ハードワークは
働く時間を指すのではない

長きにわたって結果を出し続けている人は、どのような働き方をしているのか。その問題意識でできあがったハーバード・ビジネス・レビューの最新号。インタビューで伺った日本電産・永守社長の言葉が印象的だった。

 

経営者は拘束時間が長いから
仕事が大変なわけではない

 40歳を超えると、仕事の能力として「体力」が非常に重要だと実感します。頭の良さや、人柄・経験など置いておいて、とにかく体力のある人が仕事ではなにより求められます。

 私が編集長に就任した際、尊敬する経営者の方に、心構えをアドバイスしてくださいとお願いしました。かえって来た言葉は「健康に気をつけることです」と、あまりにシンプルなもので椅子から滑り落ちそうになりました。しかし時間がたつと、仕事において健康の大切さ、つまりは自分のコンディションを保つ重要さは日増しに痛感しています。

 体力のある人は、長時間労働に耐えられます。それだけではなく、疲れている状況でも正しい意思決定を下せるでしょうし、どんな時も人に丁寧に接することができます。いつ重要な意思決定を迫られるかわからない。そんな時に疲れていては、質の高い仕事ができなくて当然でしょう。仕事を先延ばしすることも同様です。

 では、この場合の体力とは何を指すのでしょうか。風邪を引きにくい強靱な肉体もそこには入るのでしょうが、それだけでは説明がつきません。また仕事の疲れも説明しにくいものです。仕事をしていると筋肉は使っていないのに、夜「疲れた」と思うことがあります。ストレスなのかプレッシャーなのか、自覚しにくいだけ「疲れの成分」は見えにくいです。

 以前、社長になったばかりの方に「経営者になって何が一番大変ですか」と聞いたところ、「会議」と答えらえました。会議の回数が増えたことより、会議の中身だそうです。「どの会議も、私が真ん中に座り、すべての議題を理解して、納得して、意思決定しないといけない。すべての会議でその役割を担うんです」とのこと。確かに、出席していればいい会議とは雲泥の差です。

 経営者は忙しいと言います。その意味は長時間拘束されるという「量」の問題ではなく、むしろ仕事の「質」の問題です。仕事の密度が濃い。時間の密度が濃い。つまり質的な意味で、ハードワークを強いられるのが経営者なのです。

お酒を飲んだら解消できるなら、
ストレスとは言えない

最新号は、このような問題意識をもってつくりました。結果を出し続けている人のエネルギーの源泉を探ろうという試みです。

 特集では日本電産社長の永守重信さんにインタビューさせていただきました。永守さんは、元旦以外、仕事を休まないことで有名です。趣味と言えるものもなくひたすら働いて、自ら起業した会社を世界的な企業へと育て、いまなお企業の成長に貪欲です。なぜこれほど長期にわたってハードワークをこなすことができるのか。仕事の疲れはどのように解消されているのか。ストレスについて伺ったところ、「お酒を飲んだら解消できる程度のストレスは、仕事のストレスとは言えない」とおっしゃいました。そこでインタビューのタイトルは「仕事のストレスは、仕事で癒す」と付けました。

 永守さんのお話しを伺っていると、仕事に夢中になれるのが羨ましく、また眩しく感じます。当初抱いていた、「なぜこの人は仕事に飽きないのだろう」という疑問はあっさり解消されました。創業から40年あまりで世界的な企業を築いてきた永守さん。その間、起業家、ベンチャー経営者、零細企業経営者、中小企業の経営者、上場企業の経営者、世界的企業の経営者とその役割を刻々と変えていったのです。飽きるはずはないでしょう。仕事で成果を出すことで、自らの役割が刻々と変わっていく、だから飽きない。いまなお、企業の成長を目指しておられるから、仕事が楽しくて仕方ないのも当然です。ご自身の仕事の質も、年々高まったいるとおっしゃいます。

 永守さんのお話しを伺って、能動的なハードワークの意味を理解できました。それは、成長につながる密度の濃い働き方であり、ハードワーカーとは仕事を通して成長し続けている人のことだと思います。ハードワークというと長時間労働を連想しますが、仕事時間の「量」だけではなく「質」についても、もっと議論されてしかるべきです。

 この夏、まとまった休みを取る人も多いでしょう。弊誌の最新号が働き方を見直す契機になれば幸いです。(編集長・岩佐文夫)