賃金の引き上げだけでは、仕事の質はよくならない

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アマゾンは先頃、全スタッフの最低賃金を時給11ドルから15ドルに上げると発表した。この大幅な賃金引き上げは話題を呼び、労働者たちには喜ばしいことであろう。だが、小売業やサービス業を取り巻く劣悪な労働環境に目を向けたとき、賃金の向上は数ある要改善点の一つにすぎないと筆者らは言う。


 買い物客が増えるホリデーシーズンが近づくにつれて、人手不足に直面している小売企業の多くは、アマゾンの先例にならうことを間違いなく検討することだろう。同社は最近、米国の全従業員に対し(傘下のホールフーズ・マーケットの店舗で働く人も含む)、最低時間給を15ドルに上げると宣言した。国の最低賃金を7.75ドル上回る額だ。

 昇給は、小売業やその他の低賃金のサービス業で働く労働者にとって、喜ばしいことだ。このため我々は、アマゾンの決定を称賛し、他社もこれに続くことを望んでいる。昇給はまた、劣悪な仕事、劣悪なオペレーション、質の低い顧客サービス、低い生産性、高コストという、悪循環にはまっている多くの企業にとって必要である。

 だが、この悪循環を断ち切るには、昇給だけでは十分ではない。他の改革を合わせて実施しない限り、昇給は企業の利益を減少させる可能性が高く、劣悪な職場をよい職場へと転じさせることはないだろう。

 経済学者の中には、「効率賃金」の概念を引き合いに出して、昇給すればおのずと業績が向上しうると主張する人たちもいる。賃金が高ければ、企業はより優秀な働き手を惹きつけて留められ、従業員はいっそう仕事に精を出す意欲を高めるから、というのがその根拠だ。

 だが我々は、他の部分も変えなければ、これらのメリットは小さいと予測する。本稿筆者の一人が大手小売企業で働きながら直接目にしたように、高いスキルと意欲のある従業員であっても、期待されたほど生産性を上げることができない場合がある。なぜなら、企業のオペレーション上のシステムが妨げとなり、従業員のスキルと熱意が最大限に活かされるどころか、無駄にされているからだ。

 このような障壁を、我々は常に目にしている。店舗で何らかの買い物をする人なら、誰でも同様のはずだ。以下にその例を示す。

・陳列物を始終変更する。飾り付けと取り外しに何時間もかかる。その時間を使って、顧客の手伝いをしたりプロセス向上を試したりといった、もっと高価値の仕事ができるはずだ。

・土壇場で販売促進や納品の内容を変更する。これにより、マネジャーは直前のスケジュール変更に時間を割く必要が生じる。それが従業員の生活を乱し、常習的欠勤、離職、人員不足を招く。これらはどれも、ミスの可能性を高める。

・従業員に、自分の仕事を改善したり顧客の問題を解決したりする権限が与えられていない。返品の受け取りや価格の変更などの、些細な事項にも管理職の承認が必要とされている。従業員に改善のアイデアがあっても、緊急対応ですでに手いっぱいの上司に却下されてしまう。

・備品およびテクノロジー(バーコード・リーダー、冷蔵庫、研修やスケジューリング用のソフトウェアなど)が、ひんぱんに故障する。このため従業員は、ヘルプデスクへの電話に何時間も費やしたり、重要な備品なしで何日も何週間も過ごすはめになったりする。

・店舗が、本社からの日々の大量の指令や、目を通すべき多数の売上報告書、利用すべき100以上ものマネジメント・ツールなどで押しつぶされそうになっている。

 最低賃金を上げても、これらの障壁のいずれも、けっしてなくならない。企業は従業員の時間を無駄にして、支出だけを増やしているにすぎない。さらに、これらの障壁は、従業員の達成感、誇り、意義を低下させることで、労働意欲を削ぎ離職を増やす可能性が高い。

 企業は昇給しても、生活できる手取り額、予測できるスケジュール、明確なキャリアパスを提供しない限り、従業員の基本的ニーズに応えることすらできないと思われる。

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