コミュニティ・ロボティクスで地域課題を解決
ベイエリアから、世界のモデルを目指す

ロボット技術の進展により、ロボット開発はかつてないほど容易になり、本格的な普及に向け、アプリケーションを検討するフェーズに入った。地域に点在するさまざまなロボットをネットワークでつなぎ、地域社会や生活者が抱える課題をロボット技術で解決する日もそう遠くなさそうだ。総合電機メーカーでロボット・システムの研究開発を手がけたのち、芝浦工業大学に転じた松日楽信人氏にロボット研究の現状、人とロボットの共存について語ってもらった。

ロボット開発が容易になり、使い方を検討するフェーズに

――IoT、ビッグデータ、AIとともにロボット技術も進展しています。知能機械システム研究室の取り組みを中心に、ロボット研究の現状について伺います。

松日楽 信人(まつひらのぶと)
芝浦工業大学 機械機能工学科 知能機械システム研究室 教授
複合領域産官学連携推進本部 副本部長
1982年、東京工業大学大学院修士課程修了。同年、東京芝浦電気総合研究所(現東芝研究開発センター)入社。ロボット・システムに関する研究開発に従事する。1995 年~1997年、日本原子力研究所(現日本原子力研究開発機構)出向。2003 年~2007年、東京工業大学21世紀COEプログラム特任教授を兼務。2005 年~2008年、総合科学技術会議科学技術連携施策群次世代ロボット連携群(主監補佐、副主監)を兼務。東芝研究開発センター技監を経て、2011年4月より現職。

 ロボットのOSともいえる「RTミドルウェア」や、ロボット同士をつなげる通信プロトコル「RSNP(Robot Service Network Protocol)」の進歩により、ロボット開発はある程度容易になりました。ロボットの普及に向けて、現在はロボットの使い方、使われ方を検討するフェーズに入ったといえます。我々は地域課題を解決する方向でロボットの研究開発に取り組んでいます。

 地域には多様でたくさんの課題があります。一人の研究者が1年で2つのアプリケーションを開発したとしても、10年で20にしかなりませんが、10人いれば1年で20、10年で200のアプリを開発することが可能です。そこで、RTミドルウェアやRSNPを活用した共通技術を利用して、多くの仲間が研究開発に参加し、実証、評価のサイクルを加速させる目的で発足したのが、「芝浦工大ロボティクスコンソーシアム」と「ベイエリアおもてなしロボット研究会」です。

 目指すところは、ロボット技術を活用したコミュニティの実現。地域に点在するさまざまなロボットをネットワークでつなぎ、地域社会や生活者が抱える問題をロボット技術で補完することです。芝浦工業大学があるベイエリアには、高齢者が多い佃・月島や、若い家族が多い豊洲、企業や研究開発機関が集まるお台場など多様な地域があり、場所によってロボット活用のモデルは異なります。こうしたモデルをどんどんつくっていき、ベイエリアから日本へ、さらには世界へと広げていきたいと考えています。

――コンソーシアムや研究会には、どういった研究者、研究機関が参加しているのですか。

 地域課題解決型ロボットの研究開発には、ロボット機器本体、センサーやモーターなどの要素技術のほかにも、サービスコンテンツ、ネットワークインフラといった研究領域が必要であり、いろいろなレベルでの研究者の参加が期待されています。各研究領域をシームレスにつなぎ、3学部10学科28名の研究者で構成したのが芝浦工業大学ロボティクスコンソーシアムです。

 一方、ベイエリアおもてなしロボット研究会は、芝浦工大のほかにも中小企業のロボット事業の推進を支援する東京都立産業技術研究センター、AI・ロボットに強い国の研究機関、産業技術総合研究所、ネットワークサービス研究の産業技術大学院大学、ソーシャルロボティクスの首都大学東京、水辺ロボティクスの東京海洋大学が連携し、「サービス工学+まちづくり+ロボティクス」の融合によるイノベーション創出を図っています。

公開された要素技術を組み合わせ、短期間で開発が可能に

――RTミドルウェアやRSNPといった共通技術を活用して開発したロボットには、どのような事例がありますか。

 一つは、写真撮影ロボットが挙げられます(写真参照)。「写真を撮って」と人が話しかけると、センサーで人数を把握し、位置を決めて撮影を行います。撮影データはその場で印刷することも可能で、実際に地域イベントに参加して、延べ数百人に記念撮影を行った実績もあります。写真撮影ロボットは施設や敷地内の巡回や点検などにも応用可能です。ロボットが自律的に移動して、目的のポイントで撮影を行い、撮影データをサーバに送ります。これを人が見てもよいですし、AIで分析し自動的に異常を検知することもできます。

 大切なのは、ロボット技術を用いて何をやるか、先に決めておくことです。そのタスクを実現するために必要な要素技術はすでに公開されているものもあります。知能機械システム研究室は機械工学が専門ですから、音声認識や画像処理といった技術は持っていません。しかし、自前で開発しなくても、公開されているRT(Robot Technology)コンポーネントを組み合わせることで、ロボット開発が可能になるというわけです。

 前述の写真撮影ロボットは、新たに開発したRTコンポーネント以外にも、再利用したRTコンポーネント、すでに利用しているRTコンポーネントを多数組み合わせて、修士課程の学生一人がわずか3カ月でつくり上げました。これが、企業内の研究開発部門となると最短でも半年くらいはかかるでしょう。企業の約2倍のスピードでプロトタイプをつくることができることは、利益の追求が問われない大学の研究室ならではのアドバンテージではないでしょうか。

――今後の活動展開について伺います。2020年の東京五輪開催に向けて進めている案件などはありますか。

 コミュニティ・サービス・ロボットによるビッグデータの収集と活用・行動について取り組んでいます。五輪開催時には、100台を超えるようなたくさんのロボットがつながって、ビッグデータの収集・分析を行い、地域の人々や外国人観光客に対し、案内サービスや見守り、防犯、コミュニケーションの活性化といったおもてなしサービスの実証の場にしたいと考えています。

 そのためにも研究開発を継続、発展させていくことが大事です。研究、開発、実証、実用化のスパイラルを大きく回し、ロボットとしていっそうのレベルアップを図っていきたいですね。

人にも、ロボットにもやさしい環境づくりを進めるべき

――ロボット・システムのコンセプト設計の重要性とともに、「ヒューマンセントリック・ロボティクス」の考え方が不可欠と説かれています。

 これまでロボットというと産業用ロボットが多かったのですが、今後、コミュニティ・サービス・ロボットが普及してくると、人と同じ空間でロボットが動くようになります。そうすると、人にとって使いやすい、親しみやすい、安全であるといったインターフェースに関わる技術が非常に重要になってきます。そこに注力すべきという考え方です。

 コンセプトの一つとして、「ユニバーサルデザイン・ウィズ・ロボット」があります。現在のロボットは必ずしも器用な手を持っているわけではないし、どこでも行ける移動機構を兼ね備えているわけではありません。そこで、ロボットにやさしい環境を整備しようとすると、なかなか賛同は得られませんが、人にも、ロボットにもやさしい環境づくりを進めようとなると、多くの人が賛同してくれます。人を中心として機能するロボットのあり方を考える必要があるのです。

――「ロボット技術で何をやるか、先に決めておく」とのことですが、簡単なことではなさそうです。

 もちろん、何をやるか先に決めるのは難しいことですが、キラーアプリに準じるものにトライして、それを見せていくことが大切です。いま、ロボット技術でここまではできるけれど、ここからはできないと示していけば、できない部分を研究課題に落とし込んで解決する人が出てくるかもしれない。要素技術を開発し、使う人を待っていたのでは、いつまで経っても物事が進みません。我々は、どちらかというと応用研究的なスタンスで取り組んでいるし、芝浦工大そのものが社会との連携や社会貢献を優先する文化を持っています。

 芝浦工大では現在、「Project-Based Learning(課題解決型学習)」が盛んに行われています。学生が町工場や高齢者施設、自治体などのコミュニティに入り込んでいって、現地の人々と一緒になって地域課題の解決に取り組んでいます。おもしろいのは、実際にやらせてみると、学生でも意外とできたりすることです。彼らの可能性を感じる場面も多々あります。

――ロボットをはじめ、革新的技術が普及した先に期待することは。

 機械やIT技術がやるところと、人がやるところは線引きが必要になるかもしれません。たとえば、自動運転技術もすべてお任せするのではなく、危険な場面に遭遇しそうになったときに、注意を促したり、危険を回避する方法を教えてくれたほうがいい。人の機能を支援するためのロボットのあり方を議論すべきであり、そうでないと、緊張感がなくなり、生活や人生に張りがなくなってしまうでしょう。

(構成/堀田栄治 撮影/宇佐見利明)