カントからフッサールへ
構想力が未来を拓く
――書評『構想力の方法論』

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ハーバード・ビジネス・レビュー編集部がおすすめの経営書を紹介する連載。第91回は、多摩大学大学院教授の紺野登氏と一橋大学名誉教授の野中郁次郎氏の著書『構想力の方法論』を紹介する。

歴史的構想力へ
ダイナミックに展開

 ページをめくる度に知的好奇心が刺激され、「巻を措く能わず」の書である。

 今日の日本経済は、企業で不祥事が多発し、低い生産性と長時間労働が続き、イノベーションが一向に生まれないなど、課題が山積みの状態である。この要因は社会の想像力の欠如にあると著者は考え、いろいろな面から分析していく。そして、この問題の抜本的な解決策は、日本人が潜在的に持つ「構想力」を顕在化させることにあると説き、その方法論を詳述していく。

 ベースにあるのは、著者が長年研究を続けてきた知識創造理論であるが、それを構想力論に展開していくに当たって、本書で提示される思想の紹介がとても魅力的である。イマヌエル・カント、エトムント・フッサール、マイケル・ポランニー、フリードリッヒ・ハイエク、ニクラス・ルーマン、ヘイドン・ホワイト、ヨーゼフ・シュンペーター、ピーター・ドラッカー、ウィンストン・チャーチル、フェルナン・ブローデル、三木清などの思想や言葉を引用して、構想力の意義を論じていく。

 著者は、構想力を最初に明確な形で認識したのは、イマヌエル・カントであるとする。そして、「構想力について、『対象をその対象が現存していない場合にも直観において表象する能力』であり、『直観の多様を一つの形象へともたらす能力』であるというカントの定義は、そこから生まれてきたのです。感性と悟性という本来完全に別個の働きをする二つの能力を総合的に機能させる能力が構想力であり、この構想力によって、人間は現象を認識することができる」(本書からの引用)と書く。

 それに続いて、「カントの哲学は認識論ですから創作論としての面では弱く、その点を拡張すべく、カント以降、構想力の哲学は、想像力、主観力に加えて、創造・創作、身体知、行為といった実践力を取り込んで、人間としての綜合力に展開してきたといえます。その展開において重要となるのが、構想したものを外在化するためのナラティブ(物語ること)です」(本書からの引用)と展開する。

 個人の中で感性と悟性が総合されたものが、外部に表出され、他人を巻き込み、組織化され、実践されていく。カントから始まる構想力論は、「自分の初期状態の主観から発して、自分だけの主観を超えて、他者とも共有できるような客観的な主観性を得ること、これを可能にするのが構想力なのです。このような、複数の主観が、共通の、つまり客観的な志向対象を共有しているという状態に対して、現象学の始祖エトムント・フッサール(1859-1938)は『間主観性』あるいは『相互主観性』という概念を生み出しました」(本書からの引用)と、フッサールに引き継がれていく。

 ここまでは、本書の前半部分だが、後半になると、構想力の時空間を広げて、「歴史的構想力」という考え方が紹介される。「歴史的想像力とは、現在から過去を見わたして過去から現在(過去における未来)を再発見し、その現在から未来を見通して望む未来を創造する力だといえるのです」(本書からの引用)とさらにダイナミックに展開される。

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