どんな経験が意思決定の力を養うか

WiL CEO 伊佐山元氏 インタビュー(前編)

2014年3月号(2月10日発売)の特集テーマは「意思決定」。大手ベンチャーキャピタルDCM本社パートナーとして、日本代表も務めた伊佐山元氏。シリコンバレーの最前線に身を置き、ベンチャーの実態に通暁している同氏に、ベンチャー・キャピタリストとしての「意思決定」について、話を伺った。

 

ベンチャーが経済のドライバーだ

編集部(以下青字):ベンチャー支援をライフワークとされたのはなぜでしょうか。

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伊佐山元(いさやま・げん)
株式会社WiL 共同創業者CEO。1973年生まれ。東京大学法学部卒業後、日本興業銀行(現・みずほフィナンシャルグループ)入行。2001年、スタンフォード大学ビジネススクールに留学。2003年より米大手ベンチャーキャピタルのDCM本社パートナーとして、インターネットメディア、モバイル、コンシューマーサービス分野への投資を担当。2013年、ベンチャー起業家の育成と大企業のオープンイノベーション支援などを目的として、株式会社WiLを西條晋一氏、松本真尚氏とともに共同創業。著書に『シリコンバレー流 世界最先端の働き方』(中経出版, 2013年)がある。

伊佐山(敬称略):大学生の時、我が家にホームステイしていたスタンフォード大学の学生から、いかに優秀な学生がシリコンバレーで起業しているか、テクノロジーがいかに世界を変えているのかという話を聞いたのがきっかけでした。当時、紙と鉛筆で大学の講義を受けていましたが、スタンフォードでは皆パソコンを使っていると聞き、ショックを受けると同時に、世のなかを変えつつあるテクノロジーベンチャーとは何だろうと思ったんです。

 そして留学した2001年、実際にシリコンバレーで彼の言葉の意味を実感しました。日本には人との繋がりや世間の目、年齢といったしがらみが多くありましたが、シリコンバレーではそのようなしがらみとは無縁でした。しがらみがないからこそ、大胆なことにもトライできるのです。そして自分がやりたいことを追求し、それに対してスポンサーになってくれる人がいて、一緒にやる仲間ができる。このような、目的を最短で達成するための環境とプロセスを提供してくれる場がシリコンバレーでした。シリコンバレーは、新たな成長力を生む仕掛けとしてすごくいい環境だと思いました。

 日本は少子高齢化が進み、GDPの伸び率も停滞しており、具体的な成長戦略が描けずにいました。日本にシリコンバレーをつくることは、しがらみが多すぎて多分難しいでしょう。しかしベンチャーの仕掛け、シリコンバレー的な要素を取り込めば、日本の将来の成長戦略を描けると思います。だからこそベンチャー支援にこだわっているんです。ベンチャーは経済のドライバーです。そうした支援を行うことで、ベンチャーが生まれやすい土壌をつくることが自分の役割だと捉えています

――ご自身で起業しようとは思わなかったのでしょうか。

伊佐山:元々、学生時代に友だちと会社をつくったり、ビジネススクール時代に友人とビジネスプランをつくっては、外部の投資家が本当にお金を出したいと思ってくれるかどうかを検証したり、そういうことは散々やってきました。ただ、僕はやりたいことが5つも6つもあったんです。そうなると起業家には向かないのでベンチャーキャピタル(VC)に行ったわけです。1つのことをずっとやるよりも、複数のことを同時に進めていいとこ取りをする方がよかったので、VCはうってつけでした。だからこの10年は、支援するとはどういうことなのか、シリコンバレーで学びつくそうと思ってやってきました。

 

投資判断で重要視するのは、99%が「人」

――ベンチャー投資の意思決定において、一番重要な要素とは何でしょうか。

伊佐山:一般的に、ベンチャーが成功する上で欠かせない要素は、経営者のセンスや経営チームの強さといった、定量化できない人の強みですね。大げさかもしれませんが、これが99%です。実は、そのベンチャーが提供する技術やサービスというのはあまり見ていません。世間的には、「素晴らしい技術、サービスだから投資した」と言えばロジカルで分かりやすいのですが、投資の決断だけにフォーカスすれば、重要なのはそこにいる「人」です。技術やサービスはいまの時代、あっという間に陳腐化しますが、人は変わりませんからね。ですから、その経営者なり経営チームが、年齢に関係なくハイ・ポテンシャルで、非常に貪欲な向上心を持っているかどうかを見ます。

 一番いいのはシリアル・アントレプレナーと呼ばれる、過去にも成功体験を持っている人です。小スケールでも成功体験が多い人ほど、落とし穴に対する嗅覚も優れているので失敗しにくく、投資判断では有利に働きます。そういう人たちは、ある程度小金持ちになるともっと上を狙うんですよね。100億円稼いだら、次は1000億円、1兆円となります。小金持ちになるという発想がなくなり、次やるときはとことんやる、という意識に変わっているため、投資家にとっては非常にいい案件なんです。
 その逆はファーストタイム・アントレプレナーで小金持ちになった瞬間に満足しちゃう人。悪いとは言いませんが、やはり1兆円を狙っている人を支援したいですよね。そうでないと社会にインパクトがない。ですからシリアル・アントレプレナーかどうかは重要です。極端な話、そういう人であれば、たとえ「明日から起業したいけど何をやるか決めてないんですよね」と言われたとしても、5億円出しちゃうかもしれません(笑)。何をするかは一緒に考えればいいし、その人だったらできると思うので、それならば最初の支援者になろうと決断することでしょう。

――仕事はだれと働くかが重要だ、という言葉もよく耳にします。

伊佐山:そのくらいビジネスの成功には人という要素が強い力を持っていると思います。ワンマン社長で居心地のよさそうな立場を維持している人というのは、器も大したことありません。自分よりスペックの低い人しか雇わないため、結局は個人商店で終わってしまいます。過去にそのような経営者を多く見てきました。自分の会社にしたいから、常に自分よりワンランク下の人間を集める。学歴も経歴も素晴らしいのに、自分の言うことを聴きそうな人を雇ってしまう。これは会社が成長しない典型的なパターンです。
 自分よりスペックが上の人を雇える人が、社長として大成するとよく言われています。アメリカではもっと極端で、その人に一時的に社長の座を譲ってしまうことすらあります。それくらい経営に対する目線が高い人は、非常に貴重です。自分が出資した後に、もっと社長に相応しいと思う人が現れた時にも、目線の高い経営者であれば社長の座にしがみつこうなどというエゴでは動かないため、説得もしやすいんです。こうした目線の高さも重要なので、人を見ると言っても、いろんなアングルで評価しないと難しいとは思います。

 創業メンバーの選び方も重要です。「この人は専門知識がすごいから」「この人は有名人だから」といった理由だけでの人選はまずダメです。まずは一緒に働きたいと思う人を選ぶべきです。また、信用できるという要素も大きいでしょう。土下座して頼み込んででも一緒にやりたい、と思える人を10人揃えるところから始めない限り、いいチームを選んでないと思います。その人にだったら、たとえ崖から突き落とされたとしても許せるくらいの人を揃えられれば、非常に強いチームとなるでしょう。そういうチームであれば、いざ自分が倒れてもびくともしない組織を生み出せます。

――目線の高さが必要ということは、グローバルな視点も当然求められますね。

伊佐山:もちろんです。今後30年、40年続くゴーイングコンサーンの会社にするという大きな命題を真剣に考えれば、国内市場だけを相手にするというのはあり得ません。国内市場が世界最大の市場というのであれば話は別ですが、国内市場が縮小するのに、まずそこで大きくしてから、などと言っている時点でおかしいんです。グローバル基準のものを日本ローカライズするという順番ならわかりますが、その逆をやっている余裕は日本にはありません。VCとしては目線を上げさせ、国境があるという発想を捨てさせることが重要になります。

――そうした人を見る視点は、今までの経験から培ったものでしょうか。

伊佐山:そうですね。そこはVCの最大の武器です。技術などがものすごい勢いで進化しているいまは、知識レベルでの勝負ができなくなっています。ですから、投資決断の場数が大事になります。それによってパターンマッチングという、投資における意思決定の最大の強みが得られます。
 パターンマッチングというのは、失敗例を大量に経験し、成功経験も直接見たり、人の成功事例を深く理解することで見えてくるものです。これは成功するパターンの企業プロファイルが7割揃っているな、とか、これは明らかに失敗する会社の典型だな、というのが、会った瞬間に大体分かるのです。まあ、それでも外れるんですけどね(笑)
 ですから、パターンマッチングの精度を高めるためには、それなりのいい経験と多くの失敗を重ねて、失敗の原因をきちんと分析することです。今回共同創業したベンチャー支援会社WiLのメンバーは、日本だけでなく欧米ベンチャーやアジアのビジネスの成功例と失敗例もたくさん見てきているので、ほかのVCにはない能力を持っていると自負しています。

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