する情報である。受信側の目的に応じてコンパクトに設計された3種の発信側データが揃って初めて受信側にとって意味のある情報となり、アクションにつなげることができる。

「見える化」と称して大量の実態データを集めても、成果を出せずにいる例がよく見られる。これは、原単位データと背景データを意識していなかったり、取得がうまくできていなかったりして、データを正確に解釈できないからだ。原単位データは、紙に印刷されたデータや表計算ソフトのデータとして散在しており、デジタルデータとしての登録には労力を要するが、画像スキャンとAIによる画像処理技術の活用がその軽減に役立つ。また、背景データ取得の難しさは、下流工程ではどのようなデータを取ればいいのかわかりにくい点にあるため、受信側の目的と情報構造の理解が必須である。

 一方、受信側の情報は、製品がどんな要求を満たすかという要件データ、要件に沿うために製品がどんな機能を持つべきかという仕様データ、仕様が要件を満たせるかを検証するための解析データで構成される。互いが関連付けられることが、下流工程に精度の高い情報を速く流すために必要である。

 この受信側の3種データを発信側から来る3種データに基づき変化させ、製品開発過程に沿って流す必要がある。しかし各部門内でのデータ構造化と部門間での情報連携がそもそも十分でないため、情報がうまく伝わらない例が多い。まずは、昨今充実してきたデータ連携ツールなどを活用して、情報連携基盤を確立することが求められる。

 こうした製造業特有の情報構造の設計・構築を含めてDXを推進するには、一般的なDXで語られる組織改革手法、IoTやデータ分析などの技術に加えて、製造業の文化、事業・組織・製品の構造、業務プロセスへの深い洞察が必要になる。我々は、多くのプロジェクトを通じて蓄積してきたこれらの知見をもとに、今後も製造業のDXを全力で支援していきたいと考えている。

■お問い合わせ
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