日本のベンチャーが世界のロールモデルになる日

WiL CEO 伊佐山元氏 インタビュー(後編)

シリコンバレーの大手ベンチャーキャピタルDCM本社パートナーとして、日本代表も務めた伊佐山元氏は、ベンチャー支援のための新会社WiLを立ち上げた。今回は、ベンチャー支援を通じて日本社会を変えようという、大きな決意について話を伺った。(前編はこちら)。

 

起業しやすい場を提供するのが役目

――ベンチャー支援のため、新会社WiLを共同創業されましたね。どのような会社でしょうか。

伊佐山:WiLの利益追求活動には主に3つのパターンがあります。

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伊佐山元(いさやま・げん)
株式会社WiL 共同創業者CEO。1973年生まれ。東京大学法学部卒業後、日本興業銀行(現・みずほフィナンシャルグループ)入行。2001年、スタンフォード大学ビジネススクールに留学。2003年より米大手ベンチャーキャピタルのDCM本社パートナーとして、インターネットメディア、モバイル、コンシューマーサービス分野への投資を担当。2013年、ベンチャー起業家の育成と大企業のオープンイノベーション支援などを目的として、株式会社WiLを西條晋一氏、松本真尚氏とともに共同創業。著書に『シリコンバレー流 世界最先端の働き方』(中経出版, 2013年)がある。

 1つは新たにつくりたいビジネスがあったら、自分たちでつくった上にインキュベーションもする、という仕組みです。僕ら自身が経営者になるのではなく、仕掛けだけつくってあとは経営者にふさわしい人を連れてきて頑張ってもらい、自分たちは出資する。発射台に乗せるまでは僕らがお膳立てしちゃうモデルです。
 2つ目は、そうした事業をするために必要となる相応の資金を得るためにファンドも持ちます。一般的なVCとの違いは、我々が面白いと思ったベンチャーへの投資だけでなく、自分たちで始めたプロジェクトについても投資する点です。
 3つ目は、大企業のヒト、カネを巻き込むことを目論んでいます。金融機関からお金を借りてきてそれをばらまくのではなく、大企業のなかで眠っている技術やリソースなどを切り出して会社にする、スピンアウトやカーブアウトを狙っています。

 

 この3つにプラスして等しく重要視しているのが、教育の場をつくることです。ベンチャーはどのようなプロセスで、何に注意してやれば興せるのか、そういったノウハウを提供したいのです。起業すべき理由はいっぱいあっても、最後の一歩が踏み出せない。そんな人の背中を後押ししたいと考えています。大企業のいいポジションを捨てて起業するのはだれだって怖いと思います。実際に起業を経験し、失敗も経験した人が、「大丈夫。失敗しても先はあるから」と言ってくれるのが、一番説得力があると思います。そういう空間を東京とシリコンバレーにつくろうとしているんです。お悩み相談所みたいに、ベンチャーに興味があるんだけど何をどうすればいいのか分からない、といった人に対して、組織としてサポートしたいと考えています。

――起業という意思決定を助ける組織ということですね。ただ、日本にはシリアル・アントレプレナーは少ないと思います。失敗した人が再チャレンジするためには、何が必要でしょうか。

伊佐山:これは本人の問題と言うより、環境の問題だと捉えています。シリコンバレーは失敗に寛容です。そこには大きく2つの仕掛けがあるのですが、ひとつは「周囲の人もみんな失敗してるし気にすることはない、もう1回やればいい」という寛容な社会の目。気休めかもしれないけど、「自分だけが失敗者」という思考にならない点は大きいです。もうひとつは、失敗しても再挑戦できる仕組みです。まともな投資家がついてさえいれば、たとえ失敗してもその次の支援もしてくれたり、あるいは同じテーマをタイミングよく走らせた会社の経営陣に入るよう、就職先を斡旋してくれたりします。
 再トライのチャンスが周囲から浮上してくるのがシリコンバレーです。しかしながら、日本では失敗すると失敗者の烙印を押され、半分くらい友達が逃げてしまう。ネガティブ・スパイラルにはまって、もう一度起業しようなんて気になれなくなってしまうんですね。だからWiLという会社を、失敗して絶望している人に「失敗しても大丈夫だよ」と言ってあげられる場にしたいと思います。

 失敗を寛容する環境が広がれば、起業に対するハードルはどんどん下がります。さらにセーフティネットとして、失敗した人の経験を買うような企業が現れたり、再トライを後押しするスポンサーが増えたりして、人の「リサイクル」ができるようになれば、起業するリスクはほとんどなくなると思うんです。いままでは拾い手がIT企業しかなかったので、二の足を踏む人が多かったのですが、最近は商社のような大企業でもそういうちょっと外れた人を中途で拾うようになってきました。今後もそんな会社が増えていけば、ベンチャーも活性化します。成功すれば億万長者、失敗しても大企業が拾ってくれるなんてなれば、みんなベンチャーやりますよね(笑)。そうすればシリアル・アントレプレナーも増えるでしょう。あと10年経てば、だいぶそういった潮流もできると思いますが、WiLはその動きをさらに加速させたいと思っています。

 

ベンチャーを盛り上げれば、社会も変わる

――著書のなかで、ベンチャーに年齢は関係ないとも指摘されていました。投資判断には影響しないのでしょうか。

伊佐山:実際の投資案件は中年経営者によるベンチャーが多いし、成功も多い。やはりいろいろな経験をしてきた人というのは強いですよね。そういう意味では、むしろシニアの起業はもっとあってよいと思いますし、投資判断でも有利に働きます。日本は世界でも稀なレベルでお年寄りが健康で、元気な国です。頭の切れる人なんて65歳以上にはいくらでもいますし、そんな人たちが年金をもらって家に閉じこもっているのはもったいない。ベンチャーというと若者の特権のように思われがちですが、75歳のベンチャーなんて面白いと思いませんか(笑)。そういう環境があっていいと思います。世界にはまねできない、あるいはこれからの世界のロールモデルになるかもしれません。

 一方でシニアだけというのも限界があるので、若い人と結びつく仕掛けが必要です。WiLはそういった場でもありたいと考えています。若い人たちもシニアから、大企業との付き合い方とか大局的な物の見方とか、教わるべきことはいっぱいあると思います。Grey haired CEOとも言いますが、若い人たちのなかに責任ある立場として、ひとりでもシニアの方がいると、若さによる暴走への抑止効果が働くのです。そういう企業は崩壊せずにうまくいくことが多いんです。老害にならないよう、注意する必要はありますが(笑)。

 日本はなかなか物事が変わらない、という声もありますが、ある事例があってその成功が見えた瞬間に、みんな一斉に真似をすることも得意じゃないですか。だからWiLはそういう分かりやすい事例を早く、たくさんつくることを目指しています。

――ベンチャー育成のための教育の場を設けることで、社会は変わるでしょうか。

伊佐山:そう思います。いくつかそのための要素があると思います。まずはベンチャーに対するイメージを変えないといけません。特に日本では、ベンチャーの創業は財産をなげうってやる博打のようにも見られがちです。ただ、ベンチャー創業時の社長の給料は、普通の新卒と同じくらいでも株を持っています。これが4~5年もしたら大化けしてお金持ちになるかどうかが分かります。
 問題はその後の身の振り方です。急にテレビに出るようになって、豪勢な暮らしぶりを自慢するようではだめです。アメリカではほとんどの成功者は散財せずに寄付をし、生活は変えないで、もっと社会に還元しようという発想の人がほとんどです。起業家でもなんでも、ちゃんとやってた人が金持ちになるのはいいじゃないか、という空気をつくらなければ、ただでさえ胡散臭い目で見られるベンチャーの世界に飛び込んでくる人は増えてこないでしょう。逆に、リスクを取った人が成功すればちゃんと金銭的に報われ、もっと大きなことにトライできるイメージさえできれば、あとは放っておいてもベンチャー業界に優秀な人が飛び込んでくると思います。ただ、いまの時点では成功したベンチャーの数があまりにも少ないので、まずはそこを増やさなければいけません。

 ベンチャーはニッチ産業のひとつと捉えています。しかしこれが10年、20年と続くことによって、ベンチャーがひとつの大きな産業となるでしょう。現時点では、たとえば東大を卒業した人の9割は大企業に行ってしまいますが、これがフィフティ・フィフティになったら、とてつもない世界になるのではないでしょうか。そういう実例をつくれたら、最終的には学校教育の在り方も変わると思っています。社会の環境を変えるのは最も時間がかかる取り組みですが、そこまで踏み込めるような環境づくりをしたいんです。

 WiLというビジネスを通じてベンチャーを盛り上げ、ベンチャーが盛り上がることで教育の在り方を変え、教育を変えることで社会の環境も変わる。そう信じています。