ビジネスモデルを「見える化」するピクト図解

「ビジネス3W1H」を意識してビジネスモデルを読み解け

ビジネスモデルを可視化することで、直感的な理解を助ける「ピクト図解」。前回紹介したビジネスモデル・キャンバスと組み合わせれば、複雑な事業構造であっても容易に全体像を俯瞰できるという。今回は「ピクト図解」考案者に、ピクト図の描き方とビジネスモデルのパターンを紹介いただく。連載第2回。

前回は、「ビジネスモデル・キャンバス」と「ピクト図解」の2つをセットで使うことで、ビジネスモデルが把握しやすくなることをご紹介しました。具体例としてアップル社のiPod / iTunes のビジネスモデルを解説しました。この方法を用いれば、iPodのようなハードウエア、ソフトウエア、サービスが三位一体となった「複雑な事業構造」のビジネスモデルでも容易に把握することができるようになります。ビジネスモデル・キャンバスとピクト図解の対応関係を示したのが【図1】です。ピクト図解を使えば、ビジネスモデル・キャンバスの9つのブロックをグラフィカルに可視化できます。  

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【図1】 「ビジネスモデル・キャンバス」と「ピクト図解」を2つセットで使う

 ビジネスモデル・キャンバスの使い方は前回ご紹介しましたので、今回はピクト図解の使い方を解説します。
 ピクト図解は、シンプルな表記ルールによって、ビジネスモデルをひと目で直感的に理解できる図に可視化するツールです。ピクト図解メソッドを身に付けると、ビジネスモデル・キャンバスはもちろん、街中で見かける様々なビジネスについて、ビジネスモデル図をぱっと頭の中でイメージできるようになります。そして、ひとたびビジネスの構造をつかめるようになれば、既存のビジネスモデルを「レゴ」ブロックのように組み合わせることで、「新しいビジネスモデル」を作ることができるようになるのです。
 ピクト図解を使った具体的なビジネスモデルのデザイン方法は追ってご紹介していきますので、まずはピクト図解の描き方を押さえてしまいましょう。

 

ピクト図解の表記ルール

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【図2】ピクト図解表記ルールVer2.0 「シンボル記号」

 ピクト図解の表記ルールはいたってシンプルです。“絵心不要”の「シンボル記号」を用います。使用する記号は、3種類の「エレメント」と2種類の「コネクタ」、そして3種類の「オプション」のみです【図2】。まずは、ピクト図解で使用する各記号を見ていきましょう。

エレメント

 エレメントとは、ビジネスに登場する「プレーヤー(ヒトや企業)」、その間を行き来する「モノ(製品やサービス)」と「カネ」を示す記号で、「ヒト、モノ、カネ」と覚えていただくといいでしょう。プレーヤーは、企業の場合は建物をイメージした長方形のマークを、個人の場合は人間の形のマークを使います。モノはシンプルに「○(マル)」で表記し、カネは「¥」のマークを使います。「ヒト、モノ、カネ」には、必要に応じて、企業名や製品・サービスの名前、金額などを書き添えます。

コネクタ

 コネクタは、「モノ」と「カネ」が行き来する流れ、つまりビジネスの「関係性」を表す矢印記号のことです。モノの流れ(販売)を表す矢印は先端を黒く塗りつぶしたものを、カネの流れ(支払)を表す際は先端を塗りつぶさない普通の矢印を用います。このように矢印を描き分けるのは、「製品・サービス」と「カネ」の流れを明確に意識するためです。カネの流れを示す矢印のことを、以後、ビジネスの主体にとって収入になる場合は「インカムライン」、支出となる場合は「アウトカムライン」と呼びます。

オプション

 オプションは、ピクト図を見やすくしたり、使用シーンに合わせて応用範囲を広げたりするための補助ツールです。「まとめ(中カッコ)」「タイムライン」「補足(フキダシ)」の3つの記号があります。(注:「補足(フキダシ)」は、ピクト図解表記ルールver2.0で追加された新記号。)

まとめ(中カッコ)は、1人のプレーヤーに対して2つ以上のモノ・カネの流れが発生するときなどに使用します。たとえばスーパーなどで複数の商品を同時に買う場合です。
 タイムラインは、時間の流れを表す時に用います。たとえばiPodのような顧客との関係が継続する “売り切りではない”ビジネスモデルを可視化するのに有効です。矢印と、その横に「Time」の頭文字をとった「T」を書き添えてください。
補足(フキダシ)は、エレメントやコネクタなどに説明を加えたいときに使用してください。ビジネスモデル・キャンバスの「価値提案(VP:Value Propositions)」、「経営資源(KR:Key Resources)」、「主要活動(KA:Key Activities)」、「顧客との関係(CR:Customer Relationships)」を記述する時にも使います。たとえばモノのエレメントにフキダシを添えて、製品の「価値提案(VP)」を書いたり、ヒト(企業)のエレメントにフキダシを添えて「経営資源(KR)」、「主要活動(KA)」を記述します【図3】。“売り切りではない”ビジネスモデルの場合は、タイムラインのある【図4】となります。

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【図3】「価値提案(VP)」などは
「フキダシ」記号で表記する
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【図4】“売り切りではない”
ビジネスモデル

 

ピクト図を描いてみよう

  次に、ピクト図を描く手順を見ていきましょう。ルールは、非常にシンプルです。
 文章を読み解く際は「5W1H」が重要と言われますが、ビジネスモデルの把握に必要なのは、「誰が(Who)」「誰に(Whom)」「何を(What)」「いくらで(How much)」売って儲けているのか、ということです。ピクト図解とは、極言すればこの「ビジネス3W1H」をビジネスモデル図に落とし込む手法ということもできます。ピクト図を描く時は、ビジネス3W1Hを意識し、「誰が」「誰に」「何を」「いくらで」の順に描き進めます。ビジネスは究極的には「モノとカネの交換」ですから、「誰と誰が」「何を、いくらで」交換しあっているのか、「交換のペア」をすべて描き出しましょう【図5】。

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【図5】「ビジネス3W1H」を
意識してピクト図を描く

 注意したいのは、コネクタは必ず「モノ」と「カネ」をセットで描かなくてはならないということです。ビジネスにおいてはモノが無料で提供されることもありますが、その場合もカネの流れを示す矢印を描き、「0円」と明記します。0円のインカムラインだけで成立するビジネスモデルはありませんから、ビジネスモデル全体を見通してピクト図を描けていれば、どこかに収益源を示す矢印が出てくるはずです。ピクト図によってカネの流れを意識すると、「サービスは0円だが、それではどこで収益を上げるビジネスモデルなのか」などと考える視点を持つきっかけにもなるのです。

 

ビジネスモデル・パターンの一例
「フリーミアムモデル」をピクト図解する

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【図6】「フリーミアムモデル」を
ピクト図解する

 ビジネスモデルにはいくつかのパターンがあります(パターンについては、次回詳しく紹介します)。ここでは「0円」表記の一例となる「フリーミアムモデル」を取り上げ、ピクト図解してみましょう。機能を制限した「ベーシック版」を無料で多くの人に使用してもらい、一部のユーザーが有料プレミアム版にバージョンアップすることを狙うビジネスモデルがフリーミアムモデルです。フリーミアムという言葉はフリーとプレミアムを足し合わせた造語。ベストセラー『フリー〈無料〉からお金を生みだす新戦略』(日本放送出版協会)で広く知られるようになりましたが、ビジネスモデルとして複雑なものではなく、ピクト図にすると【図6】のようにシンプルに整理できます。「モノ」が無料で提供されるベーシック版にも「カネ」の流れを示す矢印を描き、「¥」マークの下に「0円」と明記します。

 フリーミアムモデルは特にウェブサービスで非常によく使われているビジネスモデルです。フリッカーやドロップボックスなど、クラウドコンピューティングを活用した多くの写真共有サービスやファイル共有サービスで採用されています。

 

個人向けと法人向けサービスを展開するEvernoteのビジネスモデル

 では次に、「フリーミアムモデル」の具体例として、エバーノート社のビジネスモデルをピクト図解してみましょう。
 エバーノート社は文書や写真、音声など様々なコンテンツをクラウド上に手軽に保存できるサービス「Evernote(エバーノート)」を運営する企業です。2008年にサービスを開始。「すべてを記憶する(Remember Everything)」を「価値提案(VP)」とし、あらゆるデバイスから保存・閲覧できる利便性が受け、またたく間に世界7500万人のユーザー数を抱えるまでに成長しました。
 私も愛用者の一人ですが、ひらめいたアイデアや新規事業のネタ、企画書のラフスケッチ、音声メモ、街中で見つけたビジネスモデル・パターン、手書きのピクト図などを記録しています。人の記憶には限界があり、忘れてしまうので、自分の記憶を補完するツール「ネット上のスクラップブック(=企画のネタ帳)」として使っています。

 同社のフィル・リービンCEOは親日家としても知られ、シリコンバレー企業には珍しく、自社を100年続く企業にしたいと「100年スタートアップ」を目標に掲げています。DIAMONDハーバード・ビジネスレビュー2013年12月号『理想の会社』でリービン氏のインタビューが掲載されていたので、お読みになった読者も多くいらっしゃることでしょう。
 Evernoteの「スタンダード版」は無料で利用できますが、毎月アップロードできるデータ容量は60MBまで、共有ノートの編集ができないなどの制限があります。月額450円、年額4,000円(2014年3月現在)支払えば「プレミアム版」が利用でき、月間アップロード容量は1GB、前述の機能制限がなくなります。「顧客との関係(CR)」は「ライフスタイル管理を支援する」、“売り切りではない”長期的な関係です。
 同社はこうした個人向けのサービスのほかに、法人向けの「ビジネスプレミアム版」サービスも行っています。1ユーザーあたり、月額1,100円、年額13,200円(同3月現在)。企業や教育機関など組織で使うための共有機能やユーザー管理機能、セキュリティ機能などが強化されています。同サービスでは直接販売以外にも、法人営業「パートナー(KP)」とも連携。たとえばセールスフォース・ドットコム社とは、営業支援ソフト「Salesforce」と連携して顧客関連情報を包括的に把握できるようにするプラグイン「Evernote Business for Salesforce」を開発・提供する連携をしています。

Evernoteのビジネスモデルを可視化する

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【図7】Evernoteのピクト図

 さて、ここまで押さえたら、Evernoteのビジネスモデルをピクト図解してみましょう。フリーミアムモデルの基本の「型(パターン)」【図6】をベースに、足りないパーツを「レゴ」ブロックのように組み合わせて追加していけば、比較的容易に作成することができます【図7】。  

 ピクト図を見ていただければ、個人向けに「スタンダード版(0円)」、「プレミアム版(450円)」。そして、法人向けに「ビジネスプレミアム版(1,100円)」と複数のインカムラインがあり、シンプルなフリーミアムモデルではない、複雑なビジネスモデルであることがおわかりいただけると思います。

 ピクト図解表記ルールでは、「個人」のマーク(人間の形)と「企業」のマーク(長方形)は異なるデザインにしました。その結果、B2Cビジネスなのか、B2Bビジネスなのか、両方なのか、ピクト図を見れば一目瞭然になりました。「個人」と「企業」のマークを使い分けるメリットは、実際にビジネスモデルを「デザイン」すると実感します。
 たとえば、「個人向けに開発中のサービスを、法人向けにビジネスモデル変更したほうがよいのでは?」「法人向けの既存製品を、個人向けに転用して新しいビジネスモデルがつくれないか?」などとプレーヤーの入れ変え作業を「ビジュアルシンキング」できるので便利です。詳しくは連載の後半で解説します。

 最後に、ビジネスモデル・キャンバスにまとめると【図8】になります。  

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【図8】Evernoteのビジネスモデル・キャンバス

  セールスフォース・ドットコムのように「パートナー(KP)」でもあり「チャネル(CH)」でもあるプレーヤーの場合、どちらのブロックに入れたらよいのか悩んでしまう人もいるようですが、私はあまり気にせずに両方に入れています。理由はピクト図解と2つセットで使うので、ビジネスモデル・キャンバス上のブロック分類の精度は、それほど重要ではなくなるからです。
 フレームワークのどこに分類するかという「部分」のデザインにこだわるよりも、ビジネスモデル「全体」を包括的にデザインすることに時間をかけるようにしています。このような観点からも、ビジネスモデル・キャンバスとピクト図解の2つを「連動」させて使うことをお勧めします。

 今回は、ピクト図解の描き方と「フリーミアムモデル」をご紹介しました。次回も引き続き、ビジネスモデル・キャンバスとピクト図解の2つを使って、代表的なビジネスモデル・パターンを解説していきます。(続く)

(編集部注:エバーノート社よりご指摘をいただき、本文および【図7】を一部修正いたしました。訂正とお詫びを申し上げます。 2014年4月9日)

 

板橋 悟(いたばし・さとる)
1963年生まれ。「ピクト図解」考案者。エクスアールコンサルティング株式会社代表取締役、エデュテインメント・ラボ代表。東京工業大学理学部物理学科卒業後、リクルートに入社。米国マサチューセッツ工科大学(MIT)に社費留学。帰国後、KIDS向け教育(エデュテインメント)事業を新規事業として立ち上げる。現在はビジネスプロデューサーとして、企業の新商品開発・新規事業開発支援をするかたわら、大学生に「世の中の仕組み・儲けのカラクリ」をピクト図解メソッドで教えている。人気マンガ「『ONE PIECE』のビジネスモデル分析」は人気講座。慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科(KMD)修士課程在学。著書に『ビジネスモデルを見える化する ピクト図解』(ダイヤモンド社、2010年)、『「記事トレ!」日経新聞で鍛えるビジュアル思考力』(日本経済新聞出版社、2009年)、『なぜ分数の割り算はひっくり返すのか?』(主婦の友社、2011年)など。

※「ピクト図解」はエクスアールコンサルティング株式会社の登録商標です。