インパクト・インベストメントに
MIGAをもっと活用して欲しい

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今年2018年に設立30周年を迎えた世界銀行グループの多数国間投資保証機関(MIGA)は、投資家が途上国に投資を行う際の非商業リスクを保証することで、途上国に対する直接投資を促進する組織だ。途上国111カ国での845件のプロジェクトへの投資500億ドル強を支援してきた。そのMIGAの6代目長官に2013年に就任したのが、本田桂子氏。2018年度には世界で53億ドルの保証を提供、総保証残高は合計で212億ドルと、5年前からおよそ2倍増に活動が活発化している。本田氏に、近年のMIGAの取り組みや、日本企業とMIGAの連携の事例、昨今話題のSDGsとMIGAを利用した投資との関連などを聞いた(聞き手:大坪亮・DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー編集長、構成:奥田由意・フリーランスライター、撮影:嶺竜一)。

企業がSDGs関連投資を
拡大できるように支援

――世界銀行に比べて、MIGAはまだ一般にはあまりなじみがないと思います。使命や機能について教えて下さい。

本田 桂子(ほんだ・けいこ)
世界銀行グループ 多数国間投資保証機関(MIGA)長官CEO
 ペンシルベニア大学経営学大学院(ウォートン・スクール)修士課程修了(MBA)。ベイン・アンド・カンパニー、リーマン・ブラザーズを経て、マッキンゼー・アンド・カンパニーへ。同社では、アジアの初の女性シニア・パートナーとして、24年間にわたり、金融機関等に、コーポレート・ファイナンス、企業戦略などに関する助言を行った。早稲田大学特任教授、一橋大学院国際企業戦略研究科の客員准教授 、中央大学会計大学院の非常勤講師もつとめる。2013年より現職。著書に『マッキンゼー 事業再生』、訳書に『企業価値評価』(いずれもダイヤモンド社)など。

 MIGAは世界銀行グループの一機関です。世界銀行の正式名称は、IBRD(国際復興開発銀行)。設立当初は第二次世界大戦後の復興開発銀行で、日本も、東海道新幹線の建設など、いくつかのプロジェクトに対して、世界銀行から低利で貸出を受けていて、お世話になっています。今日のIBRDは、189カ国が出資・運営する銀行で、世界の貧困撲滅と繁栄の共有を目的としています。現在はIBRDで中所得国および信用力のある低所得国の政府に貸出を行い、IDA(国際開発協会)で、最貧国の政府に無利子の融資(クレジット)や贈与を提供しています。

 MIGAは多数国間投資保証機関です。つまり貸出や資金援助ではなく、保険を提供します。それによって、民間による途上国への直接投資(FDI)を促し、支援するのです。例えば、アフリカに魅力的な投資案件があっても、政情不安などで、民間企業が投資に二の足を踏んでしまうことがあります。MIGAがこれに対して、内乱や契約不履行が起こった際に備える政治リスク保険を提供することで、民間企業は投資しやすくなるのです。

――政治リスク保険の対象はどういったものですか。

 4種類あります。1つ目は、兌換停止と送金不能の場合です。開発途上国では時々、外貨準備金が足りないということがあります。プロジェクトが順調に進んで、現地通貨をドルなどに変えたくても、兌換できなくなるという兌換停止の場合、あるいは海外送金が制限される場合です。

 2つ目は、投資対象のプロジェクトの権利が国有化されて、投資した国に収用されてしまう場合です。

 3つ目は、戦争、テロ、内乱などが起こる場合です。

 4つ目は、対象国が税金を優遇するなどといって誘致したのに、約束を守らないなど、の契約不履行の場合です。

 これらをカバーするのが、政治リスク保険です。過去に引き受けた約850件のうち、約100件ほどでなんらか問題が発生しましたが、MIGAが世界銀行のネットワークなどを活用しながら問題解決の仲介を行い、数件以外はすべて問題を解決してきました。一方。これら以外の、投資がビジネス的に失敗したという商業リスクは、MIGAの対象ではありません。

 これとは別に、近年では、一部の途上国政府、地方自治体、国営金融機関などが長期かつ有利資金調達できるように、それらの機関への融資のデフォルト(債務不履行)についての信用保証も行っています。

――実績はいかがですか。

 1988年の設立当初は、世界で政府開発援助(ODA)の総額が発展途上国向けの海外直接投資(FDI)総額を上回っていましたが、1994年にその規模は逆転し、2016年にはFDIがODAの3倍になりました。MIGAが保証した民間投資は212億ドル(2兆3000億円余り)に達し、この5年間ではおよそ2倍になりました。2018年度(2017年7月- 2018年6月)の年間新規保証額は、過去最高となる53億ドルでした。この新規保証によって、800万世帯に電気が引かれ、140万人の携帯電話の電波不良を解消するなどが実現しました。

 保証額のうち、133億ドルを再保険に出すことができているのも特徴です。MIGAの保証案件は、すべて理事国181カ国の承認を得ています。このように、衆人環視体制の信頼度が高いことなどから、保険のロス率が低く、再保険の引き受け手があるのです。

 この再保険は、引き受け手の企業にとっても効率が良いものになっています。

――最近、注力されていることは、何ですか。

 経済的利益を追求すると同時に、貧困や環境などの社会的課題の解決を目指す投資であるインパクト・インベストメントとして、国連のSDGs(2015年9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に記載された2016年から2030年までの国際目標)に関連した投資を支援しています。

 公民が連携して公共サービスの提供を行うスキームも増えています。具体的事例では、2014年のミャンマーの携帯電話事業があります。KDDIと住友商事とミャンマー国営郵便・電気通信事業体 (MPT) が共同で進めたプロジェクトです。他の東南アジア諸国に比べ、ミャンマーの通信事業は遅れをとっていました。KDDIが参入して通信事業の先進ノウハウを持ち込んだことで、携帯電話の普及率が2013年に13.2%だったのが、2017年には90.5%まで拡大しました。このケースでは、住友商事の投資をMIGAが保証しています。また、再保険を国内の保険会社で全額引き受けてもらいました。

 また、事業ではなく、組織内の話ですが、MIGAの役員の比率を、女性5割、途上国出身者5割として、多様化を推進しています。67歳定年制も導入しました。

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