最初に挑むAIプロジェクトをどう選ぶべきか

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AIは世の中を大きく変えており、その流れが今後ますます加速することは確実である。その影響はインターネット企業にとどまらない。この潮流に乗り遅れることが大きなリスクになるが、AIプロジェクトにやみくもに着手したところで失敗は見えている。本記事では、グーグル・ブレイン創設者であり、バイドゥのチーフ・サイエンティストを務める筆者が、その具体的な方法論を提示する。

 人工知能(AI)は、あらゆる業界を変革しようとしている。100年前の電気とまさに同じだ。

 マッキンゼーによれば、AIは2030年までに13兆ドルのGDP成長(世界累計)を創出するという。そのほとんどは、製造、農業、エネルギー、物流、教育などの非インターネット部門で生じることが見込まれている。

 AIの発展は、あらゆる業界の企業幹部にとって、自社の事業を差別化し防衛するチャンスとなる。だが、全社的なAI戦略を実行するのは容易ではなく、とりわけレガシー企業にとっては困難だ。

 私は、あらゆる業界の企業幹部に対し、こう助言したい。まずは小さく始めることだ。

 拙著レポートAI Transformation Playbook(AIによる変革のためのシナリオ)から引用すると、AI戦略構築の1つ目のステップは、企業レベルの試験的AIプロジェクトを1つか2つ選んで実行することである。自社のAIへの取り組みに弾みをつけ、AI製品の構築には何が必要かについて直接知識を得るうえで、これらのプロジェクトが役立つだろう。

効果的な試験的AIプロジェクトの5つの特性

 AI技術に威力を発揮させるためには、それを自社のビジネス環境に合わせてカスタマイズする必要がある。1つか2つ選んだ試験的プロジェクトにおいて、価値を生み出すことは目的の一部にすぎない。もっと重要なのは、これら最初のプロジェクトの成功によって、利害関係者たちを納得させて自社のAI能力の構築に投資してもらうことだ。

 試験的AIプロジェクトを検討する際には、以下の問いを自問してみるとよい。

 ●そのプロジェクトは短期間で成果が出るだろうか?

 最初の試験的AIプロジェクトは、できるだけ早急に弾みをつけるための手段としよう。短期間に完了できる(理想的には6~12ヵ月以内)、成功の見込みが高いプロジェクトを選ぶとよい。1つだけではなく2つか3つプロジェクトを選んで、少なくとも1つからは有意義な成功が生まれる確率を高めることだ。

 ●そのプロジェクトは、あまりにも些少または大規模ではないだろうか?

 試験的プロジェクトは、短期間で成果が出るものでさえあれば、必ずしも膨大な価値をもたらすAI施策である必要はない。とはいえ、他社の幹部にさらなるAIプロジェクトへの投資を納得させるに足るだけの、有意義な成功が求められる。

 私は、グーグルのAI研究プロジェクトであるグーグル・ブレインのチームを率いて間もない頃、社内でディープラーニングの可能性に関して広まっている、懐疑の念に直面した。

 当時のグーグルにとって、音声認識は、ネット検索や広告よりもはるかに重要度が低かった。そこで我々AIチームは、最初の内部顧客として、音声チームを選んだ。以前よりもはるかに正確な音声認識システムを構築できるよう彼らを支援することで、他のチームにグーグル・ブレインは信じるに足るとの確信を持たせた。

 2つ目のプロジェクトでは、グーグルマップと協働して、データの品質を高めた。2つのプロジェクトの成功によって弾みがつき、グーグル・ブレインは、グーグルを今日のような有力なAI企業へと変えるうえで主要な役割を果たしたのである。

 ●そのプロジェクトは自社の業界特有のものだろうか?

 自社ならではのプロジェクトを選ぶことで、社内の利害関係者たちは、その価値をただちに理解できる。

 たとえば医療機器会社なら、履歴書を自動的に選考するAI採用のプロジェクトを構築するのは、次の2つの理由から優れたアイデアとはいえない。(1)他の誰かが、より大規模なユーザー基盤に対応するAI採用プラットフォームをつくり、こちらの能力を凌駕または無効化してしまう可能性が高い。(2)このプロジェクトよりも、AIを医療機器に適用する試験的プロジェクトのほうが、AIへの投資価値を社内の人々に納得させられる可能性が高い。

 すなわち、医療特有のAIシステムを構築するほうが、はるかに価値があるはずだ。たとえば、AIによって医師の治療計画策定を支援する、病院の受付プロセスを自動化によってスムーズにする、健康に関する助言をパーソナライズする、などである。

 ●信頼のおけるパートナーと組むことで、試験的プロジェクトの迅速化を図っているだろうか?

 AIチームを編成中の段階では(AI Transformation Playbookのステップ2を参照)、AIの専門知識を短期間で与えてくれる外部のパートナーとの協働を検討するとよい。最終的には、社内で自前のAIチームを持ちたいだろうが、そのチームができるのを待ってからプロジェクトを実行するのは、AIの発展のペースを考えると遅すぎると思われる。

 ●そのプロジェクトは価値を生み出すだろうか?

 ほとんどのAIプロジェクトにおいて、価値は次の3つの方法のいずれかで生み出される。(1)コストの削減(ほぼすべての業界で、自動化によりコスト削減の機会が生まれる)、(2)収益の増大(推薦システムと予測システムにより、売上と効率が向上する)、(3)新規事業群の展開(AIにより、かつては不可能であった新たなプロジェクトが可能となる)。

 たとえ「ビッグデータ」を――往々にして過度に騒ぎ立てられているが――持っていなくても、価値を生み出すことはできる。

 一部の事業、たとえばネット検索サービスなどは大量のキーワードを保有しており、データの多い検索エンジンほど性能が優れている。しかし、これほど大量のデータをすべての企業が保有しているわけではない。おそらく100~1000程度のデータレコードで(もっと多くても問題はないが)、価値あるAIシステムを構築することは可能と思われる。

 特定の業界に関するデータを大量に持っているという理由で、そのデータをAIチームがきっと価値に転換してくれるはずだ、という期待だけを根拠にプロジェクトを選んではならない。このようなプロジェクトは、たいてい失敗する。AIシステムが具体的にどう価値を生み出すのか、前もって理論を立てることが重要だ。

(次ページは、『DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー』を定期購読中の方のみご覧いただけます)

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