エクスポネンシャル・オーガニゼーション
――飛躍的組織とは

「シンギュラリティ大学」創業ディレクター サリム・イスマイル氏に聞く

元ヤフーのバイスプレジデントで、「シンギュラリティ大学」の創業ディレクター、サリム・イスマイル氏が来日した。全米でベストセラーとなった著書『シンギュラリティ大学が教える 飛躍する方法』(日経BP社)は、破壊的変化を乗り越えるための指針として世界中の経営者、ビジネスパーソンに読まれている。今回、彼が語った日本の企業組織と経営者についての見解には、今後企業が生き残るための重要なヒントが隠されている。聞き手は、アクセンチュアの牧岡宏 常務執行役員 戦略コンサルティング本部 統括本部長。

設立後、6年以内に指数関数的に
成長するのが飛躍型企業

サリム・イスマイル
ExO Worksの共同創業者兼会長

――はじめに、著書に書かれている、指数関数的に成長する企業(飛躍型企業)とその特徴について教えてください。

 例えば、クラウドソーシングを活用して製品を開発する米国の企業は、製品のアイデアが誕生してから小売店の棚に並べるまで、平均250~300日かかっているサイクルを、29日に短縮しました。また、オープンコミュニティを通じて自動車をデザインし、3Dプリンターを活用して製造するローカルモーターズは、新モデルを市場に送り出すまでに約30億ドルかかっていたコストを、300万ドルまで引き下げており、従来の1000倍のパフォーマンスを実現しているのに等しいのです。

 ユーザーの部屋を貸し出すサービスを展開する、エアビーアンドビーの従業員数は約3000人ですが、物件は急速に増えていて、およそ6万5000都市・400万件に上ります。彼ら自身は物理的な資産を所有していませんが、会社の評価額は300億ドル超にも。これはハイアットホテルよりも高く、今ではホテル業界で最大の企業になっています。同様に、個人が所有するクルマをタクシーに変えるウーバーも、会社評価額は680億ドル。両社とも資産や従業員は少なくても指数関数的に成長しています。

 テスラも同様に、飛躍型企業です。内燃機関のクルマは約800個の駆動系部品を使いますが、テスラの電気自動車モデルSの駆動系部品はわずか17。これだけでも大きな違いですよね。このほか、映像配信サービスに転身して成功したネットフリックス、渋滞情報をシェアできる世界最大のカーナビアプリを提供するウェイズなど。これらの飛躍的企業は、いずれも設立されてから、概ね6年以内に指数関数的に成長しているという共通点があるのです。

飛躍型企業は、野心的な変革目標と
10の特徴を持っている

 私たちは、このような設立後6年間に最も急速に成長した世界中のスタートアップ100社を調査し、共通する特徴を分析しました。その結果、それらの企業には、私たちが「MTP(Massive Transformative Purpose)」と名付けた野心的な変革目標と、内部・外部環境各5個の特徴という共通項があることを発見しました。飛躍型企業はこうした特徴を生かし、指数関数的な成長を遂げています。外部環境の5つの特徴を表す略語が「SCALE」、同じく内部環境の略語は「IDEAS」です。

 10個の特徴をあらゆる飛躍型企業がすべて備えているわけではありませんが、特徴が多いほどスケーラビリティも大きくなります。このうち4つの特徴を取り入れれば、10倍の成長が期待でき、競合他社との争いから一歩抜き出せることがわかっています。

写真を拡大
出典:「シンギュラリティ大学が教える飛躍する方法」(日経BP社)

ビジネスモデルはすぐに陳腐化する。
大きな目標を持つことが大切

――「MTP」に関してはすべての飛躍型企業が持っていたということですが、このMTPとは具体的にいうとどのようなものでしょうか?

 MTPは組織の核となるもので、組織の目標を示しています。飛躍型企業が過去に発表した意見表明報告書を見ると、当時からすれば荒唐無稽とも思えるような設立理念が書かれています。これがMTPです。一度大きく成長できたとしても、ビジネスモデルはすぐに陳腐化するから、常に大きな目標を持つようにすることが大切なのです。

 例えば、TEDは「価値あるアイデアを広める」、グーグルは「世界中の情報を整理する」、Xプライズ財団は「人類にとって有益な飛躍的技術革新を実現する」を掲げています。既存の大企業の中でも、コカ・コーラは「世界中をリフレッシュさせる」という、非常に野心的で変革を求める具体的な目標を掲げ、飛躍型企業に生まれ変わっています。

 ただ、注意してほしいのは、MTPとミッションステートメントは異なるということ。「社会に貢献する」的なスローガンは、どの企業でも言いそうなありきたりなものです。従業員の誰も覚えていないのではないでしょうか。

 一方、MTPは「今やっていること」ではなく、「これから達成しようと志していること」です。そして、組織の中の人々だけでなく、外部の人々の心や想像力、野心を掻き立てるものでもあるのです。

 なぜMTPがそれほど重要なのかというと、それは共通の価値観に裏打ちされた仲間意識創出をできるという大きなメリットがあるからです。人々の心に良い刺激を与えることで、当事者意識をもたらし、マーケティングやアフターサービス、さらにはデザインや製造といったプロセスにも協力したい、という気にさせる。例えば、iPhoneには無数の周辺機器やユーザーによって開発されたアプリケーションがありますよね。開発者は誰なのかと思えるくらい多くの人がiPhoneを愛し、より良い製品にしようと積極的に関わっています。

――飛躍型企業は、外部環境に関する5要素であるSCALE(オンデマンド型人材、コミュニティとクラウド、アルゴリズム、外部資産、エンゲージメント)を活用し、パフォーマンスを向上させているとのことですが、この外部環境の活用についてもう少し具体的に教えてください。

 組織の外にいる人材の活用(オンデマンド型の人材調達)は、飛躍型企業の成否を握る要素といっても過言ではありません。いかに自社の社員が優秀であったとしても、彼らのスキルはあっという間に陳腐化し、競争力を失っていくからです。

 社員がスキルを更新できずに企業の大きな負担になる可能性を考えると、現代の企業にとって正社員を多く雇い入れることは大きなリスクを伴います。変化が激しく、インターネットが主導する市場では、人材ギャップを埋めるために外部の人々を臨時で雇う企業がますます増加していくでしょう。例えば、オーストラリア最大の保険会社、AMPは、組織の能力を最新の状態に維持するため、総勢3000人弱からなるIT部門の半数を契約社員にしています。

 また、アイデアの創造や資金調達、デザイン、流通、マーケティング、販売など、これまで社内にあった多くの機能をコミュニティやクラウドに依存するようになっているもご存知の通りです。飛躍型企業にとって社外環境とは、自分自身の組織を拡張するものであり、そこには数千人規模のコミュニティと、数百あるいは数十億人規模のクラウドが控えているのです。このようなコミュニティとクラウドの登場により、飛躍型企業の正社員数は減少傾向にある一方、柔軟に活用できる人材は増加傾向にあります。その結果、俊敏性が増し、以前よりもずっと速い速度でアイデアを普及できるようになっています。

 このほか、飛躍型企業は、機械学習とディープラーニングをはじめとしたアルゴリズムや外部資産、人々の協調的な行動を生み出すエンゲージメントを活用して、企業と外界との境界線を越えてスケールし、柔軟性やスピード、俊敏性、学習効果を最大化しています。

――そうしたSCALEから生まれる膨大なアウトプットを活用するには、飛躍型企業の内部に運用制御メカニズムが必要になりますね。その内部構造の5要素であるIDEAS(インターフェース、ダッシュボード、実験、自律型組織、ソーシャル技術)はどのようなものでしょうか。

 例えば、様々なコンテストを開催しているXプライズ財団では、1回のコンテストで数百ものアイデアが生まれますが、その内容を評価してリストに載せ、ランク分けしたり優先順位付けしたりする必要があります。インターフェースは、こうした外側のSCALEと内側の管理フレームワークIDEASを橋渡しする役割を担います。この古典的な例ともいえるのが、グーグルの広告出稿サービス「アドワーズ」です。現在は売り上げが数十億ドル規模になっていますが、このスケーラビリティの基盤となっているのが自動設定。アドワーズ利用者向けのインターフェースは完全に自動化されており、人間が手を加える必要はまったくありません。

 前述したクラウドソーシング企業は、新製品のアイデアを出してから商品化して小売店の店頭に並べるまで1カ月以下で行ないます。同社のコミュニティには100万人の発明家が集まっており、その誰もが自分のアイデアを商品化したいという熱意を持っています。ですから、この大きなコミュニティを管理し、参加者を評価したり情報を取捨選択したりして、密接な関係を築く特別な仕組みが必要でした。そこで同社のような飛躍型企業は、SCALEからのアウトプットを体系的かつ自動的に取捨選択し、必要な加工ができるようなシステムを構築しているのです。インターフェースを使えば、より効果的で効率的な処理が可能になり、エラーも抑えられる。企業を指数関数的に成長させるためだけでなく、シームレスでグローバルな成長にもインターフェースは不可欠です。

 こうしたインターフェースをはじめ、組織の状態をリアルタイムで測定・管理するダッシュボード、仮説を検証してリスクをコントロールした環境下で行なう実験、俊敏性を高める自律型組織、水平的なコミュニケーションを実現するソーシャル技術は、SCALEからもたらされる膨大なアウトプットの活用に不可欠な内部要素です。

出典:「シンギュラリティ大学が教える飛躍する方法」(日経BP社)

「情報」が成長の源泉になれば
パフォーマンスは毎年倍増する

――指数関数的に急成長する組織の原動力は何でしょうか?

 2つ挙げられます。1つは「ビジネス領域の情報化」が成長の原動力です。ムーアの法則は半導体の性能だけでなく、情報にも当てはめられます。どんな分野、技術、業界でもひとたび情報化され、「情報」が成長の源泉になれば、パフォーマンスは毎年倍増していきます。前述したエアビーアンドビーも情報基盤がすべてと言っていいでしょう。

 また、テスラのモデルSはクルマのかたちをした高性能な「コンピュータ」のようなもの。例えば、従来のクルマは新車であっても、設計されたのは7~8年前、技術は10年前のものかもしれない。しかし、テスラはソフトウェアのダウンロードで毎週アップグレードできますから、常に最新技術が搭載された新車に乗っているようなものです。

 2016年にトロントからマイアミまで愛車のテスラを運転したときは、道中の35%がオートパイロット(自動運転)でした。翌年も同じ道を運転したのですが、そのときはソフトウェアの改善によって85%まで自動運転が可能になっていました。同じクルマ、同じセンサーでしたが、ソフトウェアのアップグレードによって性能が向上していたのですね。

 もう1つはテクノロジーの飛躍的な進化です。AI(人工知能)、ロボット技術、バイオテクノロジー、データサイエンス、3Dプリンティングなどがかつてのコンピュータと同様に急速に進歩しています。

 ここで興味深いのは、世界の時価総額トップ5の企業は、すべてテクノロジー、情報系であることです。もうすでにパラダイムの変化は起きているといえるでしょう。

――本書は4、5年前の調査を基に執筆されていますが、今書くとしたら何か加えることはありますか。

 そうですね。優秀なデザイナーやクリエイティブな経営者の思考法をまねて新しい発想を生み出す「デザイン思考」と、プラットフォームを顧客に提供する「ビジネス・アズ・ア・ プラットフォーム」の2つを、飛躍型企業の特徴として加えたいですね。P&GやGE、ユニリーバなど、フォーチュン500社のほとんどの企業が何らかのかたちでこうした考え方を採用しています。

 デザイン思考というと、「えっ、今ごろ」と意外に思うかもしれませんが、この10年間に最も成功しているのはデザイン思考型の企業です。アップルのiPhoneや、旅行比較サイトの世界大手、カヤックのサイトなどがいい例です。優れたユーザビリティは明らかに1つのパラダイムを作っています。

 デザイン思考を通じたユーザーエクスペリエンスの向上によって、指数関数的な成長がどの時点で現れるかについて注目しています。使い勝手が良くなってきて、ある時点を超えると爆発的に成長します。

 プラットフォームという点では、iTunesとSpotifyの例が挙げられます。それまでレコードやカセット、CDといったハードウェアで流通していた音楽を、この2社がネット上でデータとして流通させるプラットフォームを構築し、ビジネスを大きく変えました。その結果、8つの主要なレコード会社は淘汰されました。

 同じように主要10社 以上ある自動車会社も、プラットフォーム化によるビジネスモデルの変革によって2~3社に集約される可能性があるとみています。

行動を起こさないのは
リーダーシップの問題

 企業調査に際して、私は800人のCEOと面談をしました。すると、およそ3分の1ずつ、3つのグループに大きく分かれました。1つは「破壊的変化は起きないと無視する」グループ、2つ目は「破壊的変化は起きても、自分の周りでは起きないと思っている」グループ。3つ目は「破壊的変化が起きると思いながらも、何も手を打たないでいる」グループです。「破壊的変化に備えて手を打ち始めている」人は、全体のわずか5%程度に過ぎませんでした。

 3つ目のグループのように、破壊的変化の可能性を感じながらも何もしていないのは、CEOが自身の評価を落とさないため、長期的な投資を進めるよりも短期的な投資で株価を高い水準に保つことに専念しがちということも影響しているでしょう。いずれにしても、行動を起こさないのはリーダーシップの問題だと思います。

――飛躍型企業によるディスラプションは、従業員にどのような影響を及ぼすのでしょうか?

 その点に関して私は楽観主義です。仕事がすべて自動化され、職を失うというネガティブな見方もありますが、それは明らかに間違いです。

 ドイツでは工場の作業がどんどん自動化されていますが、むしろ雇用は増えています。新しい時代には、今は見えていない人間の役割があり、そこから新たな仕事が生まれるはずです。

――ところで、サリムさんご自身のMTPは何ですか。

 私自身のMTPですか。それは、本当の意味での「文明社会」を実現することです。いまも世界中の様々な場所で紛争が起きていますが、それはまだ文明が昇華されていないからだと思うのです。文明がもっと進めば、無駄な争いはなくなるのではないでしょうか。

 また、物質的な成長の尺度であるGDPを用いて組織や企業を評価する時代は終わりにしなければいけません。それに代わる尺度としては、幸福度などが考えられます。

 これまで人々は希少性のあるエネルギーなどに目を向け、重要視してきましたが、今後10年の間に太陽光エネルギーなどの技術が飛躍的に発展し、もっといろいろなことが簡単にできるようになるでしょう。例えば、電力が十分にあり、キレイな水をたくさん作れるようになれば、不衛生な水しかない地域での感染症を60%減らすことができます。照明があれば教育を促進し、それが貧困の撲滅につながります。つまり、より多くの人が幸福になれるというわけです。

破壊的変化への対処法を教えてくれる
MBAプログラムはどこにもない

――日本企業の幹部は、先の3つ目のグループ同様、「破壊的変化が起きると思いながらも、どのような手を打てばよいのか悩んでいる」方が多いように思います。

 これまでの経営学では、破壊的変化やその対処法について学ぶことはできません。それが理由の1つといえるでしょう。世界中どこを探しても、それを教えてくれるMBAプログラムはないのです。今のリーダーシップや組織構造は、小幅な変化の直線的な成長を想定した経営を行なうためのもので、時代遅れになっています。そんな20世紀の組織のためのマネジメント手法は忘れ、新しい知識と手法を学ぶことが必要です。

 ですから、コンサルタントの役割は今後ますます重要になるでしょう。日々技術は進歩していますから、どんな専門家でも企業に勤めたその日から時代遅れになる。サポートしてくれる存在が不可欠です。

 では具体的に、企業で破壊的変化を取り込むにはどうすればよいのか。その方法の1つが、企業の一部門を分離独立させ、別会社として経営させるスピンオフです。例えば、ネスレはカプセル式コーヒーを専用コーヒーメーカーにセットし、エスプレッソコーヒーを抽出する独自サービスを展開する「ネスプレッソ」という別の組織を作り、成功させました。

 ただ、うまくいかなかった例もあります。米国の大手スーパーマーケットチェーンはネットビジネスで新組織を4度立ち上げ、4度目でようやく成功しつつあります。しかし、アマゾンがここまで大きくなった今、巻き返すのは容易ではないと考えます。

 そうならないためにも、私達は経営者に対して、10週間の集中訓練プログラムから成る「ExO Sprint」を提供しています。破壊的テクノロジーの影響や動向、飛躍的企業の特徴、さらには既存企業が破壊的、革新的、かつ適応力の高い飛躍的企業に変革するための実践的フレームワークを学び、既存組織のマインドセットを2年先まで飛躍させます。

――日本固有の課題はあるのでしょうか。

 日本だけではありませんが、この先は企業組織内で世代間の対立が大きな課題になるでしょう。2000年代に成人あるいは社会人になるミレニアム世代が行動を起こす動機は、「自分たちが何をやりたいか」です。会社をすぐに辞めてしまうのも、自分のやりたいことに合わないからです。ですから、ミレニアム世代は自分自身のMTPと企業のMTPがフィットするかどうかを重要視します。一方、これまでの日本人は、家族や会社、キャリアに対する義務を重要視してきました。このギャップが、組織に不協和音を生み出しています。

 米国では、こうした問題はほとんどありません。いい意味でも悪い意味でも、もともと社会的な義務は米国では存在していないようなものですから。

破壊的に変化する世界には
ビッグチャンスがある

――では最後に、日本の経営者にメッセージをお願いします。

 どんな業界でも絶対に安全ではないことを理解し、行動を起こさなければいけません。自動車、金融などはとくにそうです。10年後には現在と同じ形態でのリテールバンキングは存在していないかもしれません。

 しかし、破壊的変化の世界にはビッグチャンスがあるのも事実です。第二次世界大戦後、奇跡的な経済成長を成し遂げたように、日本にはこの変化を乗り切るパワーがあると信じています。アグレッシブに取り組むなら、そこにチャンスは必ずあるのです。

サリム・イスマイル
ExO Worksの共同創業者兼会長。2010年から数年間、シンギュラリティ大学の共同創ディレクターとして学内のプログラムを統括し、現在はグローバルアンバサダーを務める。前職ではヤフーのバイスプレジデントを務め、ヤフーの社内インキュベーター、ブリックハウスを立ち上げた。著書の『シンギュラリティ大学が教える飛躍する方法』(日経BP社)は全米でベストセラーとなった。

牧岡宏
アクセンチュア 常務執行役員 戦略コンサルティング本部 統括本部長

東京大学工学部卒業、MIT経営科学修士修了。丸紅、ベイン&カンパニーを経て2014年にアクセンチュアに入社。

(構成/河合起季 撮影/宇佐見利明)