ビジネスモデルをデザインするスキル

「ビジネスモデル・キャンバス」と「ピクト図解」を身につけろ

DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー4月号(3/10発売)の特集は「ビジネスモデル 儲かる仕組み」。大きな利益をもたらし、競争力の源泉となる優れたビジネスモデルは、どうすれば構築できるのだろうか。「ピクト図解」考案者である板橋悟氏に、2つのデザインツールを使って新たなビジネスモデルをつくり出す手法について、全5回の連載で解説いただく。

 近年、グローバル市場で日本企業は「技術で勝ってビジネスで負ける」といわれることが増えてきました。たとえば、世界中を席巻した米アップル社のiPod。中身の部品は日本製のものが数多く使われているのはみなさん周知のことと思います。
 iPodがビジネス的に大成功した理由は、すぐれたコンセプトの製品を開発したからだけではありません。iPod (ハードウエア)、iTunes (ソフトウエア)、iTunes Musuic Store(現iTunes Store:サービス)が三位一体になった「すぐれたビジネスモデル」を創出したことにあります。このビジネスモデルはさらに進化し、現在ではアップル社を中心とした"ビジネス・エコシステム"と呼ばれるまでに至っています。

 ではどうすれば、iPodのようなビジネスモデルが作れるのでしょうか? スティーブ・ジョブズのような天才でないと作れないのでしょうか? いいえ、私はそうは思いません。知恵を出し合う方法論さえマスターすれば、すぐれたビジネスモデルは組織やチームで作れると考えます。今回の連載では、ビジネスモデルの「デザイン手法」についてお話しします。具体的には、「ピクト図解」と「ビジネスモデル・キャンバス」という2つのビジネスモデル・デザインツールを“共通言語”としてチームやグループで使うことを提案します。連載の前半でツールの使い方を解説し、後半では実際にビジネスモデルを作ってみます。

儲かる事業の秘訣は何か

「すぐれた商品があるのに、儲からないのはなぜか」――これは、かつて私自身が直面した疑問です。リクルートに入社して10年近く経ったころに、私は子ども向けの教育事業を新規事業として立ち上げました。開発した幼児教育用コンテンツは国内外で高い評価を受け、いくつかの賞もいただきました。当時の私は、「いい商品をつくったのだから売れるはずだ」と思っていたものです。
 しかしお墨付きをもらったはずの商品は、どれも鳴かず飛ばず。上司からは「作品ではなく、商品をつくってくれ」といわれる始末でした。

 この手痛い失敗から、私は成功しているといわれる会社について徹底的に研究しました。自分がつくったものと同じカテゴリーの商品で収益をあげている会社は、何が違うのか? 同じようなレベルの商品を扱っている企業の間で業績の違いを生む要因は何か? 研究を重ねた結果わかったのは、「何を売っているか」と同じくらいに、「どうやって儲けているのか」が成功の鍵を握っているということです。すぐれた会社はみな、成功するに足るビジネスモデルを構築していたのです。

 私は2003年にリクルートを退職して独立し、以後、ビジネスプロデューサーとして、クライアント企業に収益改善のアドバイスや新規事業提案を行ってきています。その中で、「世の中でこれだけビジネスモデルが重要だと言われているのに、『ビジネスモデル作り』に必要な力が軽視されている」と痛感し、ビジネスモデルをデザインする道具「ピクト図解メソッド」の開発に至りました。
 ピクト図解は、「すぐれたビジネスモデルを見抜き、誰にでもひと目で直感的にわかるビジネスモデル図に表すことで、事業構造の『型(パターン)』を身に付ける」こと、そして「身に付けた『型(パターン)』を応用したり組み合わせることによって、「レゴ」ブロックのように『新しいビジネスモデル』を生み出す力を付ける」ことを可能にします。

 

ビジネス=商品×ビジネスモデル

「ビジネスモデル」という言葉はビジネスシーンで多用されていますが、それが何を指すかは必ずしも明確ではありません。「商品設計」と「ビジネスモデル設計」を一緒くたにし、「儲からない原因」の切り分けができなくなっているケースもよく見受けられます。
 ここではっきり意識しておきたいのが、「ビジネス=商品×ビジネスモデル」という式です。

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【図1】ビジネス = 商品 x ビジネスモデル

ビジネスを考える際、「商品設計」と「ビジネスモデル設計」は明確に分けて検討する必要があります。ビジネスモデルは一度構築したら完成というわけではなく、収益性をより高めるために、時代の変化にあわせて最適化し続けることが重要です【図1】。この連載で取り扱うのは、すでに売り物になる製品やサービスがある、あるいは、商品プロトタイプがあることを前提とした「ビジネスモデル設計」です。

 ビジネスモデルの定義は論者の数だけ存在するといわれますが、私はシンプルに考えて、ビジネスモデルとは「顧客価値を提供し続けるための仕組み・事業構造」と定義しています。ビジネスモデルは「仕組み・構造」ですから、文章で説明するより、図で表すのが合理的であり、図示することでより把握しやすくなります。
「ビジネスモデルは『図式化フレームワーク』を用いてデザインするとわかりやすい」と考えているのは私だけではありません。世界的に使われている「ビジネスモデル図式」があるのをご存じでしょうか? これが2つ目のビジネスモデル・デザインツール「ビジネスモデル・キャンバス」です。

世界標準の「ビジネスモデル・キャンバス」

 最近シリコンバレーでは、「リーン・スタートアップ」というビジネスモデル設計手法が注目されています。スタンフォード大学コンサルティング准教授スティーブ・ブランクらが中心となり実践しているこの手法では、入念なプランニングよりも顧客からのフィードバックをもとにした試行錯誤、反復設計を重視します。テクノロジー系ベンチャーだけでなく、ゼネラル・エレクトリック(GE)などの大企業でも実践がはじまっています。DIAMONDハーバード・ビジネスレビュー2013年8月号『起業に学ぶ』でも特集されたので、ご存じの読者も多くいらっしゃることでしょう。

 このリーン・スタートアップで採用されているビジネスモデル・デザインツールが、アレクサンダー・オスターワルダーらが考案した「ビジネスモデル・キャンバス」と呼ばれる図式化フレームワークです。ビジネスモデルを9つの構成要素として定義します【図2】。

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【図2】ビジネスモデル・キャンバス

①顧客セグメント(CS:Customer Segments):ターゲットとする特定の顧客グループ
②価値提案(VP:Value Propositions):提供する製品やサービス、顧客価値
③チャネル(CH:Channels):どのように顧客に価値を届けるか、販売経路
④顧客との関係(CR:Customer Relationships):顧客に対してどのような関係を結ぶか
⑤収益の流れ(R$:Revenue Streams):生み出す売上の流れ
⑥経営資源(KR:Key Resources):事業に必要な資産
⑦主要活動(KA:Key Activities):企業がメインで行う活動
⑧パートナー(KP:Key Partnerships):サプライヤーと事業パートナー
⑨コスト構造(C$:Cost Structure):事業を運営するためのコスト構造

 

アップル iPod / iTunes のビジネスモデル

 具体例を見ていただいたほうがわかりやすいので、アップル社の事例を使って説明します。

 2001年1月、アップル社(当時はアップルコンピュータ社)は音楽データをパソコン上で管理するソフト「iTunes」の無料配布を開始しました。当時、MP3ファイルが再生できるソフトはほとんどが有料でした。そんな中iTunesは、有料ソフトにまったくひけをとらない機能と、アッブル流のシンプルでわかりやすいインターフェイスを備え、世界中にばらまかれたのです。

 そして同年11月、iPodが発売されると、iTunesはパソコンとiPod上で音楽データを管理し同期するツールとして機能し始めます。iPodをコンピュータにつなぐと、Auto-Sync(オートシンク)機能で曲が自動的にダウンロードされました。それまでのMP3プレーヤーは、曲をダウンロードするために煩雑な手作業をユーザーに強いました。iPodはそのユーザー体験を劇的に変え、シームレスな音楽体験を可能にしました。

 当時のMP3プレーヤーのデータ容量は限られていて数十曲しか入らなかったのに対し、iPodは大容量5GBのハードディスクを搭載。「1000曲をポケットに」のスローガンを掲げ、「自分の全ての音楽コレクションを持ち運び、どこででも聞くことができる」という「価値提案(VP:Value Propositions)」を提供したのです。

 47,800円という非常に高い値段にもかかわらず、「ハイエンドの音楽ファン」を中心に大ヒット。発売当初のiPodはアップル社製のパソコン(Mac)にしか対応していませんでしたが、2002年にウィンドウズ対応版が発売されると、iPodはまたたく間に世界中に広がっていきます。そして2003年4月、音楽会社を「パートナー」として迎え、アップルが満を持して開始したのが、iTunesを介した音楽配信サービス「iTunes Music Store」。現在は「iTunes Store」と名前を変え、音楽に限らずビデオやオーディオブックなどまで幅広く販売しています。「収益の流れ」は、iPod本体と音楽などのコンテンツの販売。音楽データ管理ソフトiTunesは無料。「コスト構造」は、製造費、人件費、マーケティング費などです。

「顧客との関係」は、モノとしての製品を販売して終わりではなく、iTunesStoreを通じて顧客との長期的な関係が続きます。販売「チャンネル」として、小売店やオンラインストアだけでなく、自社専用のリアル店舗(Apple Store)を展開したことも特徴的です。「経営資源」と「主要活動」に関しては、Appleブランド、コンテンツ利用許諾などの知的財産権、デザインや開発のための優秀な人材などが経営資源であり、ハードウェア設計、ユーザー体験設計、マーケティングなどが主要活動にあたります。

これらを1枚の図式化フレームワークにまとめたものがビジネスモデル・キャンバスです。ビジネスモデル全体を俯瞰して把握することが可能になります【図3】。

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【図3】アップル iPod / iTunes のビジネスモデル・キャンバス


 ビジネスモデル・キャンバスは「図式化フレームワーク」とはいうものの文字情報が非常に多いので、複雑な構造のビジネスモデルではじっくり読み込まないと、9つのブロックの「要素間の関係性」がつかみにくい場合があります。たとえば、iPodのようなハードウエア、ソフトウエア、サービスが三位一体となった高度なビジネスモデルや、顧客との関係が“売り切りではない”ビジネスモデルの場合は全体像がイメージしずらいという難点があります。そこで、本連載では、ビジネスモデルを直感的に図示する「ピクト図解」とビジネスモデル・キャンバスを2つセットで使うことを提案します。アップル iPod / iTunes のビジネスモデル・キャンバスをピクト図解に変換したものが【図4】です(ピクト図解に関しては次回詳しくご紹介します)。

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【図4】アップル iPod / iTunes をピクト図解する

 ピクト図解を使えば、ビジネスモデル・キャンバスの9つのブロックをグラフィカルに可視化することができます。この図ではアップル社を起点に、右サイドに「顧客セグメント(CS)」、「価値提案(VP)」、「チャネル(CH)」、「顧客との関係(CR)」、「収益の流れ(R$)」の5つのブロックを描いています。そして、左サイドには、「経営資源(KR)」、「主要活動(KA)」、「パートナー(KP)」、「コスト構造(C$)」の4つのブロックを描いています。
 【図3】と【図4】をあわせてご覧ください。2つセットにすると、アップル iPod / iTunes のビジネスモデルがより把握しやすくなることがおわかりいただけると思います。


 今回は、「ビジネスモデル・キャンバス」をご紹介しました。次回は、「ピクト図解」の描き方について具体的に解説します。(続く)

 

板橋 悟(いたばし・さとる)
1963年生まれ。「ピクト図解」考案者。エクスアールコンサルティング株式会社代表取締役、エデュテインメント・ラボ代表。東京工業大学理学部物理学科 卒業後、リクルートに入社。米国マサチューセッツ工科大学(MIT)に社費留学。帰国後、KIDS向け教育(エデュテインメント)事業を新規事業として立 ち上げる。現在はビジネスプロデューサーとして、企業の新商品開発・新規事業開発支援をするかたわら、大学生に「世の中の仕組み・儲けのカラクリ」をピク ト図解メソッドで教えている。人気マンガ「『ONE PIECE』のビジネスモデル分析」は人気講座。慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科(KMD)修士課程在学。著書に『ビジネスモデルを見える化する ピクト図解』(ダイヤモンド社、2010年)、『「記事トレ!」日経新聞で鍛えるビジュアル思考力』(日本経済新聞出版社、2009年)、『なぜ分数の割り算はひっくり返すのか?』(主婦の友社、2011年)など。

※「ピクト図解」はエクスアールコンサルティング株式会社の登録商標です。