企業とNPOの協働が次のイノベーション創出を加速する

【特別対談1】小沼大地(NPO法人クロスフィールズ 共同創業者・代表理事)

企業の競争戦略、イノベーション戦略の観点からCSV経営をひも解く連載第2回は、NPO法人クロスフィールズの共同創業者・代表理事として活躍する小沼大地氏を迎え、社会課題解決型の新事業創造とそのビジョンについて聞いた。 

我々は“CSV時代”への大きな転換点にいる

藤井 マイケル E.ポーター教授が提唱するCSV (Creating Shared Value)は、ここ1~2年の間に日本でも幅広く認知され、経営に取り込む経営者も増えてきています。トライセクター(ビジネスセクター、パブリックセクター、ソーシャルセクター)での協働の先に、イノベーションの種があるという期待感も静かに広がりつつあるように感じます。
 小沼さんは青年海外協力隊、外資系コンサルティング会社を経て、2011年にNPO法人クロスフィールズ(以下CF)を設立、「留職」プログラムを展開されてきました。CFにおけるこれまでの活動を通して、日本におけるCSV、あるいは企業とNPOの協働の現状をどのように捉えていらっしゃいますか。

小沼大地
NPO法人クロスフィールズ
共同創業者・代表理事

一橋大学社会学部・同大学院社会学研究科修了。青年海外協力隊(中東シリア・環境教育)に参加後、マッキンゼー・アンド・カンパニーに入社。同社では人材育成領域を専門とし、国内外の小売・製薬業界を中心とした全社改革プロジェクトなどに携わる。2011年3月、NPO法人クロスフィールズ設立のため独立。世界経済フォーラム(ダボス会議)のGlobal Shapers Community(GSC)に2011年より選出。

小沼 CFを創業して3年半が経ったところですが、その過程で日本の中の空気が大きく変化してきていることを肌で感じています。
 現在は新興国のソーシャルセクターに民間企業の社員の方を派遣する「留職」を推進していますが、実は最初にこの事業を構想した際の事業コンセプトは、「青年“国内“協力隊」でした。簡単に言ってしまえば、次世代を担う人材を日本国内の社会課題の現場に派遣するというアイデアでした。すなわち、日本国内の社会課題解決に取り組む人材を、企業・官公庁からセクターを越えて流動化させることで、まさにトライセクター人材の育成と社会課題解決型イノベーションの創造を促進すべきだと考えていたのです。

 アメリカには、青年“国内”協力隊にあたるAmeriCorps(アメリコー)があります。アメリカの青年海外協力隊に該当するPeace Corps(ピースコー)の国内版として、アメリカ国内の社会課題解決の現場で一定期間働く機会を若者に提供することを目的としたプログラムで、1990年代に当時のクリントン大統領が創設し、オバマ政権でも踏襲されています。
 私はこれを見て、日本でも同様のコンセプトが受け入れられるはずだと考えたのです。しかしながら、青年“国内”協力隊は、企業でも官公庁でも導入のメリットがまったく理解されず、けんもほろろに門前払いが続きました。まだCSV、クロスセクターという概念への理解がほとんど醸成されていない時期でした。

藤井 剛
デロイト トーマツ コンサルティング
パートナー

電機、自動車、航空、消費財、ヘルスケアなど幅広い業種の日本企業において、「成長創出」「イノベーション」を基軸に、成長戦略の策定や新規事業開発、海外市場展開、組織・オペレーション改革等のコンサルティングに従事。社会課題を起点にした新事業創造や、地方自治体・複数企業を核とした地域産業創造に多くの経験を有する。主な著書に『Creating Shared Value : CSV時代のイノベーション戦略』。その他著書、メディアへの寄稿、セミナー講演多数。

藤井 創業された2011年というのは、ちょうどポーターがCSVを論文として発表した時期と重なりますね。もともとは国内の課題解決を目指して創業されたということですが、それがどのようにして留職プログラムへと変化していったのでしょうか。

小沼 当時は「グローバル人材育成」というキーワードが注目され始めた時期でした。ある企業で「国内でなく海外だったらありうる」というお話をいただいたことをきっかけに、事業モデルをピボット(方向転換)し、海外NPOに日本企業から人を派遣するという、現在推進している留職プログラムの原型が出来上がっていきました。それからまだ3年半ですが、今では日本を代表する企業20数社以上と取引ができるようになりました。ある企業ではなんと国内NPOへの派遣も開始して、もともと考えていた事業コンセプトに近い「国内版留職」も実現できています。
 さまざまな成功事例が出てきたことで、企業や官公庁においても、NPOとの協働による新しい価値創出やCSVという考え方が浸透してきたと感じています。藤井さんのようなビジネスセクターで活躍されている経営コンサルタントがCSVを主題にした書籍を出されたことも変化を後押しし、日本の一部の経営者層には、CSVが理解されてきたのではないでしょうか。

藤井 ここ1~2年でかなりの変化があったということですね。CFさんとは昨年、「CSVイノベーションフォーラム」を共同開催させていただきました。コンサルティング会社とNPOが共催するという日本の中でも新しい試みでしたが、CSVに関心を持たれている企業経営者やNPO関係者など多様な方々が数多く集まり、大変な熱気を感じましたね。何がこのような変化をもたらしたのでしょうか。

小沼 東日本大震災が“何か”を大きく動かしたのではないかと考えています。震災を契機にさまざまな社会課題が顕在化し、結果的にNPOの相対的な位置が押し上げられたと感じています。また、企業とNPOが協働して社会課題解決に挑戦するという機運も一気に盛り上がってきました。震災が個人個人に起こしたかすかな意識の変化が積もっていって、大きなティッピングポイント(変化点)を迎えたということなのかもしれません。

新興国NPOとの協働の最前線で見える日本の潜在力

藤井 大きく空気が変化してきたとはいえ、まだまだNPOと連携する意義を理解している日本企業の経営者は限られています。そもそも、優秀かつ熱意ある人材がソーシャルセクターに集まっていること自体が十分に認知されていません。

小沼 日本国内ではまだまだこれからですが、海外ではソーシャルセクターに本当に優秀な人材が集まってきていると感じますね。新興国のNPOにはその国の最も優秀な人材が集まっていて、彼らがインパクトあるイノベーティブな活動を推進しています。しかし、そのことは日本企業の経営者層にはほとんど認知されていないと思います。
 留職プログラムでは、日本企業の幹部候補生が海外NPOに派遣されるわけですが、多くの場合、現地NPOのスタッフの方々の熱意と優秀さとに、圧倒されてしまいます。CFとしても、留職とは新興国のリーダーたちの下に「弟子入り」する修行の旅だと捉えているところもあります。

藤井 私は、留職においては、各企業の人材特性を理解した上で、どのNPOとマッチングするかの設計が重要で、CFさんの事業の強みは、丁寧なマッチングにこだわっていらっしゃることだと思っています。日本企業がCFさんに対して感じる価値もそこにある。逆に言えば、まだまだ日本企業にとってはどの現地NPOとどのように連携してよいか極めて未知な状態だと言えます。そもそも現地のNPOは日本企業との連携にどんな期待感を持っているのでしょうか。

小沼 多くの新興国、途上国の現場では、日本企業がリスペクトされていることが多いため、派遣されてくる人材の技術力や姿勢から何かを学び取りたいと考えるNPOが比較的多いのです。ただし先ほど申し上げたように、実際には現地の優秀な人材の活躍を目の当たりにして打ちひしがれるケースもあります。そんなときにも現地のNPOから日本人が評価されるポイントは、実は日本人の「真面目さ」だったりします。NPOから直接の報酬はもらっていないのになぜそんなに一生懸命自分たちのために働いてくれるのか、そこまでやってくれるのなら一緒に何か成し遂げようじゃないか、と感じさせる「何か」を日本人は必ず持っているのです。

藤井 それは面白いですね。実はそのような気質は、日本企業および日本人が有する、世界的にも競争力のある“見えないアセット”かもしれませんね。

小沼 はい、私もとても面白いと思っています。さらに言えば、日本企業の創業理念からくる精神性のようなものも同様に“見えないアセット”かもしれません。
 以前、留職プログラムの受け入れについてインドのNPOと打ち合わせをした際に、「A社はエアコンを作っている会社だろ?」と聞かれたので「確かに1製品としてエアコンを作っているが、それ以前に、ものづくりを通じて国と社会をよくしようと本気で考えている会社だ」という話をすると「ウソをつくな。インド企業はみんな金もうけしか考えてないぞ。確かめてやるからそいつらを連れてこい」と。留職後あらためて話をしてみると、「お前の言っていたことは正しかった。A社から来たあいつは確かに本気で技術を通して国をよくしようと考えていた。これから家の家電は全部A社にする」と(笑)。

藤井 日本人が本質的に有する社会性のようなものは、東日本大震災においても世界から賞賛を集めました。日本はまだ、このようなアセットを“CSV力”にまで十分に昇華しきれていないのかもしれませんね。

日本企業とNPOの連携を加速するには

藤井 日本企業側の視点で、NPOと連携することの意義についてはどのようにお考えですか。

小沼 第1には、社会課題の最前線で、イノベーションの種となりうる現地目線でのインサイトが得られるという点ですね。現地の社会ニーズの専門家たるNPOに入り込むことによって、現地市場で何が起こっているかが肌感覚でつかめるようになるというのが非常に大きな要素かと思います。
 2つ目は、NPOの有する貴重なリソースをテコにできる点です。よくCSVの事例で、NPOが支援する貧困層の女性たちのネットワークを活用し、企業が農村部での新たな流通・販売チャネルを構築したというケースが出てきます。これから市場となる中間所得層以下の市場に効率的にアクセスしようとしたときに、すでに何らかの形でネットワークやリソースを形成しているNPOとの連携は戦略的に見ても非常に重要です。
 また、人材育成やコミュニティ形成の側面も見逃してはなりません。NPOとの協働の最前線で、社内のしがらみに囚われることなくまったく異なる価値観に触れる経験をすることで発想が枠を越え、“イノベーター人材が解き放たれる”面があります。同時に、パッションあふれるNPOのメンバーとの協働が社内に“熱狂”を生み出します。藤井さんのご著書にも書かれているように、その“熱狂”こそが、イノベーションを産み出すためのエネルギーの源泉となると感じています。

藤井 まったく同意です。ではこのように多くの意義があるNPOとの協働が、日本企業においては十分に進んでいないのは、何がボトルネックになっているのでしょうか。

小沼 まず最初のボトルネックが、企業・NPO双方の理解不足にあることは否めません。お互いに成功体験がない中で、手探りでやっている段階ですから。お互いのセクターでの“言語”が異なるため、共通言語で会話することができないのです。
 CFが提供しようとしている価値の本質は、まさにこのボトルネックの解消にあります。この解消のためには、成功事例を積み重ねていくしかないですね。CFとしても、素晴らしい企業と素晴らしいNPOをつなぐことで、何とかして1つでも新たな事例を作っていこうとしている、というのが現状です。
 また、NPOとの連携への機運が高まっていけば、次に来るボトルネックは企業とNPOをつなぐ手法の不足でしょう。テクニカルな話ですが、信頼できるNPOのデータベースのようなものは特に存在していません。そのため、自社が進めたい社会課題解決が見えていたとしても、どのように最適なNPOを探してよいかがわからないという話はよく聞きます。その意味でも、私たちのような仲介役が価値を発揮する場面は多いのではと思っています。
 最後に付け加えるならば、特に日本ではソーシャルセクターの力がまだまだという点が挙げられます。この点については次回お話したいと思います。

企業がNPOを設立して社会課題解決型の
新事業創造を進めるという選択肢

藤井 NPOの立場が弱い日本で、小沼さんはCFをNPOとして立ち上げられたわけですが、その際、法人形態を株式会社にするかNPOにするかの選択を迫られたと思います。NPO法人にした経緯はどのようなものだったのでしょうか。

小沼 実は、創業時には株式会社とNPO法人の両方を作りました。その上で、走りながらどちらがやりやすいかを決めようと思っていましたが、結論としてはNPO法人のほうが断然事業が進めやすかったのです。
 実際に留職プログラムを進めるためにはさまざまなNPOとのネットワーク構築が必須になりますが、そのような活動では、株式会社クロスフィールズという“顔”で向き合うと、「企業の御用聞きで来たのか」となってしまう。そうではなく、「同じNPOとして一緒に社会課題を解決しましょう」というのが私たちのスタンスなので、NPO法人クロスフィールズという“顔”の方が、そのスタンスを現地のNPOに正確に伝えることができると考えています。この点はとても大きいですね。
 またNPOという旗印を掲げることにより、多くの応援者・賛同者を集めることにもつながりました。NPO法人という組織形態は創業者が金銭的メリットを享受できないので、「自分たちは金儲けをしたいのではなく、世の中を変えることに対して全力で取り組んでいる」という姿勢を示すことができるからです。この熱が多くの方に伝播し、留職プログラムを広めるべきだと応援してくれる方がたくさん現れました。
 ただ、最終的に我々がNPO法人を選んだ最大の理由は、私たち自身がNPOとして社会に大きなインパクトを残すことで、日本のNPO業界への認識を変えるような成功事例になりたい、という“想い”でした。

藤井 なるほど。新事業を始める際の法人形態としてのNPOのメリットについては、実は企業ではほとんど認知されていません。

小沼 はい。ですから藤井さんが著書の中で提案されていた、企業が自社でNPOを設立して新事業創造を推進するという考え方は、非常に面白いと思います。そこに集まってくる人々が熱を持つということがイノベーションには大事な要素ですが、それを実感するためにも、自社NPOというのはとてもよい仕掛けではないかと思います。

藤井 例えばアメリカの通信会社のベライゾンが、自社が昔から有していたベライゾン財団をあるタイミングで衣替えし、アメリカの貧困地域などに教育や医療を届ける社会課題解決型の新事業を推進するエンティティとして活用しています。すなわち、旧来は企業資金をもとにソーシャルセクターで寄付などを行ってきた自社財団に、ビジネスの要素を持ち込むことでクロスセクターで活動するエンティティに昇華したといえます。当然、小沼さんが指摘されたように、財団という“顔”が、外部のNPOや政府機関、企業とのネットワーキングにおいても重要な効果を発揮していると思います。財団に投下される毎年の予算は大きく変えず、その資金を単なる寄付ではなく、自社にとっても中長期的な柱ともなりうる新事業に投下するという考え方は、日本企業においても今後出てくるのではと見ています。

小沼 民間企業による自社NPOというのは大変先進的ですが、そもそも日本でもNPOの活動のバリエーションはかなり広がってきています。伝統的には、寄付を主な資金源とする寄付型のNPOがほとんどでしたが、近年は事業収入を主な資金源とする事業型のNPOも増えてきています。これに伴って、高いプロフェッショナリズムを持って企業とさまざまな協働を仕掛けるNPOや、本当にイノベーティブな活動を行っているNPOがたくさんあります。日本企業はこのようなソーシャルセクターの動きを見逃さず、逆に先進的NPOの取り組みを盗むくらいの意識を持ってもらいたいと思っています。

期待される経営者の意識変革

藤井 日本企業とNPOの連携が期待される一方、まだまだ日本企業の経営者に、例えば海外のイノベーティブなNPOを見習う、といった発想・姿勢はほとんどないと思います。
 先日、CSVを実際に経営に取り込んでいるある日本企業の経営者が「世界経済フォーラム(ダボス会議)では、世界を代表する海外の企業経営者は社会起業家と対等に議論をすることができているが、日本企業の経営者は、語学もさることながら、そもそも会話の内容についていけない。これが日本の経営者の実力だ」とおっしゃっていました。この点について小沼さんはどう思いますか。

小沼 ソーシャルセクターに目を向けている日本の経営者はまだまだ少ないですよね。海外企業の経営者は、社会起業家やNPOの代表と普通に会話ができるのですが、日本の経営者はそれがほとんどできないというのは総論では同感です。ただしその原因は、日本のNPO業界の側の力不足にあるという面も感じています。例えば日本のNPOの代表が欧米の一流のNPO経営者と互角に話せるかというと、自分自身も含め、まだ同じ目線では話せないように感じますので。
 一方で、経営者の中には非常に高い感度をお持ちの方もいらっしゃいました。先日、外部から招聘されてある日本企業のトップに就任された経営者は、「CSVを具現化するために今の会社にきた」とおっしゃっていました。日本企業がCSV経営に変わっていくにはどうしたらよいのでしょうか、とお聞きしたら「CSVを志向できるようなレベルの高い経営者は、残念ながら日本企業には少ない。ただ一つよいことがあって、日本企業の経営者は横並び意識が強いから、1社が成功したら他も全部変わる。だから私はその最初になるんだ」と。大変感動したのを覚えています。

藤井 素晴らしいお話ですね。今後CSVがさらに日本企業の中で浸透し、進化していくことを期待させてくれますね。ありがとうございました。本テーマでの議論はここまでにしましょう。今回の議論の中でも登場した日本のソーシャルセクターをテーマに、次回また議論させてください。