個人、組織、社会に広がる幸福経営学

EIシリーズ創刊記念イベント「働く私たちの幸福学」講演録[後編]

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幸せを実現している
日本企業とは

(C)Takashi Maeno

 たとえば、未来工業は「ホウレンソウ」(報告・連絡・相談)を禁止しました。行き過ぎると管理主義になるし、やらされ感を生んでしまう。だからホウレンソウをやめて権限を移譲したのです。信じて任せると、実はみんなの幸福度が上がって、燃える集団、やってみようという勇気ある集団になる。

 西精工は、毎朝朝礼を1時間行なっています。長いですよね。でもその1時間で、会社のミッションや理念を話し合っています。自分たちのネジを使った自動車が世界中を走り回り、レジャーや物流を担っているのだと、仕事に誇りを感じてから業務に入る。やらされ感どころか、やりがいに満ちて仕事を始めることになります。

 また、それぞれが“私の1週間”を話し合うこともあります。いいことがあれば共有し、褒め合い、課題があればみんなで解決しようとする。チームが一丸となってから仕事に入るわけです。

 こうして幸福度がポンと上がれば、創造性3倍、生産性1.3倍ですから、1時間朝礼してもお釣りが来ます。これが本当の働き方改革でしょう。とにかく残業を減らせ、有休使え、やり方は自分で考えろと無理難題を言われてもできないから、こっそり喫茶店でパソコンを開くなどといった歪んだ嘘を生んでしまう。みんなで一丸となり、勇気を持って、ありのままに働けば、働き方改革は可能なのです。

 ホワイト企業大賞のアンケートによれば、受賞企業の社員の90%が月曜日に会社に行きたくてたまらないと答えています。この感じ、みなさん会社にありますか? 金曜日の夜は、土日に家族と一緒にキャンプに行くことを楽しみにする。2日間家族と過ごしている間にだんだん社員に会いたくなって、月曜日が待ち遠しくなる。こう思えたら幸せでしょう。

 仕事は苦役であり、生きていくための収入を得る手段だと思っている方もいるかもしれませんが、週のうち5日間が不幸では、あとの2日が幸せでも、長生きどころか短命の側に入ってしまう。みなさんの健康のためにも、働いている日の幸せを考えていく時代が来たのだと思います。

 幸せになるコツの1つは、個人の成果主義ではなく、みんなでチームの成果を優先することです。エリザベス・ダンの研究によれば、「幸せをお金で買う」、つまり、無理矢理お金を他人のために使うことで、幸せになることが明らかになっています。たとえ偽善であっても、行なっていくうちに利他となり貢献に変わっていくということです。そのような仕組みを入れていくことも大事だと思います。

 今まで訪問した中で最も幸せな企業だと思ったのは、伊那食品工業です。目先の効率は求めない。売上げや利益の目標は立てない。年輪経営を掲げ、急激な成長を目指さず、じわっと成長する。業績の評価はせず、給料は全員上げる。表彰もしないし、待遇に差をつけない。会議では資料も報告もない。役割決めず、みんなで掃除をする。全体を見て今日はこれをしようといった、経営者のようなマインドと利他性をみんなが持っています。

 そこで私は疑問を持ちました。表彰もなく給料に差もつけないと、優秀な社員がやる気なくすのではないか、出来の悪い社員がサボるのではないか。塚越寛会長にそう質問したところ、開口一番、「前野さん、子供いる?」と尋ねられました。「息子と娘がいます」と答えたところ、「息子さんは出来がいいから小遣いを多めにして、娘は出来が悪いから小遣い少なくする、みたいなことやる?」と。どうして子供にやらないことを社員にやるんだ、と言うわけです。

 塚越会長にとって、社員は家族なのです。みんな頑張っているから給料を上げよう。業績が悪かった人は、もっと向いた仕事に移せばいい。会議には資料がないのも、資料を作る時間が無駄だから。家族で話し合いをするとき、子供に資料なんて出させないですよね、と。経費の領収書も、面倒な書類を書かせたりせず、すぐ通す。家族と同じ信頼関係を持てば、ハンコなんていらない、管理なんていらない、というわけです。

 もちろん、真似してもああはなれません。伊那食品は伊那食品、西精工は西精工らしく、それぞれに違います。私には私らしい幸せがあり、みなさんにはみなさんらしい幸せがある。みなさんの会社には、みなさんの会社らしい幸せがあるのです。

 ただ確実に言えることは、幸せは伝染するということです。みなさん自身が幸せになると、みなさんの会社に幸せがうつっていきます。幸せな人、幸せな会社が増えれば、社会にも幸せがうつっていきます。

 幸せな社会をつくりたくて私はワクワクしていますし、実際可能だと思います。ぜひ、みなさんと力を合わせて幸せな社会をつくっていければと思います。
(了)


※同日開催の『嫌われる勇気』『幸せになる勇気』著者、岸見一郎先生の講演録はこちら(前編後編)。

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