本物のリーダーは
「反論する義務」を心得ている

間違っていると思う意見には、「反論する義務」がある――。これはマッキンゼー・アンド・カンパニーで受け継がれる価値観だ。リーダーには、異議を呈する気概、そして異論を受け入れる謙虚さの両方が求められる。


 人や組織を導く最善の方法は何か。最も有効な競争方法は何か。こうしたことを考える人にとって、昨今は頭が混乱してめまいが起こりそうな時代である。

 公職者として許される(または模倣に値する)振る舞いとは、何によって決まるのだろうか。フォルクスワーゲンやウェルズファーゴ、FIFAなど、なぜこれほど多くの有力組織で、首脳陣は自分たちの未来を脅かす悪しき行為を許してしまうのか。大きな野心を抱くイノベーターは、行く手に避けられない批判や反対にどう対処し、自信がただの大言壮語に成り下がるのをどう防げばよいのだろうか。

 偉大なリーダーシップが求められているこの世界で、上記は多くのリーダーが答えられないであろう疑問の、ごく数例にすぎない。私自身も容易に答えられるとは思っていない。しかし、私が研究してきた最高のリーダーたち――たしかな人的価値に基づく持続的な経済的価値を生み出してきた、経営者や起業家――について、わかっていることがある。彼らは「反論する義務(obligation to dissent)」を理解し、尊重しているのだ。

 端的に言えば、ビジネスや政治や社会で優れたリーダーになるためには、周囲の人々に次のことを促さなくてはならない。本音を語ってもらうこと。偽善や不正行為に注意を向けてもらうこと。そして、リーダーが周囲に対して強い意志と率直さを示すのと同じように、彼らにも強い意志をもって率直にリーダー自身を評価してもらうことである。

 私が初めてこの言葉に出会ったのは、2016年、ビクター・ホーというCEOへの興味深いインタビュー記事だった。ホーは顧客ロイヤルティの強化を支援するファイブスターズの共同創業者で、1億ドル以上のベンチャー資金を調達していた。記事では、自分の幼少期や大学時代のこと、そして起業家としての才覚が磨かれた経験について語っている。そして、一流コンサルティング企業のマッキンゼー・アンド・カンパニーでの勤務経験についても触れ、不穏に響く1つの教訓について、『ニューヨーク・タイムズ』紙にこう述べている。

「マッキンゼーで学んだ最も強烈な教訓があります。いまでは私も新入社員全員に伝えていますが、“反論する義務”と呼ばれるものです。どんな会議においても、その場で最も経験の浅い者が、最古参のベテランに異議を唱える最大の権限を持つ、ということです」

 なんと強烈な概念だろう。政界の中枢部で日常的に起こっていることと、まったく対照的だ。実際、反論する義務はマッキンゼーの文化の象徴となっている。これを数十年前に打ち立てて大事にしてきた人物は、同社を世界で最も著名なコンサルティング企業にした伝説的リーダー、マービン・バウワーだ。

 バウワーの伝記には、マッキンゼーの元マネージングディレクターであるフレッド・グラックが、この偉大なリーダーと最初に出会ったときのことが書かれている。両者がばったり出くわしたとき、バウワーはグラックに、入社後初めて手がけている仕事は順調かと尋ねた。グラックは正直に答え、パートナーたちのやり方は完全に間違っている、という自分の考えを述べた。

 翌朝グラックは、バウワーの部屋に来るようにとのメモを目にする。自分はクビになるんだな、と彼は思った。しかし部屋に着くと、バウワーはプロジェクトリーダーと電話でグラックの異議について話し合っており、新人のほうが正しいということで合意した。パートナーらはそれまでのやり方を見直し、クライアントには現時点までの費用を請求せず、最初から出直すことになったのである。

 あるシニアコンサルタントは、伝記著者にこう語っている。「間違っていると思う意見には反論する義務がある。これがマービンの方針だった。マービン自身、そうしている。……そして、反論する気概がある人は滅多にいない」

 マッキンゼーのOBでキャリアアーク・グループ会長兼CEOのロビン・リチャーズは、社員に期待する振る舞いを次のように明言している。「上司の言うことすべてに同意するような会議は、やるべきではありません。反論する義務があってこそ、最高の知恵と成果を得られるのです。人はそういう環境を好みます。自分に価値があると感じられ、大胆になります」

 現実はどうだろうか。反論する気概がある人も、大胆になれる人も非常に少ない。なぜなら、反論する義務を強調し、奨励するリーダーは滅多にいないからである。

 マサチューセッツ工科大学スローン・スクール・オブ・マネジメントの名誉教授であるエドガー・シャインは、リーダーシップと組織文化の専門家であり、偉大な経営者の特徴について何十年も研究を重ねてきた。彼が繰り返し強調している特徴の1つは、謙虚さである。すなわち、異論を受け入れる資質だ。悲しいことに、そうした謙虚さはごく稀にしか見られない。

 シャインは著書『問いかける技術』でこう述べている。あるとき、彼は学生たちに、マネジャーへの昇格は自分にとって何を意味するか、と尋ねてみた。「学生たちはためらうことなく、こう答えた。『人にやるべきことを指示できるようになる、ということです』」。これはまさに、数多くの危機と失望を招いてきた「自分はすべてを知っている」型のリーダーシップである。

 シャインはこう警告する。「私たちの多くは心の底で、勝たないことは負けを意味すると思っている」。経営者らの「暗黙の前提」は、「人生は根本的に、そしていつ何どきでも、競争である」ということだ。しかし、謙虚さと野心は必ずしも矛盾するものではない、とシャインは主張する。不確実性にあふれる世界で大事を成し遂げようとするリーダーにとって、「野心を実現するための謙虚さ」こそ、最も効果的かつ持続可能な考え方なのだ。

 謙虚さを歓迎しよう。異論を歓迎しよう。そして、最近私たちが目にしているリーダーとは違う、もっと有益なリーダーシップを歓迎しよう。


HBR.ORG原文:True Leaders Believe Dissent Is an Obligation  January 12, 2017

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ウィリアム・テイラー(William C. Taylor)
『ファストカンパニー』誌の共同創刊者。最新刊は『オンリーワン差別化戦略』(ダイヤモンド社)。既刊邦訳に『マーベリック・カンパニー 常識の壁を打ち破った超優良企業』(日本経済新聞出版社)がある。