メンタルヘルスのことを職場でもっと話す必要がある

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 EY(元アーンスト・アンド・ヤング)は2年前に、ウィー・ケア(We Care)と称するプログラムを立ち上げた。その目的は、メンタルヘルス問題について従業員を教育すること、必要であれば助けを求めるように奨励すること、そしてメンタルイルネスあるいは依存症に苦しんでいる同僚の支えになることだった。

 このプログラムは、確固としたニーズから始まった。「当社の従業員アシスタンス・プログラムの下、不安についての会話を耳にする機会が増え始めました」と、EYアメリカズ・バイス・チェア・オブ・タレントを務めるキャロリン・スラスキーは、当時を振り返る。「社員からの話では、そのテーマはまさにタブーで、普通は話題に上ることがありませんでした。ですが、職場で関連活動を目にする機会が増えていったので、不安について話すセッションを計画することにしました。不安について、ただ話して、それが何につながっていくか見てみようと考えたのです」

 ウィー・ケア・プログラムの導入以来、2000人のEY従業員が一連のセッションに参加した。これらのセッションには毎回、シニアレベルのスポンサー1人とメンタルヘルスの専門家1人が必ず出席する。セッションの冒頭で、リーダーの1人が経験談を披露する。これによって伝えられるメッセージとは、不安は有害でないこと、そして、この種のセッションへの出席がキャリアの足かせにはならないことだ。

 EYでは従業員アシスタンス・ホットラインも備えて、内密扱いのサポートを提供している。この2年間で、不安に関する電話相談件数は30%増加した。

「まず、誰か苦しんでいる人がいるかに気づく必要があります」と、スラスキーは言う。「そして、助けはいらないかとその人に尋ねます。相手の抱えている不安に耳を傾ける方法を学び、それから実際に対処します。当社の従業員は、米国内に4万7,000人、世界全体では25万人います。誰かが問題を抱えているとき、チームがまず、ごく自然にそれに気づけるようになりさえすれば、その先、悩んでいる人のためにできることはたくさんあります。悩んでいる人々は助けを求めています。私たちは助けになりたいのです。この問題に関して、誰にもネガティブなイメージを抱いてほしくありません」

 EY以外にも、たとえばミシガン州を拠点とする家具店ハーマンミラーといった企業は、従業員とその家族に社内カウセリングを提供している。また、メンタルヘルス応急処置についてのコースを設けて、周りの人のメンタルに関する不調の兆候を察知する方法を教えている。最終的な目標は、従業員それぞれをエンパワーして、最適なウェルビーイングを実現することだ。

 EYやハーマンミラーといった企業が気づいているように、適切なサポートを提供すれば、メンタルヘルスに問題を抱えている従業員が素晴らしい仕事をする可能性がある。

 慢性不安やうつ病を患っている人のほとんどは、何も問題はないと見せかけるのがうまい。メイクをして、きちんとした服に着替えて、定刻に出社する。だが本心では、いつ発作が起きるか、気が気でないのだ。

 この理由から、オープンで理解のある職場環境が極めて重要だ。不安とは、「何か悪いことが起きようとしている」という予想が、延々と続く状態だ。不安について話さなければ、何が発作の引き金となるかを知るといった健全な対処法を学ぶことが、いっそう困難になる。だが、不安を周囲と共有することで、不安を手なずけて強みを生かす術を習得することが、実際に可能になる。

 クリスティーナ・ウォレスは、ハーバード・ビジネス・スクールの卒業生で、スタートアップ企業3社の創立者であり、また革新的なSTEM(科学・技術・工学・数学)教育プログラムの創設エグゼクティブでもある。そして、パニック・不安障害を抱えている。不安障害を自分の強みと考えているかと尋ねると、彼女はためらうことなく、こう答えた。「もちろん」

 クリスティーナには深刻な幼児期のトラウマがあり、その後遺症に対処するために力を注いできた。「それでもまだ、相手を信頼できないとか、足をすくわれたなどと感じたときは、闘争・逃走モードに突入してしまいます」。すなわち、パニック発作と重篤な不安に襲われるのだ。

 これに対処するために、クリスティーナは上司や同僚とオープンにコミュニケーションをとる術を習得した。たとえば、事前に重要なプロジェクトに関するフィードバックを書面で渡してもらいたいと、上司にも部下にも依頼している。そうすれば、会議や面談の場で不意を突かれることなく、書類に目を通して準備する時間を確保できる。

 直属の部下からの評価によれば、クリスティーナは素晴らしい上司だ。彼女は不安障害を抱えていることをオープンに認めているので、その対処法ばかりでなく、自分のニーズを伝えて共有する方法も習得している。

 こうしたスキルのおかげで、彼女は周りの人の感情的なニーズにうまく対応し、困難な状況を優雅にやすやすと乗り切っている。クリスティーナいわく、「最高の実力を発揮できるようにチームを支援する方法を、私はよりはっきりと認識しています」

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