何これ、おもしろすぎる!
サーチ・インサイド・ユアセルフの衝撃

マインドフルネス鼎談:篠田真貴子×石川善樹×荻野淳也【前編】

なぜグーグルの社員は、いつも楽しく創造的に働き、世界に大きなインパクトを生み出せるのか。その秘密は一人のエンジニアが開発した、「マインドフルネス」を実践する独自の研修プログラム「サーチ・インサイド・ユアセルフ(SIY)」にある。
「ほぼ日刊イトイ新聞」でおなじみの東京糸井重里事務所CFOの篠田真貴子さん。予防医学研究者として社会を健康にするための各種プロジェクトをリードする石川善樹さん。そして「SIY」を日本で展開するマインドフルリーダーシップインスティテュート代表理事の荻野淳也さん。経営者、研究者、実践者の視点から、いま注目のマインドフルネスが、ビジネスパーソンにとってどんな効果があるのかを探る。(撮影:和田剛)

「なにこれ、おもしろすぎる!」

荻野:篠田さんは、日本で最初に開催した「サーチ・インサイド・ユアセルフ(SIY)」の研修プログラムに来ていただいたんですよね。なぜ参加しようと思ったんですか?

篠田:きっかけは、「イノベーションを考えるための5冊」みたいなウェブ記事でした。その中に、ティク・ナット・ハンさんのマインドフルネスの本があって。

荻野:ダライ・ラマ14世と共に、現代の仏教僧の二大巨頭として知られている方ですよね。

篠田真貴子(しのだ・まきこ)
東京糸井重里事務所取締役CFO。 慶應義塾大学経済学部卒、米ペンシルべニア大ウォートン校でMBAを、ジョンズ・ホプキンス大学で国際関係論修士を取得。日本長期信用銀行、マッキンゼー、ノバルティス、ネスレを経て、2008年10月、ウェブサイト「ほぼ日刊イトイ新聞」を運営する糸井事務所に入社。2012年、糸井事務所がポーター賞(一橋大学)を受賞する原動力となった。2015年に『ALLIANCE アライアンス――人と企業が信頼で結ばれる新しい雇用』(ダイヤモンド社)を監訳。

篠田:そうなんですってね。いわゆるイノベーションっぽい本が4冊並んでいるなかで、「この本なに?」と興味を持ち、フェイスブックに書いたら、元ビジネスマンで現在お坊さんの同級生が教えてくれたんです。その本の考え方をビジネスの現場に応用したのがSIYだよと。

 それで『サーチ・インサイド・ユアセルフ』を読んだら、もう「なにこれ、おもしろすぎる!」と。人格を磨く「技術」というものがあって、訓練可能で再現可能であることに興奮して、ぜひ体験したいと思って研修プログラムに参加しました。当時、まわりにいる人にこの本を勧めまくっていましたね。

荻野:実際に研修を受けてみて、どうでしたか?

篠田:そうですね。SIYというのは、自分の感情の動きを客観視して、それを微分するように理解していくことから始まるアプローチだと思うんですが、これは糸井重里をはじめ、糸井事務所のクリエイティブな仕事をしているメンバーが普段やっているプロセスと、実はそっくりなんです。

荻野:それはすごい発見。

篠田:そう。ただ、糸井事務所の場合は規模が小さいこともあって、空間や経験を共有することでこの方法がじんわり他のメンバーにも伝わっていくんですが、SIYがすごいのは、こういう個人の内面に関する、非常に内的で、感覚的なのものを、ここまでメソッド化していることだと思います。そこにとても興味がある。

土曜日の午後4時、ヨガとの遭遇

荻野淳也(おぎの・じゅんや)
一般社団法人マインドフルリーダーシップインスティテュート代表理事。 リーダーシップ開発、組織開発の分野で、コンサルティング、エグゼクティブコーチングに従事。外資系コンサルティング会社勤務後、スタートアップ企業のIPO担当や取締役を経て、現職。マインドフルネスなどの手法を用い、リーダーの変容や企業の変革を図っている。共著に『世界のトップエリートが実践する集中力の鍛え方』(日本能率協会マネジメントセンター)、監訳書に『マインドフル・リーダー』(SBクリエイティブ)がある。

荻野:僕がSIYを知るきっかけとなったのは、ヨガスタジオでした。今から10年くらい前、IPOブームの最中にベンチャー企業の上場担当者をしていて、徹夜続きで疲れ切って鬱一歩手前という状態のときに、友人の勧めでヨガスタジオに行ったんです。今でも覚えていますが、土曜日の午後4時。60分ヨガをして、30分瞑想。それがもう衝撃的な体験で。終わったら頭と心がすっきり、目の前の霧が晴れて、見るものすべてが美しく思えてきたんです。

篠田:それは何回目くらいで?

荻野:たった一回です。マインドフルネスな状態というものをそのとき初めて知り、これはビジネスパーソンに伝えなきゃという直観があって、半年後にそのヨガスタジオに転職します。

篠田:えええ!

荻野:そこでヨガと瞑想と人材開発を組み合わせた法人向けのプログラムを開発して、しばらくして独立した後に、グーグルも同じようなことをしていると知るんですね。それでいてもたってもいられなくなってサンフランシスコにわたり、SIYを広めている組織のボードメンバーの方に直談判して、その場で、日本で開催する1回目のSIY研修プログラムの日程を決めてしまいました。

篠田:その研修を、私が受けたんですね。

荻野:そうです。2014年に1回目のSIYプログラムがあって、その翌年に、SIYの講師養成トレーニングを受けにまたサンフランシスコに行くんですが、そこで出会ったのが石川くんでした。

2000時間の瞑想

石川:もともと僕は仏教系の学校(世田谷学園中学校)に通っていたこともあり、中学の頃から毎朝座禅をやっていたんです。

石川善樹(いしかわ・よしき)
予防医学研究者。(株)Campus for H共同創業者。 1981年、広島県生まれ。東京大学医学部健康科学科卒業、ハーバード大学公衆衛生大学院修了後、自治医科大学で博士(医学)取得。「人がより良く生きるとは何か」をテーマとした学際的研究に従事。専門分野は、予防医学、行動科学、計算創造学、マーケティング、データ解析等。講演や、雑誌、テレビへの出演も多数。NHK「NEWS WEB」第3期ネットナビゲーター。著書に『疲れない脳をつくる生活習慣』(プレジデント社)、『最後のダイエット』、『友だちの数で寿命はきまる』(ともにマガジンハウス社)、『健康学習のすすめ』(日本ヘルスサイエンスセンター)がある。

篠田:え、毎朝!?

石川:そうなんです。座禅をしていると棒で肩を打たれるのですが、まず言われたのが、「頭を傾けろ、そして決して頭を動かすな」と。もの凄い勢いで棒が降ってくるんですが、傾けた頭をうっかり戻しちゃって、耳がとれた人もいるから決して頭を動かすなと脅されました(笑)。

篠田:座禅って、中学生でも気持ちよさを感じるものなんですか?

石川:最初は痛いんですけど、だんだん気持ちよさを感じてきます。でも、あれ悟ってきたかな、と思ったときはたいてい寝ていて、気づいたら棒が「ばしーん!」です。

篠田:ただ寝てただけ(笑)。

石川:そうそう。いま僕は予防医学という分野の研究者で、ゆりかごから墓場までどうやって元気に過ごすか、ということに取り組んでいるんですが、教育であれ、ダイエットであれ、仕事であれ、どの領域でもメソッドとして注目度が高まっていたのが、マインドフルネスだったんです。それで『サーチ・インサイド・ユアセルフ』を読んでみたら、マインドフルネスの本質はどうも坐禅だけじゃないということがわかり、じゃあトレーニングを受けに行こうと。

荻野:いきなり行ったんだ?

石川:はい。なんでも、教える側に立てば学べるんじゃないかと。

荻野:実はこの講師養成トレーニングは世界中から応募があって、倍率が10倍もあるんです。応募要件も細かくあって、組織でのリーダー経験とか、トレーナー経験とか。あと2000時間の瞑想時間。

篠田:応募要件に! でもそれって…

石川:僕、達成していたんです!

篠田:何がどこで活きるかわからないもんですね(笑)。

気づき、気づき、気づき

荻野:石川くんはマインドフルネスな状態のことを、「気づきのトレーニング」と言っているけど、SIYのトレーニングを受けて何か変わったことはある?

石川:僕はかなり変わったと思います。

荻野:そうですよね、私から見てもそう思いました。

篠田:え、どういうところが? すごく興味あります。

荻野:第1回目の講師養成コースのトレーニングのテーマが、自分の感情の動きに気づくこと、相手を受け入れながらラポール(信頼関係)を築くことだったんですが、石川くんはかなり戸惑っているように見えたんです。それが回を追うごとにオープンマインドに、雰囲気が柔和になっていくのを感じました。

篠田:それは、最初はロジックで理解しようとしていたけど、違う道が見つかったという感じですか?

石川:そうですね。マインドフルネスでよく言われる「いまこの瞬間に注意を向ける」って、僕からすると、もういきなり意味不明で。いまってなんですか?っていう。

篠田:そもそも時間とはなんぞや?ってことですね。

石川:そうそう。研究って、基本的には一個一個定義しながら進めていくんですけど、プログラム中は「いまって何ですか?」みたいな空気を読まない発言はせず堪えていました(笑)。でも辛抱した甲斐があって、いまでは毎日なにかを発見しているような感覚なんですよね。「気づく」ことが本当に多くなったと思います。

荻野:企業研修でも、同じような声をよく聞きますね。2分間集中してひたすら相手の話を聞くマインドフル・リスニングというプログラムをやると、まずいかに自分が人の話をちゃんと聞いていなかったかに気づく。次に、相手が自分の話をちゃんと聞いてくれているとは限らないということに気づく。つまり当たり前だと思っていたことが、実はそうでもないという発見がある。これは、「マインドフルネス」な状態であるからこその気づきだと思います。

人はなぜ怒る?

荻野:マインドフルネスな状態という感覚、篠田さんは日常生活の中であります?

篠田:私にとっては毎日夕飯をつくっているときが、マインドフルネスな状態になる時間で、特に野菜を切ったりしている単純作業のときですね。難しい交渉のワンシーンとか、職場のコミュニケーションとかを思い返しながら、自分の荒れた感情を見直しています。

荻野:マインドフル・クッキングですね。そういうイライラ感情を放置しないで見直せるのもマインドフルネスの効果だと思います。

篠田:おふたりはトレーニングを受けられて、イライラしている最中でも感情の動きに気づけるようになりました? 自分はさっきの夕飯時みたいに、時間が経って心と体の動かし方が違う時にスイッチが入って、事後的にやっと気づける。そこはトレーニングでリアルタイムで気づけるようになるものですか?

石川:女性のほうが、男性より気づきにくいかもしれませんね。気づくためには、前頭前皮質が活発になって理性が働く必要があるんですけど、ストレス状況下ではコルチドールが前頭前皮質にたまって理性が働きにくくなる。そのときに女性ホルモンが強いと、感情が脳に鎮座してしまっている状態なんです。

篠田:なるほどねえ。あと夫婦で言い合いをしてしまったときによくあるのが、実は子どものほうが落ち着いていて、後日「ママ、こないだパパに怒ってたでしょ。あれはよくないよ」って(笑)。

荻野:子どものほうが妙にマインドフルネス。

石川:人って、大切なものを侵害されたときに怒るんですよね。だから、子どもに怒るときは、別にあなたに怒っているんじゃなくて、パパが大事にしているものが侵害されているから怒っているんだよと。そして、「さて、パパは何を大事にしていたのでしょう?」とクイズをしてみる(笑)。

後編につづく)