ブルー・オーシャン・シフトで日本企業は復活できる

W・チャン・キム教授 来日講演レポート

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46ヵ国で翻訳され、発行部数は400万部を超える『ブルー・オーシャン戦略』は、世界に多大な影響を与えたビジネス書である。その続編『ブルー・オーシャン・シフト』発刊を記念して、著者の一人であるW・チャン・キム教授の来日記念講演が、2018年10月10日、東京ミッドタウン日比谷のBASE Qで行われた。その模様を紹介する(構成:加藤年男、写真:鈴木愛子)。

競争に囚われず、ブルー・オーシャンを開拓する

 キム教授の基調講演は、「ブルー・オーシャン・シフトが日本の将来にとってなぜ必要か。それを理解するために、まずは歴史を振り返ってみたい」という言葉から始まった。1970年代は世界が日本に感銘を受けた時代だった。ソニーのウォークマンを筆頭にホンダ、ヤマハ、カワサキのバイク、コマツの建機、東芝のコンピュータなどが台頭し、世界中が日本の知とイノベーションに衝撃を受けた。成功を収めた日本だが、現在、多くの日本人は中国の台頭を不安視し、GAFAにおびえている。日本はなぜ、成功の時代を忘れてしまったのか。その原因として、キム教授が挙げたのものが「競争戦略」だ。

W・チャン・キム教授

 アメリカはライバルに打ち勝つ戦略として、1980年代に「競争戦略」を考えた。業界分析、競合分析、戦略的なポジショニングを行い、差別化、低コスト化で戦いを挑んだのだ。日本の経営陣はこの戦略をそのまま真似てしまった。その結果、競争こそが唯一の戦略であると考えるようになったのだ。確かに、日本も20年間、競争戦略で勝ってきた。しかし今、日本の市場は縮小している。それは競争戦略に縛られ、業界の境界線にこだわりすぎたからだ。そしていまだにそれに囚われてしまっている。

 現在、環境が悪く、市場が縮小するような状況でも成長する企業がある。そうした企業に共通するのが、「ブルー・オーシャン」の考え方を持っているということだ。既存の需要を求めるレッド・オーシャンでは、顧客を引きつけるために、低コスト化か、差別化かの二者択一を迫られ、限られたパイを奪い合う。けれども、その境界を取り払えば市場の縮小はなくなる。ブルー・オーシャンは市場や業界の境界を越えた考え方なのである。

 実際、大成功を収めた会社は既存市場の中だけで活動しているのではない。たとえば、Googleは検索エンジンで歴史を変え、全く新しい需要を生み出した。同社は低コストと差別化の双方を追求している。成功は競争から生まれる場合もある。しかし、もう一つのパターンとして既存の境界を越え、新たな市場を創造することによっても生まれるとキム教授は語った。

 さらに、イノベーションとは決してディスラプション(破壊)ではない。ディスラプションがキーワードであると信じている人がたくさんいるが、壊さなくてもものをつくることはできる。もちろん破壊的な創造もあり、それが避けられない場合もあるが、破壊を伴わない創造もある。その例として、近藤麻理恵氏の整理整頓術のビジネスなどを挙げ、社会に犠牲を出さず、誰も傷つけず、既存のビジネスでは取り込めていなかった非顧客層を獲得して、収益を上げていると説明した。

 欧米では成長のためには破壊的な創造が必要だと言われるが、私は信じないとキム教授は語る。成長のためには非破壊的な創造も必要である。誰かを痛めつけないと企業は儲からないと考えてしまうと、悲惨な未来を迎えることになる。自分が勝てば誰かが負けるというゼロサムゲームの考え方は、改められなければならない。そのためには、私たちは井の中の蛙にならず、イノベーションやクリエイティビティに対する考え方をもっと広げなくてはいけないと強調した。

 キム教授は、競争戦略がすべてではないと考え、2005年に『ブルー・オーシャン戦略』を執筆した。ブルー・オーシャン戦略は、競争するのではなく、新しい市場を創造する戦略である。世界中で反響のあった同書だが、多くの読者から、ここには理論しか書かれていない、レッド・オーシャンからブルー・オーシャンに転じるための具体的な方法論やエビデンスも見せてほしいという声が上がってきた。それに応えるため2017年に書いた本が『ブルー・オーシャン・シフト』だと同書の執筆の動機を説明した。

 その上で、『ブルー・オーシャン・シフト』で強く訴えているのが、人間の感情を戦略と組み合わせることの重要性である。戦略と人間らしさが一緒にならなければ実行には結びつかない。そのため、ブルー・オーシャン・シフトでは、常に人間を中心に置いて考えている。同書では、ブルー・オーシャンをどうやってつくればいいか、ステップ・バイ・ステップで書かれているが、その各ステップで人々の感情やモチベーションをどのように取り入れるかについて触れている。

 これからの世界は、イノベーションとクリエイティビティの戦いになる。70年代、80年代、日本はそれらを発揮して勝ってきた。そして、日本は人の和を理解している。ブルー・オーシャン・シフトで重要視しているのは「人間らしさ」で、世界の中で国としてブルー・オーシャン・シフトを実行できるのは人の和を理解している日本しかない。日本は何も恐れることはないと述べて、チャン・キム教授は講演を締めくくった。

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