マインドフルネスは科学であり、
最高のエンタテインメントだ

マインドフルネス鼎談:篠田真貴子×石川善樹×荻野淳也【後編】

なぜグーグルの社員は、いつも楽しく創造的に働き、世界に大きなインパクトを生み出せるのか。その秘密は一人のエンジニアが開発した、「マインドフルネス」を実践する独自の研修プログラム「サーチ・インサイド・ユアセルフ(SIY)」にある。
「ほぼ日刊イトイ新聞」でおなじみの東京糸井重里事務所CFOの篠田真貴子さん。予防医学研究者として社会を健康にするための各種プロジェクトをリードする石川善樹さん。そして「SIY」を日本で展開するマインドフルリーダーシップインスティテュート代表理事の荻野淳也さん。経営者、研究者、実践者の視点から、いま注目のマインドフルネスが、ビジネスパーソンにとってどんな効果があるのかを探る。(撮影:和田剛)
※前編は
こちら

 

社員を暇にしたら業績アップ

石川:最近お会いしたある会社の社長さんは、話を聞いていてまさにマインドフルリーダーだと思いました。それまで順調だった業績が落ちてきたのをきっかけにガラッと発想を変えて、「いかに社員を働かせるか」ではなく、「いかに社員を暇にさせるか」を考えるようにしたんです。

荻野:それは思い切った転換ですね。

石川:暇な時間ができると、その分新しいことを考えられたり柔軟な発想ができるだろうというねらいです。もちろん遊ぶ人も出てくるだろうけど、うちの社員にそういう人は少ないだろうという信頼があって、結局暇にさせればさせるほど業績が回復していったと言っていました。

篠田:おもしろい! それが実行できるのがすごい。

石川:すごいですよね。自分がどういう発想で社員に仕事をさせているか、という根源的なことに気づけた。

篠田:「サーチ・インサイド・ユアセルフ(SIY)」も、きっといまのと同じくらいの深い気づきが出発点だったと思うんですが、これってどうやってメソッド化したんですか?

石川:まずメンさん(『サーチ・インサイド・ユアセルフ』著者)が「世界を平和にする」という旗を立てて、そこからEQとかマインドフルネスとか関係ありそうな要素を並べていったんです。SIYの内容を詳しく見ていくと、ロジックは決して緻密ではないんだけど、world peaceという最終ゴールが揺らいでいないから、一貫しているように思える。

荻野:SIYができたのは、メンさん自身が必要に迫られていたというのも大きいと思います。彼はグーグル初期の検索エンジンのアルゴリズムを組んだ天才エンジニアなんですが、グーグルが大きくなって世界中から天才秀才が集まっていくなかで成果を出さないといけないプレッシャーがあった。そしてこれから10年自分は何をすべきかを考えていたときに、ある昼休み、グーグルのキャンパスを散歩していたらひらめきが。それが、world peace。

篠田:おおおお!

荻野:自分がプレッシャーにさらされているなかで、このインスピレーションがあった。さらに周りを見てみると自分と同じように、成果と共に心身ぼろぼろの人たちがたくさんいて、これっておかしいよねと感じてメソッド化していったんです。

ビッグピクチャーとディテールを
異常なくらい往復する

石川:SIYは、科学者の力を借りられるグーグルだからメソッド化できたとも言えますよね。例えば瞑想の世界はもうマイメソッドだらけな印象ですが、優秀な科学者たちが、これが瞑想のベースメソッドだよと確実なものを教えてくれた。

 そして、瞑想とworld peaceという一見つながらないものを、グーグル社員で試していったのも大きい。彼らは細部まで理詰めで考えられる、ある意味、世界一面倒な人たちですからね。ベースメソッドを並べ替えたり説明の仕方を工夫したりしてworld peaceへの道を作っていった。その途中にhappyとかperformanceとかもちゃんと置いています。

荻野:EQのダニエル・ゴールマン、カウンターカルチャーの代表的人物であるミラバイ・ブッシュ、脳科学者のリック・ハンソン。そういう人のつながりがグーグルを起点に一気に広がっていったんでしょうね。

石川:メンさんたちが科学者の力を借りながら、ビッグピクチャーとディテールの間を異常なくらい往復していたのも見逃せません。たぶん、この往復でしかイノベーションは生まれない。

篠田:往復するたびに何かしらの気づきがあると思うんですが、そのときにサイエンスをベースにしたから、宗教っぽくもならず、グーグルだけのものにもならず、これだけ汎用性があるものができたんですね。

荻野:その通りだと思います。特にシリコンバレーの会社のCEOの間ではマインドフルネスがかなり広まっていて、リンクトインのジェフ・ウェナーが自分のマネジメントスタイルはコンパッションマネジメント(思いやりの経営)で、マインドフルネスを毎日実践していると明言していたり、ポケモンGOをつくったナイアンテックのジョン・ハンケCEOも自分のリーダーシップスタイルはマインドフルリーダーだと言っています。

喜怒哀楽の正体を探る

石川:僕は仕事柄、「本質はどこにある?」と考えるんですが、いつマインドフルネスな状態だと一番いいかというと、やっぱり感情がブレた時なんですよね。イラっとしたときに、はっと気づいて、このイライラは何だろうと見つめてみる。そういう喜怒哀楽の正体に気づけたときに、マインドフルネスっておもしろいと思えるようになると思います。喜怒哀楽のときにこそマインドフルネスな状態で自分の感情を探っていく。すると思わぬ自分を発見できる。僕はマインドフルネスって、最高のエンタテイメントだと思いましたね。

篠田:おもしろーい!

荻野:私も同じ気持ちです。マインドフルネスな状態でいると、いまの自分を形作っている自分の内面にある物語に気づけるんですよね。マイ・ムービーみたいなものが見えるようになる。

石川:かっこいいですね。

荻野:例えば朝、遅刻しそうでイライラしていたとして、なぜ時間に正確じゃないといけないのか。そこをたどっていくと、人に迷惑をかけないよう育てられてきたり、エンジニアの父から時間に正確であることの大切さを教えられてきたり。そういう一連の物語があるからいま怒っているんだと気づける。それができたときには、イライラはもう消えていますよね。

篠田:でもふと思うのが、マインドフルネスって軽く耳にしただけの人は、実践したいとは思わないかもしれない。例えるなら「エクストリームスポーツが面白い」ってきいても、実際やってみるかどうかは別、ということと似ている気がします。

 トレーニングを積んだ先の面白さはわかるんだけど、自分はそれをしなくても日常生活はまわっている。だから、自分がすべきことだとは思えない。それはわりと自然な反応かなと思います。

荻野:経営者、特にクセのある創業経営者に根本的な気づきがもたらされるのは「さんとう」だと言われます。闘病、倒産、投獄。これくらいのことがないと本質的なリフレクションはなかなか起きない。でもそこまでしなくても、SIYを使えば大きな気づきが生まれる可能性がある。エグゼクティブコーチングをしていると、みなさんその価値の大きさに驚かれますよ。

マインドフルネス最大の効果は?

石川:ビジネスって結果がわかるサイクルが早いように思えるんですが、マインドフルネスはその反対で、自分と向き合うということは相当時間がかかります。

篠田:時間をかけて自分と向きあうことが、結果のすぐわかるビジネス界にいると縁遠く感じてしまうんですね。

 それに加えて、組織の一員であるときと経営者になったときで、求められる個人のありかたの違いも、SIYの受け止め方にかかわるんじゃないでしょうか。組織って、個人の動機が弱くても一定の成果が出るように設計された仕組みです。誰がやっても業務が続くように、属人性を排除する。個人の動機を問わないのが、組織のメカニズムです。ところが、経営者には個の意識とか動機、人格が問われるじゃないですか。

荻野:個人と組織と経営が対立構造ですね。

篠田:そうなんです。そういう意味で、組織の中で育ってきた人にいきなり経営にスイッチさせるのは無理。組織の一員であるときは個が問われないのに、経営にたずさわると個が問われるようになるんです。なので、組織の一員でも、あるタイミングから個の動機や価値観を取り戻すトレーニングが必要なんだと思います。

荻野:それを意識的にやっている会社もありますよね。

篠田:ありますね。個人の内的動機と技術が相互作用で高まるよう鍛えていくことが大切だと思います。動機も技術も大事。個の動機に焦点をあてたトレーニングを意識的にする会社は、もともと組織に技術を磨くドライブが内包されているのはないでしょうか。内的動機ばっかり大切にして、技術が磨かれないままでは価値を生めない人になっちゃう。

石川:マインドフルネスって、若者はやらなくていいのかもしれませんね。ある程度成熟して山と谷を経験しないと、言っていることが腑に落ちない気がする。

篠田:社会に出ると、周囲の状況と自分の自我を、なんとか折り合いをつけないといけない場面がありますよね。そのぶつかりが何回かあって、自我を見つめ直すようになったらマインドフルネスの出番かもしれません。

荻野:マインドフルネスの効果として強調しておきたいのは、自分自身への気づきを得ること。この価値はかなり大きいと思うんです。名経営者はそういうスキルが高いのですが、それをメソッドを通して訓練可能だということがSIYの凄さだと思います。

篠田:そうそう。「技術」になっているのがすごい!