がんが教えてくれた、
人生と仕事の最強の教訓

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何のために働くのか。何のために生きるのか。時間に追われる日々を過ごすなかで、そうした大切なことを置き去りにしたまま、ただ漫然と1日をやり過ごしてはいないだろうか。自分自身のとらえ方を変え、それを実際の行動に移すことで、そんな日々を変えることができる。34歳でステージ4のがんを宣告された筆者が、過酷な闘病生活を通して気づいた、生きるための心構えを説く。


 34歳のとき、私は医師に「ステージ4のホジキン・リンパ腫です」と告げられた。顔面を殴られたようだった。気が遠くなった。

 それからの6ヵ月間、2週間に1度の化学療法を受けるために、ラインバーガー総合がんセンター(ノースカロライナ大学)に通うことになった。

 当時はベッドから起き出すのも苦痛だった。毒を私の体内に送り込む看護師を憎んだ。なんとかセンターに行っても、薬剤が[皮下に埋め込んだ]ポートに入っていくと、胸は冷たくなり、口の中には金属の味が広がった。私はパニックと闘っていた。

 当時は初めての著書Change to Strangeに取り組んでいるところで、本の執筆は「死ぬまでにやりたいこと」の1つだった。化学療法中は執筆に時間を割けたはずなのに、できなかった。とりわけ精神的に難しかった。血管の中の毒について、あまりに大きな不安や恐怖、嫌悪を感じていて、役立つことに取り組めるような状態ではなかったのだ。

 主治医(そして恩人)のリー・バーコヴィッツが、私の考え方を正してくれた。化学療法の薬は、たしかに分類上は毒物だが、同時に画期的な医薬品でもあり、いまそれがあるのは幸運だと思わなくてはならないというのである。ホジキン・リンパ腫の治療法が発見されたのは1980年で、それ以前にこの病気だと診断されていれば、生命が私自身からゆっくりと抜けていくのを見ているだけしかなかっただろう。つまり私は、死んでいたはずなのだ。

「毒」から「薬」へというとらえ方の変化は、私自身に大きな影響を与えた。ネガティブな面ばかりに囚われるのではなく、化学療法のおかげで、娘たちの成長を見られるのだと考えるようになった。

 化学療法そのものが楽しくなったりはしなかったが、療法を受ける目的は違ってきた。回復力と活力が高まるとともに、化学療法に対する反応も、抵抗感から前向きなものへと変わっていった。私は化学療法を受けている期間に、夢だった著作に取り組むことにした。

 化学療法の経験によって得た教訓を、私はいまも忘れないようにしている。人がつくり上げ、みずからに語るストーリーは、その人の行動や成果に甚大な影響を及ぼしうると、私は学んだ。自分の置かれた状況の意味について、よりよいストーリーをつくり上げることができれば、状況に対応する方法も変えることができる。その結果は? よりよい感情と、よりよい成果が生まれる。

人間心理の仕組み

 人は、自分がなぜこのような行動を取るのか、その目的を心から信じていれば、途中で困難があっても、大きな回復力とスタミナを発揮する。フリードリヒ・ニーチェが言ったように、「生きる目的を持つ者は、ほとんどどんな生活にも耐えられる」のである。みずからの行動への意味づけが重要なのだ。

 周囲の世界を主観的にどう認識しているか、それを心理学の用語では「解釈(construal)」と呼ぶ。ここで重要なポイントは、解釈にも高低さまざまなレベルがあり、どのレベルの解釈も、当人の態度や行動に影響を及ぼすということだ。

 低レベルの解釈とは、現状の物理的な詳細を具体的にとらえるものを指す(化学療法は毒であり、それが私の血管に注入されている)。高レベルの解釈では、具体的な詳細にはあまりこだわらず、広い視野から全体像をとらえる(化学療法のおかげで、私は娘たちの成長を見届けることができる)。高いレベルが望ましいのは、長期的な目的について考えさせ、より強い目的意識をもたらすからだ。

 がんは私の人生を変えた。みずからに語っていたストーリーを見直し、より高いレベルの解釈に沿って、そのストーリーをつくり変えるきっかけを私に与えてくれたのである。

 私からのアドバイスが1つある。あなたがなぜ、いまのような生き方をしているのか、そのストーリーを改善するために、がんになるのを待たないほうがいい。

 いまよりよいストーリーをつくり上げるのに大した手間はいらないし、いったんできれば、それを活かして生活と仕事のあらゆる面を改善できる。その効果は、大きなテーマだけにとどまらない。始めるための方法を紹介しよう。

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