AIシンドロームへの正しい処方箋
競争優位につながるAI活用とは

AIが連日メディアを賑わすなか、自社ビジネスにどうAIを活用するかという議論が盛り上がりを見せている一方で、推進の難しさも顕在化してきている。若干の過熱感もあるAIシンドローム(症候群)ともいえる状況のなかで、取り組みを一過性のものにせず、自社の持続的な競争優位構築につながる本質的な活動とするために何をすればよいのだろうか。

AI導入による成果創出は難しい?

 まずは事実認識から始めよう。AIへの期待値に反して、導入に成功し効果を引き出せている企業はグローバルで見ても少数派である。欧米や中国を含む7カ国の企業意思決定者向けに2016年末に実施したサーベイ*1ではその数は10%程度とされている。

 日本に目を向けると、成果以前に導入自体が大幅に遅れている状況だ。日・米・独を比較した別のサーベイ*2によると、日米のAI導入率は10倍以上の開きがあり(1.8%vs13.3%)、独に対しても2倍以上の差がある。何が阻害要因になっているのだろうか。

 アクセンチュアでもAI導入・活用に関する相談を多くの企業から受けるが、「具体的に何ができるかわからない」「AIにも向き不向きがあるはずだが、自社に適用した場合はどうか」「AI活用のためのデータも人材も不足している」「どのようなソリューションが優れているか目利きできない」といったように、導入に際しての悩みは実に多岐にわたっている。

 また、前出の日米独比較サーベイ*2では導入後の課題についても調査しているが、興味深い傾向が見られる。導入が先進する米国では「想定よりAIができることが少なかった」「効果と比較して利用・運用コストが高い」が主な課題として挙げられており、AI活用で目指すゴール(What)の設定に問題があるといえる。一方で、日系企業は「データの所有権がベンダーと合意できない」「AI利活用の環境が整っていない」といった悩みを抱えるケースが多く、どちらかというやり方(How)の部分でつまずいている。

 導入前のハードルだけではなく、ことを急いて導入を進めても十分な効果を見込めないなど、悩みは尽きない状況だ。

 では、本当にそこまで労力とリスクを負って推進すべきか。正しい処方箋のもとに活用を進めれば確実に競争優位につながると当社は考えている。フォーチュン100社にAI活用先進企業100社を加え、過去7年間にわたりAI技術の開発・活用を当社独自に評価*3してきたが、いわゆる「観察者」と比べ、積極的に社内外を巻き込みAI活用に成功した企業は2013年以降で企業価値の増加率が2倍近いという事実は無視できない。

 当社ではAIありきではなく、あくまで事業における成果創出のための一手段としてAIをとらえ、ROI(投下資本利益率)を見極めながら意思決定することを推奨する。そのための検討の道筋を次章以降で示したい。

*1 調査会社Vanson Bourneが2016年11月に米国、英国、フランス、ドイツ、オーストラリア、中国、インドの7カ国向けに調査を実施。従業員1000人以上、売上げ5億米ドル以上の企業における、ビジネス/IT意思決定者1600人を対象。
*2 MM総研が2017年3月に日米独3カ国における人工知能(AI)技術のビジネス利用状況に関する調査を実施。日本で2000人、米独では500人ずつが回答
*3 アクセンチュアリサーチ、「Boost your AIQ: Transforming into an AI business, May 2017」。フォーチュン・グローバル100社とアクセンチュアが独自に選出したAI技術の開発・導入などにおいて積極的な企業100社を対象に、2010年から2016年にわたってAI技術の開発・活用の実態について評価

 

AI推進で考えるべき3つの検討ポイント

 AI活用の検討はどのように進めるのがよいのだろうか? 典型的な失敗例に着目すると、「とりあえずできそうなことをできる範囲でやってみる」というアプローチが非常に多い。乱立した検討チームが、ベンダーから技術や事例の紹介を受け、予算の範囲内で使えそうなものを見つけて具体化を図る、という進め方である。こうしたアプローチは一見取り組みが進んでいるように見えて、数カ月後に問題が顕在化することがほとんどで、多くの場合、巻き返しできずにやり直しとなる。こうした失敗例を踏まえ、AI検討を成功裏に推進するための3つの検討ポイント*4を提示する。

出典:アクセンチュア

ポイント①:目指す姿(ゴール・シナリオ)

 できそうなことからテーマを選ぶアプローチの問題点は、実現できても効果が小さく、投資に見合う効果とならずに、検討が止まってしまう点にある。また、単純業務の置き換えを効果の中心に据えている場合は、人員整理しない限り効果が生まれないという事情により実行が難しい。

 現状AI技術の成熟度は低く、本気で活用する際には相応の投資を伴う。そのため、大きく投資してでも実現したい、本質的な変革ポイントを見極める必要がある。言い換えると、AIに関する取り組みが事業の競争優位に直結し、売上げ・利益が劇的に伸びるゴール・シナリオこそが最初に検討されるべきである。

ポイント②:当面の成果(クイック・ウィン)

 目指すゴールが見えたとしても、最初の一歩が定まらないケースも多い。AIの創出効果は多くの場合、目的変数・説明変数となるデータ量に依存する。データが少ない状態で大きな効果を一気に実現するのは難しく、小さなスコープから始め、データを貯めながら段階的に拡大する、というアプローチを取らざるを得ない。ところが、入口である小さなスコープでのスタートの段階でもわかりやすい効果を求められ、プロジェクトが頓挫してしまうケースが多い。

 最低限、目指すゴールで達成される競争優位・収益貢献のシナリオに対して、入口の取り組みで何が達成・検証されるのかを明確に示すこと、それに加えて十分な大きさが得られなくても、足元の業務課題に対する改善効果の提示による納得感の醸成が必要となる。

ポイント③:技術進歩への備え

 最後に、新しい技術の出現にどう備えるのか、という問いがボトルネックとなるケースもある。次々に新しい技術が生まれることが予想されるなかで、自社が張ろうとしている技術は投資に値するのか、という問いである。難しい問いではあるが、進化途中にあるAIが万能の解決策をもたらす魔法の箱ではなく、累積学習量に依存して価値が高まる特性を持つことから考えると、(a)学習のためのデータの質・量と、(b)AI技術の進化速度・コスト、の2観点を意識した運用設計が必要となる。

(a)データの質・量については、貯めるデータの範囲を慎重に定義する必要がある。学習させるデータが汎用的であればあるほど、Googleなどのグローバルデジタルプレーヤーと真正面からAIの学習度合いで戦うことになり、自社で苦労した取り組みに優位性が生まれない懸念が高まる。キーとなるデータセットについては、固有性・特殊性があり参入障壁として機能する必要があり、加えてそれが自社の競争優位につながるかという観点で十分か、という条件を同時に満たさなければならい。

(b)進化速度・コストについては、革新的なAI技術が登場すること自体は防げない。むしろアンテナを張って目利きし、精度・コストの観点でより有望なAIが出たら乗り換えられるような準備が重要となる。すなわち、固有性・特殊性があり競争優位につながる十分量のデータを蓄え、新たなAI技術の適用に向けた学習再現性を担保することが備えになるのである。

 当社の見立てでは、最初のポイント「目指す姿(ゴール・シナリオ)」でつまずくケースが最も多く、これをどう定めるのか、について次章でさらに考察してみたい。

*4 【図表1】AI活用の取り組みをより意義のあるものにするためには、①目指す姿(ゴール・シナリオ)、②当面の成果(クイック・ウィン)、③技術進歩への備え、の3点について十分な考慮を行う必要がある。

 

「事業の競争優位」とAIの関係性

 事業の競争優位を目的としてAIを議論する際には、経営の理論を検討の切り口とするのが有益である。いくつかのAI検討の先行事例を見ると、「3つの価値基準(トレーシーとウィアセーマ)」*5、すなわち、オペレーショナル・エクセレンス、カスタマー・インティマシー、プロダクト・リーダーのそれぞれごとに、AIによる競争優位のつくり方がある、と考えるとわかりやすい。

オペレーショナル・エクセレンス企業:
自社データの拡大により、意思決定精度・速度を向上

「オペレーショナル・エクセレンス」企業は、無駄をそぎ落としたオペレーションによって、最適な価格、高いスピードで製品・サービスを提供する。このタイプの企業は一貫性のある標準プロセスを定め、データを素早く収集し、中央集権的に管理する。

 データが整備され、一元管理されているケースにおいては、AIの持つ多変量下の最適解算出能力の恩恵を享受することができる。グローバルで標準化されたサプライチェーンなどのプロセスは、意思決定精度のわずかな上昇が大きな効率化に直結する。

 オペレーション・エクセレンス企業における競争優位のつくり方とは、データ取得範囲を拡大し、AIによる意思決定に迅速に連動できる業務プロセスを構築することで、精度向上の恩恵を最大化することである。

カスタマー・インティマシー企業:
顧客接点AIの早期投入・育成

「カスタマー・インティマシー」企業は、顧客に対して最良の総合的な解決策を提供する。このタイプの企業は、強くて長い関係性構築のために、顧客に密着している社員に意思決定権限を委譲し、製品・サービスの売上げ・引き合いといった結果指標のみならず、「顧客との接触」や「顧客が解決したいことの発見」といった先行指標を重視する。

 顧客理解を強みにする企業にとって、「高頻度のカスタマイゼーション」「24時間対応」「(一定ルール化では)人を上回る理解力」というAIの特性は、新しい顧客接点としての可能性を秘めている。

 カスタマー・インティマシー企業における競争優位のつくり方とは、顧客接点としてAIを早期に配置し、他社より先に学習させた「かゆいところに手が届く」サービスを提供し、自社顧客を囲い込むことである。

プロダクト・リーダー企業:
バーチャル試行による高速R&D、AI搭載プロダクトの開発

「プロダクト・リーダー」企業は、最良の製品・サービスを提供する。このタイプの企業は、マーケット調査・製品開発に経営リソースを集中し、アイデアから商品化までのスピードを重視することによって、次々と魅力的な製品・サービスを市場に投入する。

 前述の2タイプと比べると、時間を要すると想定されるが、AIの発展は2つの側面でインパクトを与える可能性がある。

 1つはR&Dである。開発段階での実験・試験の成功確率がボトルネックとなっている企業は多い。現在、論文や過去の実験結果など膨大なデータをAIに解析させ、人間では解釈できない試行条件(Input)・試行結果(Output)のメカニズムをモデル化する取り組みが見られるが、こうしたモデルを用いてバーチャルな世界で試行回数を高めることで、R&D期間自体を抜本的に短縮することができる。

 もう1つは、製品自体にAIを搭載することである。わかりやすい例は自動運転であるが、従来人間が担ってきた運転時の判断・操作がAIに置き換わることにより、製品の価値が「運転性能」から「移動体験」自体にシフトする。

 プロダクト・リーダー企業における競争優位のつくり方とは、AIによるR&D改革と、AI搭載プロダクトによる顧客価値の再定義である。

 実際には、企業の価値基準を1つに絞り切れるものではないが、オペレーショナル・エクセレンス、カスタマー・インティマシー、プロダクト・リーダーそれぞれにおいてAIによる競争優位性のつくり方は異なる*6。少なくとも1つ、自社にとって「投資してでも実現すべきAI」の姿を見出すことが重要となる。

出典:アクセンチュア

*5 Treacy, M., & Wiersema, F. D. (1995). The discipline of market leaders: Choose your customers, narrow your focus, dominate your market. Reading, Mass: Addison-Wesley Pub. Co.
*6 【図表2】オペレーション・エクセレンス企業、カスタマー・インティマシー企業、プロダクト・リーダー企業のそれぞれごとに、AIによる競争優位のつくり方があり、取り組みにあたっては自社の事業特性・コアコンピタンスの見極めが必要不可欠。

 

先行事例に見られる工夫(1)

 ここまでAI推進のための3つの検討ポイントと、目指す姿(ゴール・シナリオ)を考えるうえでの競争優位構築の考え方を論じてきたが、本章では複数業界における先行事例をもとに、オペレーショナル・エクセレンス、カスタマー・インティマシー、プロダクト・リーダーそれぞれを志向する企業達には、3つの検討ポイントにどのような工夫が見られるかをご紹介したい。

オペレーショナル・エクセレンス企業の例:
小売業界における需要予測AIの取り組み

 データを活用して、業務効率を上げる取り組みは小売業が先行している。米ウォルマートでは、Data Cafeと呼ばれるデータ分析基盤を業務に組み込み、販売機会ロス・在庫リスクを最小化している。Data Cafeは、2万店におよぶ店舗の業務データに加え、購買行動(来店、Web/SNS)、さらには気象、経済、ガソリン価格などを統合した分析基盤を持ち、売上げ下落の要因特定、季節性商品の販売促進、といった判断&解決策提示を20分ほどで実施することができる*7

出典:アクセンチュア

 こうしたデータ活用の延長線上に、本格的なAI化が想定される。同社はインキュベーション機能である「Store No.8」を立ち上げ、人工知能を含む先端技術(ロボット工学、VR/ARおよび機械学習・深層学習)の活用強化を図っている。

 米ウォルマートにおけるデジタル化・AI活用の取り組みは、前述の3つの検討ポイントに、どのような答を出しているのだろうか?

 1点目、「目指す姿(ゴール・シナリオ)」については、Amazonなどネット小売業の躍進への対抗であり、トップ自らデジタル化・AI化が事業の競争優位にとって必須であることを強く発信している点*8が特徴的である。こうした発信は、「できることからやるアプローチ」に回帰することを防ぎ、経営の優先度・重要度が高いまま取り組みが推進されることに強く寄与している。

 また、2点目の「当面の成果」についてはどうだろうか? データを活用したオペレーション効率化は、業務の標準化・自動化を伴う。これは競争優位に向けた布石であると同時に、店舗スタッフの負担軽減・スキル向上にも強く寄与する。小売業全体が人材の流動性が高い業界であることから、負担軽減、スキル向上、人材の定着化といった文脈と重ねることで、取り組みの意義が補完・強化されている。

 3点目の「技術進歩への備え」であるが、小売業におけるデジタル化・AI化は、自社・顧客固有のオペレーションデータ(購買履歴、販売傾向、店舗在庫、物流状況、生産計画など)が用いられるため、外部プレーヤーにとっての参入障壁をつくりやすい。またウォルマートのケースでは、2010年以降IT企業群を相次いで傘下に収め「ウォルマート・ラボ」としてエンジニア集団を組成し、さらには新技術に特化したインキュベーター機能(Store No8)も立ち上げ、技術を使う/目利きする体制を整えている点も注目に値する。

*7 【図表3】米ウォルマート Data Cafe
*8 “We're transforming to become more of a digital enterprise” 17年5月 ウォルマート CEO Doug McMillon (1Q業績発表)

 

先行事例に見られる工夫(2)

カスタマー・インティマシー企業の例:
通信業界における顧客接点AIの取り組み

 某欧州通信事業者では、顧客からの問い合わせ対応にAIを活用している。問い合わせページに入力された質問に対して、AIエージェントが自然な対話形式で対応し、関連するページやビデオへと誘導する。このAIによって問い合わせの8割以上が解決され、コールセンターへのコール数は大きく削減された。さらに優秀なオペレーターと同じように、顧客の問い合わせや契約状況に応じたサービスレコメンドにより、新規申し込み3%向上、アップセル・クロスセル7%向上という成果まで創出している。*9

出典:アクセンチュア

 1点目の「目指す姿(ゴール・シナリオ)」については、通信サービスのコモデティ化に対する強い課題認識が関係している。通信市場が成熟化・飽和し、通信エリアや携帯端末やサービスによる差別化が困難になるなか、顧客接点における体験価値の向上をゴールに据え、AIを活用した顧客応対高度化の取り組みにいち早く着手した好例といえる。

 2点目の「当面の成果(クイック・ウィン)」については、コールセンターの負荷軽減を据えている。市場の成熟化・飽和のなかでサービスが多様化し、顧客応対難易度が増しており、人材育成に時間がかかる一方で、賃金水準は必ずしも高くないことから応募者が少なく、クレーム対応へのストレスなども相まって離職率が高止まりしている。同社はこの課題に着眼し、コールセンターの人手不足対策(コール数の低減)とい文脈でAI化のトライアルに踏み出している。

 3点目の「技術進歩への備え」はどうだろうか? チャットでの問い合わせ対応は比較的汎用性が高く、他社がより優れたAIを開発できる余地がある。本事例においては、単なるQ&A対応は将来的な技術の置き換えを想定する一方で、サービスレコメンドにおいては自社固有の累積経験を構築している。具体的には、顧客の契約・利用状況といった固有データを活用し、試行錯誤を通じて成功率・効果の高いターゲット・提案内容を見極めており、このプロセス高度化に競合優位性を見出している。

 こうした顧客接点AIの取り組みは、通信業界・金融業界が牽引している。金融業界では、コールセンターで音声での問い合わせをAIが解釈し、回答候補を電話オペレーターに提示する取り組みも見られている。今後は顧客情報を活用したリコメンドの取り組みが進むことが想定される。

プロダクト・リーダー企業の例:
医薬業界における研究開発AIの取り組み

 研究開発におけるAI活用については、医薬業界の取り組みが先行している。国内で始動した「AI創薬プロジェクト」には、武田薬品工業、富士フイルムなどの製薬大手をはじめ、富士通やNEC、海外大手の製薬会社など約50社と理化学研究所や京都大学病院が参加し、AIによる新薬の創薬を進めている。このプロジェクトでは、さまざまな学術論文や臨床データから新薬候補探しを行うほか、副作用のおそれがある新薬候補をあらかじめ除く、高額な薬剤と有効性が同じ安価薬剤の開発といった効果を狙ったAI開発が行われる。*10

出典:アクセンチュア

「目指す姿(ゴール・シナリオ)」については明確であり、医薬業界において新薬をつくるのにかかる10年以上の期間、1000億円以上の費用、多くの試行錯誤による無駄を削減することが競争優位に直結する。

「当面の成果(クイック・ウィン)」はどうだろうか? AI創薬プロジェクトでは、一企業ではともすれば負担困難な研究開発投資を軽減するため、産官学連携という形で国の予算を活用している点が興味深い。日本のAI技術を用いた具体成果創出、または、医療費抑制への寄与、という喫緊の課題に対しても貢献するストーリーを加えることで、大きなコンセンサスをつくって資金を引き出している。

「技術進歩への備え」に関していえば、学術論文のデータはオープンであるが、理研や京大病院が持つ臨床データはクローズされており、外部プレーヤーのAI育成の障壁となる。ただし、参加する製薬企業間では差別化が効かない構造となるため、プロジェクトが成功した際の参加企業間での利益配分ルールが必要となろう。加えて、IT企業を巻き込み、技術の目利きができる枠組みとしているが、一般論としては、参加企業の技術を優先して使うということが前提条件として課される場合には、より優れた技術の乗り換えが遅れるデメリットに配慮する必要がある。

*9 【図表4】欧州通信事業者の顧客接点AI *10 【図表5】AI創薬プロジェクト」の概要

 

まとめ~AIシンドロームへの正しい処方箋

 デジタル技術の進展により企業の競争環境が大きく変化している。市場の創造的破壊を狙う新興企業を含めた競合に対抗するうえで、先んじてAIに取り組み活用していくことは極めて大きな可能性を秘めている。過熱感もあるAIシンドローム(症候群)のなかで道を違えず、自社の持続的な競争優位の構築に向けた取り組みとすべく、正しい処方箋をまとめることとしたい。

 まず、自社の事業特性・強みを踏まえ、持続的な競争優位のために、オペレーショナル・エクセレンス、カスタマー・インティマシー、プロダクト・リーダーのいずれを志向してAIを活用するのか、取り組み意義ともいえる目指す姿(ゴール・シナリオ)を定義する必要がある。そのうえで、単純な置き換えによる人件費の低減だけではなく、売上げ向上や情報発信などの付加価値を含む当面の成果(クイック・ウィン)を示すことで、検討を継続的なものにすることが重要だ。

 さらには技術進歩への備えを意識し、投下したリソースが無駄にならぬよう、自社固有の業務・データを核とした累積経験・累積思考が価値を生む領域と、最新・最良の技術を取り込んでいく領域との切り分けをはっきりさせることが重要だ。そして、こうした取り組みを投資規模・速度の面で新興企業に劣らぬよう、リソースを分散せず、スピード感を持って取り組んでいくのが望ましい。

 より簡潔にまとめると、AIシンドローム(症候群)への正しい処方箋は以下の通りだ。失敗を恐れてチャレンジしないのは本末転倒であるが、計画の頓挫により取り組み自体が止まらぬよう3つの検討ポイントを吟味し、追い風が吹いているいまだからこそAIに関する取り組みをより本質的なものに昇華・加速させることで、将来につなげてほしい。

●競争優位に直結し、自社ならではのデータ・累積経験が価値を生むAI活用領域を見極めること
●他社に先駆けてリソース(ヒト・モノ・カネ・時間)を集中投下し、俊敏性を持って磨き上げていくこと

(写真左)
廣瀬 隆治(ひろせ・りゅうじ) アクセンチュア 戦略コンサルティング本部 マネジング・ディレクター

東京大学工学部卒、同大学院新領域創成科学研究科修士課程了。2004年アクセンチュア入社。現在同社戦略コンサルティング本部マネジング・ディレクター。通信・メディア・ハイテク業界を中心に、幅広い業界においてAIやIoT活用をはじめとしたデジタル戦略立案を支援。

(写真中央)
土田 研一 (つちだ・けんいち) アクセンチュア 戦略コンサルティング本部 シニア・マネジャー

東京工業大学工学部卒、同大学院社会理工学研究科修士課程了。2003年アクセンチュア入社。現在同社戦略コンサルティング本部シニア・マネージャー。ハイテク業界・通信業界を中心に、デジタル技術を活用したビジネスモデルの転換、それを支える経営の仕組み作りを支援。

(写真右)
唐澤 鵬翔(からさわ・ほうしょう) アクセンチュア 戦略コンサルティング本部 シニア・マネジャー

東京大学工学部卒。2006年アクセンチュア入社。現在同社戦略コンサルティング本部シニア・マネジャー。ストラテジーxデジタル分野のエキスパートとして、幅広い業界を対象に事業戦略立案、新規事業開発を支援。