Going Digital 社会、市場のデジタル化を日本企業変革のチャンスにする

データ駆動型社会のヘルスケア・システムには
新しい価値共創の視点が必要だ

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厚生労働省が推進するデータヘルス改革は、ICTやビッグデータの活用によって、医療の効率化や難病治療、効果的な健康づくりや介護サービスの提供により、健康寿命の延伸を図るもので、次世代ヘルスケア・システムを支えるデータ基盤の構築も盛り込まれている。日本の医療が直面する課題、次世代ヘルスケア・システムがもたらすこれからの健康について、アドバイザリーグループの構成員も務める慶應義塾大学医学部教授の宮田裕章氏に聞いた。

次世代ヘルスケア・システムに求められる哲学とは

――厚生労働省が推進するデータヘルス改革のアドバイザリーグループのメンバーも務めていますが、日本の医療が直面する課題についてどうご覧になりますか。

宮田 裕章(みやたひろあき)
慶應義塾大学 医学部 医療政策・管理学教室 教授

東京大学大学院医学系研究科健康科学・看護学専攻修士課程修了。同分野保健学博士(論文)。早稲田大学人間科学学術院助手、東京大学大学院医学系研究科医療品質評価学講座助教を経て、2009年より同大学大学院准教授、2014年より同教授 (2015年5月より非常勤)、2015年5月より現職。2016年10月より国立国際医療医研究センター国際保健政策・医療システム研究科科長(非常勤)。厚生労働省参与、日本医師会客員研究員、厚生労働省データヘルス改革推進本部データヘルス・審査支払機関改革アドバイザリーグループ構成員なども務める。

 超高齢化、経済成長の鈍化、少子化、人口減少の4つが、すべてネガティブな状況にあるのは先進国のなかでも日本ぐらいです。かつては、ほかの先進国が課題解決を行い、それに倣ってうまく工夫すればいい時代もありましたが、これらについては、日本が先陣を切って解決しないといけない問題です。

 こと医療に関しては、国はこれから相当なリソースを投入しなければなりません。金融資産の過半を団塊の世代以上が保有する現状において、公的な資金も私的な資金も医療・介護に向かわざるを得ない一方で、見方を変えれば、成長のチャンスととらえることも可能です。医療分野を成長産業と位置づけながら、長期的な展望のなかで医療システムを再構築していくことが必要不可欠であり、政府は2015年に「保健医療2035」というビジョンとしてまとめています。

 そのカギを握るのがICTの利活用です。今年6月に閣議決定された「未来投資戦略2018」では、「Society 5.0」と「データ駆動型社会」への変革が掲げられており、変革をけん引するフラッグシップ・プロジェクトの1つに「次世代ヘルスケア・システムの構築」が挙げられています。

――次世代ヘルスケア・システムは、どのような方向性を目指すべきですか。

 データ駆動型社会における次世代ヘルスケア・システムの方向性としては3つ考えられます。1つは、米国型の合理的企業活動を軸にしたイノベーションの創出です。2つ目は、中国の「信用スコア」のような政府主導型の取り組み。そして3つ目は、GDPR(一般データ保護規則)が施行されたEU(欧州連合)のようなデータガバナンスのあり方です。

 一般的に、GDPRは欧州域内で影響力を強めるGAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)の足止めを狙ったルールと思われがちですが、あらゆる市民が国や企業に提供した個人データをコントロールする権利を取り戻すことは、極めて重要なパラダイムシフトであり、GDPRに定められたデータポータビリティ権やアクセス権は21世紀の基本的人権になるのではないかと思います。

 いま関係者で議論しているのは、これら3つのいずれかをモデルとするのでなく、それぞれの強みを活かした、新しいデータ連携活用基盤を構築していく必要があるだろうということです。「保健医療2035」にも「主体的な選択を社会で支える」と明記されていますが、個人の決定にすべての責任を負わせるのではなく、個人を取り巻くさまざまな環境、つまり家族やコミュニティ、職域など、多様なネットワークのなかで個人を支えていくというスタイルが日本には合っています。われわれは「Value co-creation」と呼んでいますが、あらゆる立場の人々がだれも取り残されることなく、その人らしく生きることができる社会の実現を目指すものです。そうした考え方に基づいたデータ基盤を構築し、新しい価値を共創していくことが重要だと考えています。

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