目指すべきは先行企業か、最初の後発企業か

先行優位を狙うべきか、それとも二番手につけ効率よくシェア拡大を狙うべきか――これは多くの経営者にとっての命題であろう。カギとなるのは、自社が常に継続的な学習と改善を行っているかどうかであるという。

 ほかのあらゆる業界と同じように、銀行業界も大きな変化の波にさらされている。シティグループなどの企業は組織のあり方を再考している。シンプルなどのベンチャー企業は、店舗自体がもはや不要であると提案している。スクエア、スウィフ(Swiff)、シルバー、ぺイパルといった決済サービス企業は、小規模事業に狙いを定めている。携帯電話会社も金融サービスに乗り出している。マイクロファイナンスは急成長中だ。フェイスブックやテンセントは、少額取引によって数億ドル規模の利益を得ている。そしてモバイル・ウォレット市場が、背後にアップルとグーグルをしたがえて近づいてきた。

 過去に起きた大変革のパターンを見ると、こうしたトレンドの多くは必然であるように思われる。つまり銀行は、より積極果敢にイノベーションに取り組んでいく必要があるということだ。最近、私は銀行業界についてのセミナーで講演したが、聴衆から次のような質問を受けた。

●「技術的に後発である企業にとっては、新システムの導入は教育訓練コストを伴い、顧客を失うリスクも生じる。弊社に口座を持つ顧客の大半は、はたして変化を受け入れる準備ができているのか」
●「最初のイノベーター企業は多くの場合、市場での浸透度に比較して先行しすぎてしまうのではないか」
●「イノベーションの取り組みのペースをどう調整するのか」

 どれも良い質問だ。これらはイノベーターを目指す者が問うべき最大の質問につながる――「リードすべきか、それともフォローすべきか」。「早起きは三文の得」なのか、「開拓者の背中には、矢が刺さっている」のか。「先行企業」が有利なのだろうか、それとも「最初の後発企業」になるべきなのだろうか。

 たしかに、どちらも状況次第で正しいといえる。アップルは音楽のデジタル配信、スマートフォン、タブレットといった分野に最初に参入した企業ではなかったが、結局は成功した。最近のエコノミスト誌のコラムでは、「先行したイノベーター企業は、長期で見ると市場のたった7%しか獲得していない」という研究結果が紹介されていた。だが、先行企業が成功した例も数多くある。たとえば、アマゾンが電子書籍やクラウドサービスに早い段階で参入したことは、よい結果につながっているようだ。

 ここに、忘れてはならない重要なことがある。最終的には、中間地点で誰がトップを走っていたか、などということは誰も覚えていない。最初にゴールしたのは誰か、が問題なのだ。したがって、「最初に出発するべきだろうか」などと問うてはいけない。そうではなく、「画期的アイデアの実現を早めるにはどうするか」と問うべきなのだ。

 もしスティーブン・スピア教授が呼ぶところの「高速組織」、つまり絶えざる学習と改善を行う組織であるならば、市場で先行するメリットは大きいだろう。誰かが市場でこのタイプの先行者の真似をしても、それは過去の遺物の模倣にすぎなくなるからだ。高速組織はイノベーションを続ける限り、市場で先行することができる。そして競争優位になる。ある消費財メーカーの経営者が、データ分析によるその会社の理想的な市場シェアは60%だと教えてくれた。それだけあれば、その市場で十分な利益を上げることができ、同時に競合企業が莫大な販促費を使って、その商品カテゴリー全体を活性化させてくれるからだ。

 これは、スタートを切るのが遅かった企業には望みがない、ということではない。後発企業には、先行する競合が実際の市場で行った実験から学べる、という利点がある。競合が犯した間違いを避け、競合のソリューションを上回れるチャンスがある。

 だが、「最初の後発企業になりたい」という意図が「コア事業を再び優先したい」という意味であってはならない。イノベーションへの対応が戦略上必須となった時には、もう手遅れであることが多いからだ。イノベーションに取り組むだけの経営資源や組織力がない場合もある。成功の見込みが薄い、買収という最後の賭けを迫られることもあるだろう。

 だからいま、甲冑を身につけ弓矢の準備をしておこう。イノベーションの時は来ている。


HBR.ORG原文:First Mover or Fast Follower? June 14, 2012

 

スコット・アンソニー(Scott Anthony)
イノサイト マネージング・ディレクター
ダートマス大学の経営学博士・ハーバード・ビジネススクールの経営学修士。主な著書に『明日は誰のものか』(クリステンセンらとの共著)、『イノベーションの解 実践編』(共著)などがある。