「ディープテック」が成功するための3つの条件

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オープンイノベーションを起こすには
多様な人材を融合させる環境整備が必要

 筆者の投資先の1つに、ウェアラブルデバイスを使い、出産前の妊婦を対象とし母体と胎児の健康状態やストレス状態を管理する米Bloomlife(ブルームライフ)がある。

 シリコンバレーに籍を置く企業ではあるが、欧州と米国が融合したディープテック・スタートアップといえる。なぜなら、経営陣とビジネス開発のメンバーは米国を中心に活動しながらも、その開発拠点はオランダ第5都市アイントホーフェン市にあるからだ。

 このアイントホーフェンは、オランダを代表する電機メーカー、フィリップス「発祥の地」であり、人口あたりの特許件数が世界一のハイテク都市だ。“オランダ版シリコンバレー”とも呼ばれている。

 ここには、多国籍/多企業によるオープンイノベーションの象徴的な存在として「ハイテク・キャンパス・アイントホーフェン(HTCE)」という施設がある。この施設には、世界の半導体研究をリードしている研究機関imec(アイメック)があり、ほかにも、インテルやIBM、ASMLなど、世界的な大企業からスタートアップまで約100社が入居している。
 

世界の半導体研究をリードしている研究機関imec



 実は、ブルームライフの創業者やエンジニア陣がこのimec出身であり、同社がHTCEを開発拠点にしているのも、入居している他の企業との交流を積極的に行うためだ。それによって、オープンイノベーションを進めようと考えている。

 さらに、ブルームライフの開発メンバーは、オランダやベルギー、ドイツ、イタリアなどの出身者がおり、多国籍のメンバーで構成されている。

 つまり、様々な企業との交流を行う環境を整え、多国籍な人材をフル活用して、日本では考え難い、極めてオープンな環境で、イノベーティブな発想を生み出そうとしているということだ。ビジネスと開発拠点を分離させてでも、イノベーションを起こす環境を整備すること。それが花を咲かせるための成功条件だといえよう。

渡り鳥タイプの創業メンバー
「0→1」と「1→100」の違い

 筆者が東芝時代に関わっていたIEEE802.11nの標準化(第1回参照)の際、非常に強力な競合企業の1社があった。それがAtheros Communications(アセロス)である。

 1998年にスタンフォード大学やカリフォルニア大学バークレー校などのメンバーを集めて創業。無線LANの会社として成功し2004年に上場。その後、米半導体大手クアルコムの完全子会社となり、現在クアルコム・アセロスに商号変更している。

 このアセロスを見ていて驚いたのは、標準化の活動が佳境に入った時に突然、主力チームメンバーが退職して別のスタートアップに移ったことだ。なぜ彼らが最も成長しているフェーズで有望なスタートアップを去ったのか、いまならばよく理解できる。

 ディープテック・スタートアップの創業初期は経営上、製品プロトタイプ開発やサービス設計の比重が高い。その段階では、多くのエンジニアがスタートアップのメンバーとして関わって開発を進める。

 開発や量産にある程度の目処が付くと、次に必要なのはビジネス開発やマーケティング、量産・出荷のオペレーションに関わる人材だ。ここで新たな人材が加わる一方で、初期の研究開発に関わったメンバーは、貢献した分のストックオプションを得て、次なるスタートアップに向かっていく。

 当然ながら、人によって異なる部分は多いが、初期メンバーはたいてい、ディープテック・スタートアップに関わることを1つのプロジェクトだという意識で参加している。さらにいえば、0→1を生み出すことに興味関心が高い人たちと、1→100を得意とする人たちとは全く異なる発想を持っている。

 特に、0→1の人は、自身のやりがいや興味関心、会社の成長ステージなどで、企業間をまるで渡り鳥のように移ることが当たり前なのだ。

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