「新結合」でビジネスモデル・イノベーションを起こせ

実践!ビジネスモデルをデザインする(後半)

「ビジネスモデル・イノベーションは天才でなくても起こせる」。すなわち基本的なパターンを組み合わせ、発想を広げればいい、と板橋氏は言う。その実践方法として、前回、組み合わせの基となるプロトタイプをつくった。今回はいよいよつくりあげたプロトタイプを組み合わせて発想を広げ、それを自社に展開することで新たなビジネスモデルを生み出す手法を紹介する。大好評の「ビジネスモデル・デザイン」連載、ついに最終回。

 「モノ」で儲けるか、「コト」で儲けるか

前回は、ビジネスモデルの「プロトタイプ」をチームでつくるプロセスを、架空の文房具メーカーB社を設定し解説しました。今回は、そのプロトタイプを組み合わせ、さらに「アナロジー発想」で取り込むことにより、実在する消費財メーカーA社が実務で使えるビジネスモデルに落とし込んでいきます【図1】。

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【図1】ビジネスモデルのアナロジー発想

 まず最初に、B社のビジネスモデルのプロトタイプの中から、事業構造が大きく異なる2案をご紹介します。1つは、「モノ」で儲けるビジネスモデル。もう1つは、「コト(=モノ+サービス)」で儲けるビジネスモデルです。その次に、実際にA社が採用したビジネスモデルをご紹介します。それでは、「ビジネスモデル・キャンバス」と「ピクト図」の2つを使って、具体的にみていきましょう。

 

案1:「モノ」で儲けるビジネスモデル

 1つめの案は、自社商品「ビジネス専用の文房具(以下:Biz文具)」の販売収益を拡大するために、「パートナー(KP)」企業とコラボレーションした補完商品を充実させていくというもの。たとえば、アプリ開発会社と連携して「Biz文具」を使ったアイデア発想支援アプリを作る。あるいは、充実した付録がウリの女性雑誌のように、「Biz文具付きビジネス書・ムック雑誌」を出版社と協業してシリーズ刊行するなどです【写真1】【写真2】。

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【写真1】案1のビジネスモデル・キャンバス
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【写真2】案1のピクト図

「価値提案(VP)」は「文房具ではなく、思考ツール」。自社商品「Biz文具」だけで完結しないビジネスモデル、すなわち、パートナー企業のアプリや書籍・雑誌と連動した「ビジネス思考ツール(デジタル+アナログ)」全体のビジネスモデルをデザインしています。あえてアプリや書籍・雑誌を自社単独商品にせず、「他社コラボ商品」にしているのが特徴です。「Biz文具」の仕様をオープンにし、パートナー企業と共創するオープン・イノベーション型のビジネスモデル・パターンです。

案2:「コト」で儲けるビジネスモデル

 2つめの案は、「価値提案(VP)」は「ビジネス思考ツールではなく、ビジネス思考スキル」。つまり、道具の提供だけではなく、道具の使い方まで提供するビジネスモデルです。ヤマハがピアノを普及させるために音楽教室を作ったのと同じ発想です。「パートナー(KP)」としてセミナー会社と協業し「Biz文具の使い方セミナー」とセットで販売します。アイデア発想セミナー、企画書の書き方セミナー、プレゼンセミナーなどで「Biz文具」を使用します【写真3】【写真4】。

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【写真3】案2のビジネスモデル・キャンバス
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【写真4】案2のピクト図

 仕事を効率化するための文房具の使い方ではなく、ビジネス・アイデアを創造するための使い方ノウハウはあまり公開されていません。
 たとえば、経営コンサルタントの大前研一氏はオリジナルの特注大型方眼紙ノートを愛用しています。使い方が大変ユニークで、本人から直接聞いた話によれば、アイデア発想するときはノートの左下から右上に向かって斜め上の方向に書いていくそうです。通常ノートは上から下に使うもの。しかし、大前氏の使い方はその逆。この方法だと右脳が刺激されるのでアイデアが閃きやすいとのことです。
 また、知人のクリエーターは、色やサイズにこだわります。「企画書を修正するときは赤入れしない。ネガティブな気分にならないように青入れ修正する」「ブレスト会議用の付箋の形と色はアイデアに影響するので特注している」「ペン先が0.9mmと0.5mmでは企画の内容が変わる」そうです。

 このような使い方のノウハウがあってこそ、「Biz文具」は威力を発揮します。ノウハウと実績をもった人を講師に迎えた実践的なビジネススキル・セミナーはニーズが高いのではないでしょうか。

A社が「Biz文具」からアナロジー発想したビジネスモデル

 さて、ここまでは、日常業務のしがらみにとらわれない柔軟な発想をするために、事業構造の似ている他業界のB社でビジネスモデルを考えてきました。最後に、そこで発想したビジネスモデル・パターンを「レゴ」ブロックのように組み合わせ、自社に照らし合わせて考える「アナロジー発想」を行います。

 実際にA社で採用されたビジネスモデルを詳しく見てみましょう。A社は子ども向け製品を製造・販売する業歴27年の消費財メーカー。培った技術・経営資源をいかして「オフィス向け製品」を開発しました。本体と消耗品の2つで構成される製品で、消耗品で継続的に収益をあげる「消耗品モデル」(連載第3回参照)です。
 ただし、この製品の使い方には少し慣れが必要で、適正に活用されないと消耗品で安定した収益を上げることができません。そのため、「Biz文具」の第1案では十分な効果が見込めません。そこで、もうひとつの第2案からアナロジー発想して、「使い方教室」を展開するプランがでました。誰が「使い方教室」を主催するのか。A社は長年コンシューマー向けのビジネスをしてきたので、法人にアプローチする「チャネル(CH)」がありません。
 そこで、すでに法人向けサービスを提供している企業で、「パートナー(KP)」として連携できそうな企業を探しました。また、この製品は設置場所を選ぶこともあり、最初からオフィスに常設できないかと不動産デベロッパーにもアプローチしました【図2】。

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【図2】アナロジー発想を行ったA社のピクト図

  結果的に不動産デベロッパーではないパートナー企業になりましたが、ほぼこのピクト図通りのビジネスモデルを構築することができました(秘密保持契約の関係で詳細は割愛します)。「使い方教室」のノウハウをライセンス提供し、パートナー企業の既存の法人向けサービスに包含して提供することになりました。
 うれしい誤算としては、製品を導入された企業の社員の方が自宅でも使いたいということで、家庭内でのニーズを発掘できたことです。現在「オフィス向け製品」を「家庭向けに製品」にカスタマイズして販売することを検討中です。

『DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー2013年8月号』の論文「リーン・スタートアップ:大企業での活かし方」でスティーブ・ブランク氏が「顧客開発モデル」を提唱しているように、新規事業のビジネスモデルはあくまでも「仮説」にすぎません。A社のように実際に販売して顧客の声を聞きながら、仮説検証・軌道修正していくことが肝要です。

 以上をビジネスモデル・キャンバスにまとめると【図3】になります。

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【図3】アナロジー発想を行ったA社のビジネスモデル・キャンバス

 

基本パターンの組合せだけでも、ビジネスモデル・イノベーションは起こせる

 これまで、ビジネスモデル・キャンバスとピクト図解の2つを「共通言語」として使い、チームで対話しながら、ビジネスモデルをデザインする手法をご紹介してきました。最初から完璧なビジネスモデルをつくろうとするのではなく、ビジネスモデルの「プロトタイプ」を大量につくり、それらを「レゴ」ブロックのように組み合わせることが重要でした。

 経営学者の野中郁次郎氏(一橋大学名誉教授)は、組織的知識創造理論において「SECIモデル」を提示しています。
 個々人の体験による暗黙知を伝達し(共同化:Socialization)、獲得した暗黙知を共有できるよう形式知に変換し(表出化:Externalization)、形式知を組み合わせて新たな形式知を創造し(連結化:Combination)、それらを個人が実践して体得する(内面化:Internalization)――これが、SECIモデルの知識創造プロセスです。
 ビジネスモデル創造におけるプロセスでは、ビジネスモデル・キャンバスとピクト図解は「表出化」と「連結化」で活躍します【図4】。

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【図4】ビジネスモデル創造のためのSECIモデル

「表出化」とは経験知、暗黙知を「見える化」することにほかなりません。この点、ビジネスモデル・キャンバスとピクト図解は一定の表記ルールによってビジネスモデルを「見える化」し、形式知化するものと言っていいでしょう。 また「連結化」とは、複数のビジネスモデルを組み合わせることによって新しいビジネスモデルを生むことだと言い換えることができます。iPodでビジネスモデル・イノベーションを起こしたスティーブ・ジョブズは、「創造性とは物事を結びつけることにすぎない」といっています。

 ビジネスモデル・デザインというと非常に高度なスキルが求められるように感じるかもしれませんが、基本的なパターンを身につけてそれらを組み合わせれば、発想が広がり、新たなビジネスモデルが生み出せるようになるものなのです。スティーブ・ジョブズのような天才でなくても、方法論さえマスターすれば、ビジネスモデル・イノベーションは組織やチームで起こせると私は考えます。

 5回の連載を通して私がお話ししてきたことは、そのためのトレーニングメニューです。
最近、教育機関でもビジネスモデル・デザインに対する関心が高まってきており、大学や商業高校でピクト図解を使った実践授業が始まっています。教育機関向けの資料を公開していますので、「ビジネスモデル教育」に興味関心のある方は、『<教育機関向け>ピクト図解入門 ビジネスの仕組みがスッキリわかる!』をご覧ください。

 最後になりましたが、私はビジネス・プロデューサーとして仕事をする際、「実行し、成果を上げられない理論やアイデアは無用の長物である」ということを常に意識しています。どんなにすばらしい青写真を描いても、それがお手伝いする企業において実現不可能なアイデアや提案では意味がないからです。本連載はこの観点に基づき、理論に走るのではなく、読者のみなさんに現場の実務で役立てていただける内容であることを大前提に置いて書いてきました。
 日々身の回りのビジネスを「ビジネスモデル・キャンバス」と「ピクト図解」の2つでビジュアル化し、頭の中にビジネスモデル・パターンを蓄積して「ビジネスモデル思考」を鍛えてください。きっと、いままでとは違う視界が開けてくるはずです。(了)

 

板橋 悟(いたばし・さとる)
1963年生まれ。「ピクト図解」考案者。エクスアールコンサルティング株式会社代表取締役、エデュテインメント・ラボ代表。東京工業大学理学部物理学科 卒業後、リクルートに入社。米国マサチューセッツ工科大学(MIT)に社費留学。帰国後、KIDS向け教育(エデュテインメント)事業を新規事業として立 ち上げる。現在はビジネスプロデューサーとして、企業の新商品開発・新規事業開発支援をするかたわら、大学生に「世の中の仕組み・儲けのカラクリ」をピク ト図解メソッドで教えている。人気マンガ「『ONE PIECE』のビジネスモデル分析」は人気講座。慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科(KMD)修士課程在学。著書に『ビジネスモデルを見える化する ピクト図解』(ダイヤモンド社、2010年)、『「記事トレ!」日経新聞で鍛えるビジュアル思考力』(日本経済新聞出版社、2009年)、『なぜ分数の割り算はひっくり返すのか?』(主婦の友社、2011年)など。

※「ピクト図解」はエクスアールコンサルティング株式会社の登録商標です。