いかにして断絶を乗り越えるか

時間軸・市場・組織で検証する

あらゆる経営者は、将来に向けたビジョンを掲げ声高に変革を主張する。しかし、大々的に変革を銘打っている割には、「一過性のイベント」に終わったり、組織が変わり切れず当初掲げた成果を上げられず頓挫したりといった失敗例が多い。変革という旗印の下で試行錯誤を繰り返しているのが実態なのである。持続的成長に向けた変革とは、言うは易く行うは難き永遠の経営課題である。

なぜ多くの変革が失敗に終わるのか

 多くの日本企業が変革を成し遂げ、持続できないのはなぜか。

 その答えは単純明快で、変革には至るところに「断絶(隔たり)」があり、それを乗り越えることができないからである。

松江 英夫
デロイト トーマツ コンサルティング パートナー 

 元来人間は保守的で一度手にしたものを守ろうとする。人の集積である組織において、その傾向は一層強くなる。

 変革とは、将来に目を向けていま成すべきことをする、ということだ。時にそれは、過去や現状を否定することになる。となれば、組織と個人の関係において、不安が先行し変わることへの抵抗感から潜在的な隔たりが生まれる。

 変革を推進するリーダーにとって、将来の進むべき行く末の道のりは不確実なものであり、結果を保証できるわけでもない。また、変革の方向性に対しては、内外の関係者の利害を一致させすべての賛同を得られるわけでもない。むしろ利害関係が変わって不利益を被る立場が生まれることもありうる。

 将来への道筋が不確実で非連続であるが故の、過去から将来に向けた時間軸に対する「隔たり」、また外部の関係者の期待するものと組織が提供するものの間での隔たり、組織内部おける立場の違いにより利害・共感の度合いには「隔たり」が生まれる。

 言い換えれば、変革という行為を進めていくほどに、自ずと「断絶(隔たり)」を生み出す。それゆえ、変革の必要性が認識されながら、多様な局面で顕在化する「断絶(隔たり)」を乗り越えることができないが故に、多くの変革は当初描いた成果を得ることなく、未達成のままで頓挫してしまうことが多いのだ。

典型的な失敗に見られる3つの事象

 変革が頓挫する場面は至る所に存在するが、そこで見られる典型的な失敗事象として以下のものが挙げられる。

1.過去からの変革疲れ(「またか」という失望感)

 どんな組織も過去から変革は常に試みている。一般に、経営者がトップに就任するたびにビジョンを掲げてプロジェクトを組成し、変革の取り組みを勢いよく着手する。しかし、時間が経つにつれ、想定と異なる現実の難しさに直面し、思うように成果が挙がらず迷走し、次第に推進力を失いやがて頓挫する。過去から続く疲弊感は、現場から新たな取り組みへの動機付けを奪っていく。
 同じことが繰り返される失望感は、「またか」という言葉に象徴されている。
 組織が変われない挫折体験の蓄積、それによる変わることへの“トラウマ”が、新たな変革を妨げる悪循環に陥っている。こうした過去から現在に続く「またか」を払拭できない限り、将来の変革への期待感やモチベーションは高まらず、成果を望むことは難しい。

2.市場変化への立ち遅れ(“内向き”によるスピードの欠如)

 変革は外部環境の変化のスピードに間に合わず成果が得られない例も多い。例えば、一般消費財、食品、アパレルなど一般消費者のライフスタイルとの関連が密接でライフサイクルが短い製品サービスを提供している業界などでは、新製品開発の内容やタイミングの見極めが収益を大きく左右する。電機業界や半導体業界など、需要の不確実性や価格競争が著しい市場においては、固定費削減のリストラクチャリングを断行せざるをえない場面も多い。
 こうした場合、デジタル化やグローバル化で激動する市場のスピードを上回って組織が変化することは難易度が高い。実際に、変化するニーズに対応すべく、新製品開発やバリューチェーン改革を部門横断で実施しようにも、部門の縦割りや既得権益への抵触、内部的な責任の押し付け合いなど組織の内向きな調整にエネルギーを奪われ、ニーズの変化への対応が間に合わず、スピード感なきままに不十分な結果しか得られない事象はよく起こりうる。

3.組織内の抵抗勢力による埋没(現場の“やらされ感”)

 経営トップ直轄で変革施策が着手されたものの、組織内の至るところで明らかな抵抗に遭遇する場面はよく起こる。規模の大小はあるものの同一組織内における部門の壁や現存の制度・ルールとの間で、変革の方向性と既存の考え方の隔たりは必ず発生する。
 例えば、新規事業を立ち上げイノベーションを起こす変革をしたいとする。新規事業のためのリソースや投資判断は既存事業とは異なるべきもので体制上はトップ直轄で位置付けられるのが通常だが、実際には、現実的なリソース制約から、携わるメンバーは既存事業からの兼務・出向で構成することは珍しくない。
 その場合、組織内の権限や人事評価は既存ルールで行われるため、いくらよい事業アイデアを出しても、いざ実行する段階になると既存事業部門にとって一部不利益になると反対される、あるいは、既存事業のメリットにならないと管掌下にある投資や権限が制約されるなどの抵抗が生じる。社長直轄といえども、既存組織の権限や人事評価上の処遇までを動かせないならばその展開に広がりを欠くのは当然である。
 加えて、それらの各種の抵抗を受けながら強力に推し進めるとすると、各方面での軋轢が高まり現場での“やらされ感”は一気に高まる。
 実は、この“やらされ感”は、変革を推進する側も、指示を受けて対応する側も個人レベルでは双方にとって起こりうる。変革プロジェクトに関与する主要メンバーは、既存業務で重要な役割を負っていることが多く、変革プロジェクトに兼務で関与する場合がほとんどだ。
 現業に加え負荷やリスクが高まる一方で、プロジェクトの成果が見えにくく明確な評価につながらないことも多い。いわば変革推進側であっても、報われない徒労感を抱えながら「組織の命令だから」という心理的に抵抗感を持つことが、変革のエネルギーを次第に低下させていくのである。

いずれの失敗も
根本的原因は“断絶”にある

 これらの変革が失敗に終わる根本原因は要素間での“断絶”、いわば“つながり”の欠如にある。

 1のモチベーションの低下、いわゆる「変革疲れ」が蔓延してしまう背景には、過去から現状に至る変革の経験を、組織の中でしっかりと総括しきれないままに将来に向けて同類の取り組みを繰り返すことにある。過去に取り組んだ変革の成果や教訓を組織内で共有し学習することなくして、将来にわたって成果を残し続けることは期待しにくい。つまり過去から将来に向けた時間軸の中での「断続」が生じてしまうのである。

 経営者の交代や経営計画改訂のたびに新たな変革プロジェクトが起こり続けたとしても、過去から現在に至る過程で根ざしている失敗体験など、時間軸における断絶をどう解消するかは、変革成功の上で大きな課題である。

 2つ目の市場変化のスピードに間に合わず、変革が内向きに陥ってしまう背景には、市場環境や顧客ニーズなどの外部の環境変化のスピードと、それに対する組織の適応力との間に生まれる断絶がある。あらゆる変革への取り組みには相当なエネルギーを要する。いつのまにかそれらが変革の取り組み自体が目的化し内向きの方向に行きやすく、結果的に外部に対する成果や影響を忘れがちになる。

 3においては、いざ組織内で変革を実行する上で、既存の既得権益との対立、現存組織、制度ルールの制約を解消する努力なくしては解決できない。変革は未来志向のものであるがゆえ、過去から現在にわたり根強く定着している組織・制度ルールとは時として隔たりを生む。その上で、変革を進めようとしても、一方的なやらされ感や責任の押し付け合いなど組織内でマイナスの力が高まり、組織と個人の心理的側面でも断絶が高まることになる。

 これら3つの失敗事象の背景には、それぞれの文脈で「断絶」が存在する。それは、過去から現在、そして将来といった「時間軸の断絶」、顧客や取引先など外部環境と組織の間に存在する「市場との断絶」、そして、同一組織内であっても、経営と現場、部門間など利害や立場が異なる間に発生する「組織内の断絶」である。

 過去から現在に至る失敗経験に基づく失望、将来の変化への心理的拒絶などの時間軸を超えられない隔たり、外部の環境変化と組織の変化スピードとの隔たり、組織内における部門や立場間での隔たりなど、変革は時間軸、市場、組織内の3つの文脈における断絶を越えることなくして、成功裡に進むことはありえない。

 一般に企業が変革する局面では、特定テーマでプロジェクトを立ち上げて始めることが多い。いわば、「変革プロジェクト」は組織全体の変革に向けた最小単位である。しかし、個別のプロジェクトレベルにおいても、時間軸、市場、組織内の3つの文脈における断絶によって滞ることが多い。

 持続的に組織を変革するうえでは、こうした最小単位の変革現場から断絶を乗り越え、組織全体において、つながりをもって取り組めるかが問われている。

持続的成長に求められる変革への挑戦

 プロジェクトという最小単位の一局面においても、いつでも断絶は生まれ、それがきっかけで変革は頓挫する。その範囲が組織全体に広がっても原理は共通である。規模の大小や業界や分野の違いなどと無関係に、あらゆる組織において、“つながり”の巧拙によって変革全体の成果が異なってくるものだ。

 ましてや、持続的成長に向けては、組織として、変革を一過性のイベントに終わらせず、変革の過程で起こりうる各種の断絶を乗り越え“続けてゆく”ことが求められる。

 持続的成長に向けて組織が変革を継続するうえでは、超えるべきハードルはさらに高まる。いかにして変革の持続性を持たせることができるのか、多くの組織に求められるチャレンジがそこにある。

 次回以降は、持続的に変革し続けることができる組織の要諦、いわば組織の「自己変革力」について考察したい。

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