新興企業が大企業の分析力に勝る理由

大企業は、イノベーションにつきまとう不確実性を前に、立ち往生しがちであるという。データが完全に揃うのを待っていては、遅きに失する。アンソニーはこの不確実性を「霧」に例え、新興企業がなぜ霧にとらわれず進めるのかを説明する。


 イノベーションには、霧がかかっている。それは、あるイノベーションのアイデアに関して重要な決定を下す際に、必要なデータがはっきり見えていないと気づく瞬間に生じる。そして残念ながら、データがはっきりしているケースはまずない。

 霧の中で迷ってしまった大企業が決まって出す答えは、検証をひたすら続ける、というものだ。大企業では、失敗するリスクは、リスクを取らないことよりも波紋を広げるからである。しかし、覚えておいてほしい。データが完全に明らかになった時には、そのデータに基づいて行動を取るには遅すぎるのだ。また、完全に明らかになるまで待つあいだに、破壊的な新興企業やハングリーな競合にチャンスを与えてしまう。

 しかし、霧の中で立ち往生しない企業もある。ベンチャーキャピタルの支援を受けた新興企業だ。大企業のような強大な分析力を持たないのに、新興企業はどう霧をくぐり抜けているのだろうか。次の3つの要素が揃った場合である。

1.たしかな直感力を持つ、行動的なステークホルダー
 ベンチャーキャピタリストは、新興企業と特定の市場の両方に関して、優れたパターン認識能力を持っている。優秀なベンチャーキャピタリストは、取締役会のメンバーになる人、そして補完的なスキルを持つアドバイザーを引き付ける。豊富な経験と多様なスキルを持つ関係者が揃えば、他の人の目には明らかでないことも見通す力が備わる。一方で、自分がまったく知らない市場を見定めようとする意思決定者は、当然ながら決定を行う前にたくさんの証拠を要求する。

2.迅速な意思決定
 ほとんどの新興企業では、意思決定は発見と同時進行で行われる。複雑な日程調整にとらわれることはない。ある大企業は、イノベーションに関する最高意思決定委員会に、主要幹部の全員を出席させていることを誇らしげに話してくれた。その会議は90日ごとに開かれているという。そこで私は次のように尋ねた。「もし委員会の翌日に、イノベーションのチームが戦略を全面的に変更する必要があると気づいたら、どうするのですか?」答えはなかった。

3.欠乏感
 減少していく銀行残高ほど、意識を集中させるものはない。ベンチャーキャピタリストはほぼ必ず、企業への投資を段階的に行う。その投資資金は、年間の予算サイクルに基づくものではない。主要な課題に対処するには何が必要か、その判断に応じて決まるのである。

 軍隊も、情報が明確でない時に意思決定の必要に迫られる(実は、この原稿のアイデアが生まれたのは、ロバート・マクナマラ元米国防長官についてのドキュメンタリーでアカデミー賞を受賞した『フォッグ・オブ・ウォー』を見ていた時だった)。海兵隊員に教えられる教義の1つに、いわゆる70%ルールというものがある。自分の決定に70%の自信が持てるだけのデータを集めることを目標とし、それができたら後は自分の直感を信じろ、というものだ。データがそれより少なかったら、思いつきに近い意思決定をしていることになる。データが完璧になるまで待っていたら、インパクトのある決定を下すチャンスは、おそらくもう過ぎ去っている。


HBR.ORG原文:Seeing Through the Fog of Innovation February 25, 2013

 

スコット・アンソニー(Scott Anthony)
イノサイト マネージング・ディレクター
ダートマス大学の経営学博士・ハーバード・ビジネススクールの経営学修士。主な著書に『明日は誰のものか』(クリステンセンらとの共著)、『イノベーションの解 実践編』(共著)などがある。