イノベーションに貢献する調達組織へ
進化するためのデジタル活用

調達組織のミッションを、ルーティンワークとしてのコストの番人から、製品・サービスのイノベーションに対する貢献へシフトしていきたいと考えるCPO(Chief Procurement Officer)は多い。どのように組織や仕事のあり方を変えていけば、そのミッションに応えていくことができるのか。その過程における、3つのポイントとこれに含まれるデジタル化の要諦に触れながら、論じていきたい。

1.CPOによる探索対象の明示

 自社の調達組織は下記3つの選択肢のどの項目に当てはまるだろうか。

a. 調達組織のメンバーは、「個々人が主体性をもって動け」と指示されている
b. 調達組織のメンバーは部署内で活動目標を討議して決めている
c. 調達組織のメンバーには、四半期に一回CPOとCRO(Chief R&D Officer)で確認した探索対象が明示されている

 自社の調達組織のメンバーは、項目cにあるように、探索すべき新規技術、コスト分解すべき素材・工法の対象を明確にして業務を遂行しているか。実際は、aとbという回答が多いと思われるが、イノベーションに貢献する調達組織へ進化するためには、まずトップからの方向づけが重要である。

 部材の内外製判断について、またこれを受けてコスト競争力を磨き込むべき領域について、CPO・CROは定期的に協議する必要があり、その協議結果をトップダウンで調達部隊に活動方針として落としていくべきである。そうすることで、開発部門に対する付加価値の提供の仕方が明確になり、調達部隊は活動の組み立てに迷いが少なくなる。個人技で組織の壁を超えて開発部門に働きかけたり、連携したりする手間が大いに省けることになるのだ。

 そのような主体性を持ったメンバーはCPOが期待する数よりも、はるかに少ない傾向にあり、実際、「緊急開発」的に全社号令がかかるプロジェクトに就いているメンバーに限っては、個々人が主体性を持って動くが、その他大多数はコストの番人的ルーティンワークを行っている比率が高い傾向にある。

2.インサイト抽出業務のデジタル化

 調達活動の方向づけをCPOがしたとしても、個々人のレベルでは現業務を圧縮しなければ、マンパワーを割くことはできない。個人差はあれど、調達組織の1日のスケジュールはおおむね多忙である。ある入社8~15年、担当クラスの調達組織のメンバーの1日を例にすると、立案済みの各種施策の実行や進捗確認を中心とした他部門との打ち合わせや、プロジェクト案件の打ち合わせで午前中は終了。合間に決裁・ワークフロー処理や伝票の入力・データ抽出などに費やされる時間が入り、落ち着いて考える仕事ができるのは夕方からとなり、コスト分析や原価低減施策を集中して考える時間は1日2時間程度しかない。

<ある調達組織のメンバーの1日>
・AM9時 メール処理、急ぎの連絡・回答をする
・AM10時 社内他部門とプロジェクト進捗定例会議
・AM13時 社内他部門との確認事項を受けて、取引先に対する電話・各種指示
・AM15時 高額品の決裁処理
・AM16時 サプライヤー来訪、会議
・AM17時 製造部との会議(QCD=Quality, Cost, Delivery)
・AM18時~ 自分の業務の時間(コスト分析、原価低減施策の立案、上司と相談)
・AM20時~21時 残業: エラー伝票処理、データ抽出

 この結果を踏まえ、調達部隊がイノベーションを思考できる余力・時間を生むためには、できる限りデジタルの力で、ルーティンワークの自動化・省力化を進めるべきである。伝票処理、データ抽出といったノンコアワークはもちろんのこと、従来からコアワークの一つとされてきた情報リサーチ・コスト分析の一部をデジタル化することによって、網羅的な定点観測とそのデータの蓄積も可能になる。

 たとえばクラウドベースの調達ソリューションを提供するCOUPAは、同ソリューションを使用する企業のコミュニティのなかで、非競争領域と認識される、主にコモディティ品目に限って、単価ベンチマークを交換するCommunity Intelligenceを展開準備している。間接材からやや直接材に近い副資材までは、このようなCommunity Intelligenceのデータを自社調達システムに上がってくる単価データとつないで、PUSH型でインサイトが上がる。このようなプロセスの導入は、人員一人当たりのカバー金額を上げ、余剰人員をより直接材の戦略・企画的なワークにシフトするために有効である。

 また、クラウドコマースプラットフォームのGT Nexusは、基幹系ERPよりも細かい粒度で、会社横断的にバリューチェーン上のボトルネック予兆をとらえることができる。この情報を購買担当者が発注・納期管理を行うプロジェクト情報と連携させることで、プロジェクト進捗定例会議ははるかに短時間化されリキデーティッドダメージ求償のリスクも少なくできる。

<調達組織のメンバーのルーティンワークを削減するデジタル化施策の例>
・ Should Cost(あるべきコスト)の算出のためのアナリティクス活用
・ コモディティ品目の価格トレンドに関するクラウドインサイトの活用
・ サプライチェーンの可視化に関するクラウドインサイトの活用

 また電子稟議・承認のワークフローは導入されているものの、これがコストデータを蓄積する観点では、十分に機能しているだろうか。見積書、交渉経緯、契約書は別途管理になっており、検索性がないケースが散見される。これらの情報を集めるために、メンバーが人間関係の構築に社内で駆け回る時間は多い。「足を動かし汗をかく」と言えば聞こえはいいが、本来不要な時間であることを念頭に、End to Endでワークフローを整備しコストデータがしっかりと蓄積され、いつでもしかるべき権限を持った者がアクセスできる状況を担保しておきたい。

 AIと人が協働する「Guided Analysis」 は調達部隊のインサイト抽出の時間を短縮し、クオリティのバラつきを標準化できる。すべての調達メンバーが標準的に行うべき基礎的な分析とその結果の分析パターンを社内で抽出し、Visual Analyticsのノウハウをもって、「まずここのバラつきを確認、次にこの切り方に変えてここのバラつきを確認すること」、という形で、Visual AnalyticsのノウハウからつくられたグラフをAIが提示していく。このようなGuided Analysisを導入している企業では、一人ひとりが標準的に行うべき基礎的な分析とその結果をスタートにして実際の思考に使う時間を長くとれている傾向にある。また新人に対する教育時間も少なくて済むという利点もある。

3.コード体系の再整備・恒常的見える化

 コスト最適化活動の内訳を分解すると、見える化8割、探索・企画2割になっていないだろうか。会計視点で設定した勘定科目コードや製造視点で設定した品目コードを元にコストデータを眺めても、自社の消費の実態は見えてこない。だれが、何の目的で、いくらの単価で、どういうスペックの、何をどれくらい購買しているのか。これをリアルタイムに正しく把握することができれば、コストを最適化する施策や知恵は自然と湧いてくる。

 しかしながら、これらの情報を手に入れるために、各人が個別に多大な労力を払っており、部門の壁に阻まれてスタックしているケースも多い。導入されて久しいERPはこの点を解決するソリューションとして十分ではないように考えられる。コストマネジメントに適した粒度でコード定義を整え、スペンドデータが正しい費目コードで蓄積されるプロセスをデジタルの力を使って敷き直せば、イノベーティブなコスト探索活動に充てられる時間を飛躍的に生み出すことが可能だ。

 まずシステムの問題以前にコード体系の論理的な見直しをしなければならない。概して「コストコード」は、バジェッティングからモニタリングのPDCAを回す前提で考えられておらず、非常に粗いカテゴリー分けになっている。たとえばアクセンチュア・ストラテジーが行うゼロベース・バジェッティングのなかで定義する費目コードの分類は約150である。一般的な企業では約70~100程度であるため、この数値を提示すると驚かれることが多いが、コストコードの分類が粗い結果、要元・消費元部門がコストコードをインプットする際に、「その他」のような、何でも入れられるコストコードを使用するケースが非常に多くの企業で発生している。トータルスペンドの半分程度の金額がここに集まっており、実質コスト分類がされていないに等しい企業も珍しくはない。

 次によく受ける質問は、「ERPの他ファンクションとの制約で費目コードはそこまで細かくはできないはずであり、約150の分類からユーザーに選ばせるのはあまりに難解である」という点だが、ここにきて初めて基幹系ERPのみで調達機能をサポートすることの限界が明らかになり、ARIBAやCOUPAなど調達固有のソリューションを併用するトレンドも理解できるようになるはずだ。

 ユーザーの業務導線に応じて、基幹系ERPでは難しい細やかなバリエーションで選択するコストコードを絞るよう制御をかけ、またユーザーがコストコードを意図的に選択できないように業務導線自体をデザインする。ここにデジタルツールを使った、単なる業務工数削減ではない本当の意味での「デジタル調達BPR」の要諦がある。

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 調達組織のミッションを、ルーティンとしてのコストの番人から製品・サービスのイノベーションに対する貢献へシフトしていくためには、CPO自身がCROと協議・合意をし、調達組織のメンバーのコスト探索の方向性を指示することが必要と考える。そのうえで彼らのルーティンワークの自動化、リサーチ・インサイト抽出に対するAI活用を進めることが重要である。その最初の一歩として、やはり古くからの課題であるコード体系の再整備や恒常的見える化は避けては通れないが、これらをデジタルの力を使って解決していきたい。

太田 陽介(おおた・ようすけ)
アクセンチュア 戦略コンサルティング本部
サプライチェーン&オペレーションズグループ日本統括 マネジング・ディレクター

慶應義塾大学卒業後、2000年アクセンチュア入社。テクノロジー部門を経て2011年より戦略部門に異動。製造業・ハイテクなど複数産業、また国内外でのサプライチェーン企画・設計を多数歴任。 サプライチェーン以外にも生産、調達、R&DなどCOOのアジェンダを広くカバーする経験を有し、ビジネスモデル変革からそれに応じた機能設計までを一貫整合して実施するスタイルで定評を得ている。