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メディアテクノロジーの社会実装には
デザインやフィールドとのコラボレーションが不可欠だ

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VR(バーチャルリアリティ)に関連する領域として、「触覚メディア」「身体性メディア」の研究に取り組む慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科准教授の南澤孝太氏。最先端のメディアテクノロジーを社会実装するには、技術が先行するだけでなく、だれに、どういう価値を提供するのかというデザインの概念が不可欠だと説く。これまでの研究成果と企業とのコラボレーションについて聞いた。

社会に広がるテクノロジーは小さく、軽く、安くないといけない

――研究対象の「触覚メディア」「身体性メディア」とは、どういうものですか。

南澤 孝太(みなみざわこうた)
慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科 准教授

2005年、東京大学工学部計数工学科卒業。2010年、東京大学大学院情報理工学系研究科システム情報学専攻博士課程修了。博士(情報理工学)。同年より慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科に着任。触覚技術を活用し、身体的経験を伝送・創造する身体性メディアの研究を行うKMD Embodied Media Projectを主宰。SIGGRAPH Emerging Technologies 等における研究発表、TECHTILE や HAPTIC DESIGN Project の活動を通じた触覚技術の普及展開と人材育成、産学連携による身体性メディアの社会実装、超人スポーツやスポーツ共創の活動を推進している。

 もともと私は人間の身体を通じて得られる感覚を研究対象としてきました。なかでも皮膚を通じて感じる感覚について、どうすれば再現することができるか、あるいはほかの人に伝えることができるか、実際には存在しないような感覚をつくり出すことができるのかといった、人の「触覚(Haptics)」にまつわる研究を行ってきました。

 そこから対象を身体全体に広げて、人の身体を通して、本人とほかの人だったり、人と環境との関係性を変えていくようなテクノロジーをつくり出し、身体的な経験をほかの人と共有したり、自分が得る経験を拡張したり、あるいはまったくゼロから新しい経験を創造していくようなことを、「身体性メディア」と名づけて研究プロジェクトに取り組んでいます。

 触覚のテクノロジーについては、我々以外にも多くの研究者が開発に取り組んでいます。いろいろな技術が工学系の研究室で開発されていますが、それだけでは社会に入っていきません。たとえば、「このぐらい細かい感覚が出せた」とか、「リアルな感覚が出せた」というふうに技術だけが先行しても、それが実際、だれにどういう価値を提供するのか、どういう新しいビジネスにつながっていくのかという話にはなかなかならない。そこから社会実装への橋渡しをするためには、テクノロジーの上にデザインという概念を取り入れていくことが大切です。そこで「HAPTIC DESIGN」というプロジェクトを立ち上げていて、「触業=Haptic Designer(ハプティックデザイナー)」という新しい「職業」を生み出すべく活動を展開しています。

 新しいテクノロジーの誕生とともに、新しいクリエイターやデザイナーが生まれることでコンテンツが広がり、サービスも拡充していきます。触覚や身体感覚を取り扱える人々が実際に増えていくことで、こういった新しい技術が価値創造につながっていくだろうということで、ただ単に研究者として技術をつくるだけではなく、自らもデザインしますし、外部のさまざまなパートナーとも共創しながら、価値づくりに取り組んでいるところです。

――そうした領域に取り組むきっかけはあったのですか。

 学生時代にVRの研究室に入ったのですが、当時、HMD(ヘッドマウントディスプレイ)でものを見せる技術はだいたい完成していて、HMDで見えるものに触れられるようにする触覚の技術の開発が活発に行われていました。実際にそういった装置をつくったり、扱ったりしていたのですが、当時の装置はかなり“コテコテ”だったんですね。非常に複雑だし、装着するだけでも大変だし、それをコントロールするプログラムを書くのも大変で、値段も高い。学生として研究している分にはいいんだけれど、一体いつ、だれが、どこで使うのか、という疑問が生まれるわけです。

 一方で当時ちょうど、ゲーム業界ではKinect(マイクロソフト)やWii(任天堂)といったものが出てきて、人が身体を動かすだけでコンピューターのなかの世界とつながるという状況が生まれていました。それを見ていると、“コテコテ”の触覚の技術が実社会とつながるには、まず小さくなければならないし、我々のようなプロの研究者だけではなくて、ゲームであればゲームコンテンツのプログラマーやデザイナーの人たちでも使えないといけないし、値段も安くないといけない。小さくて、軽くて、安くて、それらの要件を満たしたうえで新しく何かをつくり出せるようなポテンシャルが必要だよね、ということで開発したのが「TECHTILE toolkit」です。これは説明するよりも、一度触っていただいたほうが話が早いと思います。

TECHTILE toolkit(2011年)
「触覚」をデータに変換し、糸電話のようにコップからコップへ「触覚」を移動させることができる。

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