論文セレクション

経営者はいまこそ、
その責務を再認識すべきである

ニティン・ノーリア ハーバード・ビジネス・スクール 学長

『Harvard Business Review』を支える豪華執筆陣の中で、特に注目すべき著者を毎月1人ずつ、首都大学東京名誉教授である森本博行氏と編集部が厳選して、ご紹介します。彼らはいかにして現在の思考にたどり着いたのか。それを体系的に学ぶ機会としてご活用ください。2018年11月の注目著者は、ハーバード・ビジネス・スクールで学長を務める、ニティン・ノーリア氏です。

インドで学び、米国での研究者生活を経て、
ハーバード・ビジネス・スクールの学長に就任

 ニティン・ノーリア(Nitin Nohria)はインド生まれ、当年56歳。2010年から現在に至るまで、ハーバード・ビジネス・スクール(HBS)の学長(Dean)の職責にある。HBSではこれまで、リーダーシップ・イニシアティブの共同代表(co-chair)や組織行動論の主任教授を務めてきた。

 ノーリアは、インドのニューデリーにある小中高一貫教育の名門男子校セント・コロンバス・スクールで学んだのち、インドの最高峰の大学であるインド工科大学に進学し、学部ではケミカル・エンジニアリングを専攻した。同大学を1984 年に卒業すると、マサチューセッツ工科大学(MIT)スローン・スクールに進学し、1988年にPh.D.を授与され、同年にHBSの助教授に採用された。その後、1993年に准教授、1999年にリチャード P. チャップマン記念講座教授へと昇任を果たした。

 ノーリアは『Harvard Business Review(ハーバード・ビジネス・レビュー)』(以下HBR)誌に多数の論文を寄稿しているが、それらの論文の特徴は、研究者の立場からCEOなどの経営トップやコンサルタントに経営のアドバイスをすることを意図しており、その説得性を高めるために、綿密かつ徹底した調査結果に基づいた論理を展開することで、影響力を発揮している点にある。

 また、HBR誌に掲載されるノーリアの論文は共著が多く、そのテーマは専門とする組織行動論分野に留まらない。首尾一貫して、いかにして経営を成功させるかを主題に、企業経営のあり方に言及しているのも特徴である。

 共著論文の中でも、HBSの助教授クラスの若手研究者とのそれは、ノーリアが監修し、同氏が共著者になることで若手研究者を育成し、HBR誌に寄稿する機会を与える狙いがある。それはノーリア自身、HBSの助教授に採用されて間もない頃、ジャーナルへの投稿に際して同様の指導や支援を受けていたからである[注1]

企業の成功要因を探究し続ける

 1990年代に入り、先進国の産業基盤が知的資産に移行するにつれて、組織メンバーの暗黙知(tacit knowledge)を形式知(explicit knowledge)化し、組織内で知を共有する「ナレッジ・マネジメント」の重要性が叫ばれるようになった。だが、その成功事例はほとんどなかった。

 ノーリアは、“What’s Your Strategy for Managing Knowledge?” with Morten T. Hansen and Thomas Tierney, HBR, March-April 1999.(邦訳「コンサルティング・ファームに学ぶ『知』の活用戦略」DHBR1999年9月号)において、知を経営資源とするコンサルティングファームによるナレッジ・マネジメントの手法を分析することで、2つのパターンを抽出し、その手法を一般企業が活用することを提言した。

 その手法の1つは、さまざまな知をコード化してデータベースに入力させ、メンバーが容易にアクセスできる「コード化(codification)」、もう1つは、個人と個人が直接に知の交換を行う「個人化(personalization)」である。いずれにしても、ナレッジ・マネジメントを成功させるには、それが全社的活動でなければならず、経営トップは導入に際して強いリーダーシップを発揮しなければならないと主張する。

 同じ時期、ベンチャー企業などの新興企業に対して、事業成長の触媒役ともいえるインキュベーター(創業支援企業)の中でも、支援先企業とインターネット関連の花形企業とのビジネスネットワークを持つ「ネットワーク・インキュベーター」の活動が注目されていた。ノーリアは、“Networked Incubators: Hothouses of the New Economy,” with Morten T. Hansen, H. Chesbrough and Donald N. Sull, HBR, September-October 2000.(邦訳「ネットワーク・インキュベーション」DHBR2000年12月号)で、のちに著名な研究者となるHBS助教授(当時)のヘンリー・チェスブローやドナルド N. サルが共著者となり、ソフトバンク・グループ傘下のインクキュベ-ター企業である「ホット・バンク」と支援先企業との関係を事例にして、その成功要因を分析した。

 企業の成功要因を明らかにすることは、経営学者にとって永遠の課題である。ノーリアは米国の公開企業160社について、1980年代後半から1990年代前半にかけての10年間の経営行動を子細に分析し、高業績をもたらす成功要因を抽出する「エバーグリーン・プロジェクト」を推進した。そして、“What Really Works,” with William F. Joyce and Bruce Roberson, HBR, July 2003.(邦訳「成功企業の『4+2』の公式」DHBR2003年10月号)では、エバーグリーン・プロジェクトの調査結果を発表した。

 企業が成功を収める直接的な要因は、経営手法やマネジメントツールの導入ではなく、戦略(strategy)、業務執行(execution)、組織文化(culture)、組織構造(structure)という4つの基本的な経営行動が抜きん出て優れていること、さらに、優秀な人材、イノベーション、リーダーシップ、合併・提携の4つの副次的な経営行動のうち、いずれかの2つがライバル企業を圧倒している点だとした。すなわち、事業を成功に導く必勝条件は「4+2」の公式であり、これを経営の羅針盤として厳守すれば、90%以上の確率で業界平均以上の業績を維持できる、という結論に至った。なおエバーグリーン・プロジェクトの詳細は、What Really Works, 2003.(邦訳『ビジネスを成功に導く「4+2」の公式』ソフトバンククリエイティブ、2003年)として上梓している。

新たな環境、新しいポジションで
成功を収めるために必要なこと

 今日の産業界では、不確実性の高い事業環境における変化を想定し、その中で的確な意思決定を下して即時に対応できる、スター・プレイヤーが求められている。米国の産業界では、社内でそうした人材を育成する時間とコストを考慮し、彼らを社外から調達することは常識である。

 ノーリアは、中途採用されたCEO、研究者、ソフトウエア開発者、投資銀行、広告、広報、経営コンサルタント、法務のプロフェッショナル人材の追跡調査を開始した。その成果をまとめたのが、“The Risky Business of Hiring Star,” with Boris Groysberg and Ashish Nanda, HBR, May 2004.(邦訳「スター・プレーヤーの中途採用は危険である」DHBR2004年10月号)である。

 結論から述べると、ほとんどの人材は、スターというより流れ星のコメット(彗星)のような存在であり、前組織で煌々と光を放っていても、新たな組織では一時的には輝くが、生え抜き社員の猜疑心や組織環境との関わりから、その能力を発揮できないまま瞬く間に消えてしまうのが現実だという。同論文では、スター・プレーヤーであった人材が、新しいポジションで活躍できるには何が必要かを示唆しているものの、企業としては、スター・プレーヤーを外部から雇うのではなく、より多くのスター・プレーヤーを早期に育成することを心がけるべきである、と主張する。

 経営者人材の育成に定評のあるゼネラル・エレクトリック(GE)はスター・プレーヤーの宝庫と言われ、GEからCEOを迎え入れた場合、株式市場は好感を示し、株価が上がり、企業の時価総額が増加すると言われてきた。“Are Leaders Portable?” with Boris Groysberg and Andrew N. Mclean, HBR, May 2006.(邦訳「GE出身者でも失敗する時」DHBR2007年1月号)では、GEから他企業の会長かCEOに就任した、あるいは指名を受けた20人を調査対象に、特定の環境下における経営者スキルという人的資本は別の環境に移植でき、企業業績の向上に貢献できる、という仮説の検証を行った。

 企業にとって、新しいCEOを迎え入れることは、個人の持つ多様な人的資本と経験を組織に導入することに他ならない。ノーリアらの分析によれば、人的資本の中でも、コスト削減などの戦略関連、業界特有の技術や制度などの産業関連、人脈や協働する人間関係の3つの知識とスキルは、移植先の経営環境が類似していれば業績向上に貢献できることが判明した。しかし、組織文化や業務プロセス、独自のマネジメントシステムなど、企業固有の人的資本の移植は困難であった。外部からCEOを迎え入れる企業は、CEO候補者がどのような人的資本の持ち、それは自社の経営環境に移植可能なのかについて、GE出身だからという理由に頼らず事前に評価すべきだという。

 組織の中で最も優秀な人材として、CEOという新しいポジションに就いた人物でも、新たに課せられたマネジメント業務やその責任について学び直す必要がある。ノーリアはCEOの責務について、マイケル E. ポーターと共著で2本の論文をHBR誌に寄稿している。その1本が、“Seven Surprise for New CEOs,” with Michael E. Porter and Jay W. Lorch, HBR, October 2004.(邦訳「新任CEOの当惑」DHBR2005年3月号)である。

 同論文では、HBSで開催した、年商10億ドル以上の企業の新任CEOに向けたワークショップでディスカッションの議題としている「7つの事実」(以下参照)を取り上げ、新任CEOがマネジメント業務やその責任に対してどう向かい合うべきかを示唆している。そして、CEOという肩書きを得ただけで真のリーダーになったわけではなく、リーダーとしてふさわしい行動を身につけるべきだと戒めた。

(1)経営を担っているのはCEOではない。
(2)命令を下すことはリスクが高い。
(3)社内の現実を把握できない。
(4)CEOの言動1つひとつがそのままメッセージとなる。
(5)取締役会は、「上司」である。
(6)企業の目標は、短期利益の追求ではない。
(7)CEOといえども、1人の人間に過ぎない。

 ノーリアとポーターによるもう1つの共著論文が、“How CEOs Manage Time,” with Michael E. Porter, HBR, July-August 2018.(邦訳「CEOの時間管理」DHBR2018年9月号)である。同論文では、多数の責務を抱えるCEOの役割全般を分析し、効果的に時間を使うための処方箋を提示する目的で、新任CEOのワークショップにかつて参加したことのある大企業のCEOに3ヵ月間密着し、その時間配分を調査した。

 CEOは企業の最高権力者であり、組織内のマネジメント業務や課題は広範であり、社内外に向けた企業の代表として、株主、顧客、従業員、メディア、政府、自治体等、多様な組織・人と関係している。CEOは他の経営幹部とは異なり、それらすべてに関与しなくてはならない。多忙なCEOがどの業務にどれくらいの時間を配分しているかについては、たとえばヘンリー・ミンツバーグによる『マネジャーの仕事』(白桃書房、1993年)のように、少数のCEOを対象とした調査や、1週間という短期間に限った調査は存在した。しかし、CEOの時間配分を包括的に理解し、実際の行動を長期的かつ体系的に捉えたデータは決定的に不足していた。

 調査結果の詳細は同論文を読まれることをお勧めするが、ノーリアとポーターは、調査から抽出されたCEOの役割を遂行するには、陰と陽の二面性を持つ6種類の影響力の行使が必要である、という分析結果を示した。

優れたリーダーの条件は
時代とともに変化する

 20世紀の米国で経営トップの地位にあった1000人を対象とした調査によると、時代の変化を予見して新たな事業に取り組む「起業家」、状況を把握して事業の方向性を見極める「管理者」、時代の変化を受け入れて新たな可能性を見出す「リーダー」という3つの経営者のタイプに分かれた。いずれのタイプにも共通しているのは、時代の流れ(zeitgeist)を読む力の「状況認識力」が優れている点である。

“Zeitgeist Leadership,” with Anthony Mayo, HBR, October 2005.(邦訳「20世紀から21世紀のリーダーシップを占う」DHBR2006年9月号)では、事業環境への影響が大きい6つの環境要素として、政府の介入、世界情勢、人口、社会的価値観、技術、労働者を挙げて、20世紀の歴史の変遷がどのようなリーダーを生み出したか、3つのタイプの経営者の視点で検証し、21世紀に求められる経営者タイプを論じた。そしてリーダーの選考にあたっては、候補者の実績だけで判断するのではなく、どのような状況下で成功したかと、自社が置かれた状況や企業目標を念頭に置いたうえで、適任者を選考すべきであると提唱した。

 経営管理の側面で20世紀に進歩したことの1つは、不要なリスクと不可避なリスクを予測・管理して最小化する、リスク・マネジメントの実効性が高まった点である。しかし、ノーリアらは、“Risk, Uncertainty, and Doubt,” With Thomas A. Stewart, Breakthrough Ideas. HBR, February 2006.(邦訳「2006年のパワーコンセプト(上):リスク、不確実性、不安」DHBR2006年6月号)において、21世紀には依然として「不確実性」と「不安」の課題は解消されないままにある、とした。リスクは計算できるが、「想定外」という言葉が示すように「不確実性」は計算できない。ビジネスの世界では、本質的に不確実な状況でも、経営トップは意思決定を下さなければならないケースが増えているという。

 そうした不確実性に対処するために、経営者ができることの1つとして、シナリオ・プランニングの手法を用いることも一考かもしれない。ただノーリアは、誤った選択をしても揺るがない経営の堅牢性(robustness)を高めることが重要であり、経営者は決断という重荷を背負わなければならない、と主張する。

 堅牢性については、“Survival of the Adaptive,” Forethought, HBR, May 2006.(邦訳「鳥インフルエンザは企業課題である(下):クライシスに強い組織をつくるコツ」(DHBR2007年4月号)に詳しい。同論文では、危機を察知する能力と、それに即応できる能力を持ち合わせた、適応力に優れた組織を挙げている。そうした組織は従前のピラミッド型の階層組織ではなく、分散型のリーダーシップを持ってネットワーク化され、脅威の察知、調整、対応、再察知というプロセスを素早く繰り返すことができる組織である。経営者は、優れた適応力を備えた組織文化を醸成し、そのためのシステムを構築すれば、脅威を予防でき、たとえ危機に遭遇しても回復力と競争力を獲得できると主張した。

経営トップが果たすべき不変の責務

 ノーリアはポール R. ローレンスとの共著、Driven: How Human Nature Shape Our Choices, 2002.(邦訳『ハーバード・ビジネススクールの〈人間行動学〉講義』ダイレクト出版、2013年)において、獲得(acquire)、絆(bond)、理解(comprehend)、防御(defend)という、人間に先天的に備わる4つの「欲動(drive)」の存在を明らかにした。

 一般的な通念として、従業員のモチベーションが高まると企業業績が向上すると考えられており、それは経験的にも裏付けられている。“Employee Motivation: A Powerful New Model,” with Boris Groysberg and Linda-Eling Lee, HBR, July-August 2008.(邦訳「新しい動機づけ理論」DHBR2008年10月号)では、経営者は従業員の4つの欲動を満たし、モチベーションを高めるために具体的に何をすべきかを主題に論じた。同論文では、仕事への愛着度、従業員満足度、仕事を実行する真剣度を示すコミットメント、離職意思という4つの指標に基づき大規模な調査を行い、モチベーションを高める具体的なモデルを提示している。

 経営者には正規の教育が必要ないだけでなく、普遍的な行動規範も、免許のような資格認定も必要としない。米国でビジネススクールが設立されてから100年以上が経つが、ノーリアによれば、それは医師や弁護士のように、経営者という職業も確立された教育基盤、資格認定、行動規範に裏付けられたプロフェッショナルへと転換させ、そうしたプロフェッショナルが公開企業を統制する権利を正当化するために考案されたという。

 だが真のプロフェッショナルには、社会と暗黙に契約を交わした職業規範が存在するはずである。医師には、医師としての倫理や任務を誓う「ヒポクラテスの誓い」があり、全米の医科系大学の卒業式で必ず宣誓されている。そこでノーリアらは、“It’s Time to Make Management a True Profession,” with Rakesh Khurana, HBR, October 2008.(邦訳「マネジャー版『ヒポクラテスの誓い』」DHBR2009年2月号)で、経営者版の「ヒポクラテスの誓い」を提示した。

 同論文の背景には、特に2000年代の米国において、エンロンやワールドコムなどによる企業の不正事件が多発し、経営者に厳しい罰則を科すサーベンスオックスレー(SOX)法が施行されたこともあった。ノーリアらは、経営者のプロフェッショナリズムとは、社会からの信託を受け、経営資源を動員し、資源を消費するコスト以上の経済的価値を生み出し、社会に貢献することであると主張した。

 経営トップが幹部の採用をする際の責務にも言及している。“The Definitive Guide to Recruiting in Good Times and Bad,” with Claudio Fernández-Aráoz, and Boris Groysberg, HBR, May 2009.(邦訳「不況期こそ人材獲得のチャンス」DHBR2009年8月号)では、経営陣とその直属の管理職のような幹部人材を採用する最も効果的な方法を提言した。

 エクゼクティブサーチ会社の調査によれば、顧客企業が採用の決め手とするのは関連業務の経験年数であり、チームワーク能力や新たなことにチャレンジする意欲や姿勢を重視する企業は少ない。さらに経営幹部の採用においては、経営トップと面談する回数は少なく、求められる人材に関する設定もなく、企業の半数は人事部門の責任者の直感に任せているのが現状である。

 ノーリアは、経営トップが不確実性の高い事業環境で果たすべき責務として、経営幹部を採用する際、過去に囚われることなく、企業が将来に進むための人材を見極めたうえで採用を行うことであるという。同論文では、将来の人材ニーズを具体的に予測することから始まる、経営幹部の採用プロセスを提示した。

“Why U.S. Competitiveness Matters to All of Us,” HBR, March 2012.(邦訳「いまこそ競争力を取り戻す時」DHBR2012年6月号)は、HBR誌の特集“America’s Challenge,” HBR, March 2012.(「アメリカ経済の正念場 競争力再生」DHBR2012年6月号)に寄稿した論文である。同特集には、マイケル E. ポーター、ロザベス・モス・カンター、ゲイリー P. ピサノなど、HBSが誇る教授陣が寄稿した。

 ノーリアはその中で、米国の競争力の問題は多次元にわたり、どのような政治的レトリックを使っても簡単な解決策にはならないと述べている。一方で、HBSで開催された実業界、労働組合、メディア、学術分野の各方面のリーダーを招いたシンポジウムで表明した改革の意識から、直面する課題は深刻だが克服は不可能ではない、という期待も示している。

HBR誌を通して、
世界のビジネスリーダーに影響を与え続ける

 ノーリアがHBR誌に寄稿する論文で対象とする読者が、企業の経営トップであることは明らかである。同氏が、そうした読者と接触できる権威あるジャーナルとしてHBR誌を意識するようになったのは、初めてHBR誌に触れた機会に由来する。それは、インド工科大学時代にインターンシップとして実習した、電機企業での出来事であった。

 HBR誌は、その企業の経営陣にとって、最新の経営管理分野を知る貴重な情報源であり、同誌が届くと、まずCEOをはじめとする経営陣に回覧され、次に下位のマネジャーに閲覧され、半年ほど経ってから、よれよれになった雑誌がインターンシップの学生にも回ってきたそうだ。ノーリアは、ケミカル・エンジニアリングを専攻していた自分が、経営学の考え方に初めて触れたのはHBR誌だったと述べている[注2]。同氏が経営管理の研究者を目指してMITのスローン・スクールに進学したのは、HBR誌との出会いがあったことによるのかもしれない。

 その後、HBS助教授となってから、HBR誌に寄稿した最初の論文である、“What Happened to the Take-Charge Manager?” with J. D. Berkley, HBR, January-February 1994.(未訳)を寄稿した。同論文を邦訳すると「いま、経営を担う者の問題とは何か」である。

 米国では1980年代以降、ビジネススクール、マネージング・コンサルタント、企業研修、経営誌といった、いわゆるマネジメント産業が隆盛を極め、TQM(Total Quality Management:総合的品質管理)やリエンジニアリングなどの新しい経営手法やマネジメント・ツールが次々と企業経営に導入された。しかし、それによって米国の産業は復活したのだろうかと、ノーリアは問う。データを見ると、自動車産業など主要な12の産業では世界的に競争力を失っていた。

 経営者は、コンサルタントが示すお仕着せでパターン化された経営手法に頼り、経営者としての本来の責任を放棄しているのではないか。ノーリアは同論文において、米国の全経営責任者(Take-Charge Manager)に向かって警笛を鳴らしたのである。

 ノーリアは早速、インドの父に自分の論文が掲載されたHBR誌を贈った。父は、インドの実業界でも著名な企業経営者[注3]であったが、父はそれを見て、「おまえも世界のビジネス・リーダーに影響を与えるようになったのだ」と、とても喜んでくれたという。そのときの父の言葉は、世界のビジネスリーダーに影響を与える研究者になるという、ノーリア自身の欲動とも言えるモチベーションになったのではないだろうか。

[注1]ノーリアの初期の論文である、“Internal Differentiation Within Multinational Corporations,” Strategic Management Journal, Summer 1991.、“Horse for Courses: Organizational Form for Multinational Corporations,” MIT Sloan Management Journal, Winter 1993. では、インド出身の著名の経営学者であるスマントラ・ゴシャール(ロンドン・ビジネスス・クール教授)が共著者となった。
[注2]“A Whole New Way of Looking at the World,” HBR, November 2012.(邦訳「ビジネス・リーダーの養成を目指して」DHBR2013年4月号)を参照されたい。
[注3]父のDr. Kewal Krishan Nohriaは、インドの重電機企業であるCrompton Greaves Ltd.の社長を長年務めた。
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