グーグルに学ぶパッションドリブンのコミュニティ

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前回はオープンイノベーションとコミュニティの関係に触れ、コミュニティの参加者が当事者意識を持てるイシューづくりの重要性について述べたが、今回よりオープンイノベーションを成功に導く戦略コミュニティとはどうあるべきか、具体的に考えていく。まずは新規事業開発においてコミュニティを先駆的に活用してきたIT業界に注目し、戦略コミュニティの基礎的要件を整理するが、より実践をイメージできるよう、グーグルで7年間にわたってコミュニティの構築・運営に携わった経験を持つ山崎富美氏へのインタビューも交える。

 IT業界はコミュニティの重要性を早くから理解し、事業戦略に組み込んできた。それは、日本ならば楽天市場の出店企業、米国ならアップルのiTunesに配信するコンテンツ企業など、いわゆる「プラットフォーム戦略」において形成されるコミュニティに表れる。このコミュニティは従来、プラットフォームの運営者が多大なパワーと資金を投入することで構築されてきたものだが、現在は「場」の提供者(企業)とユーザー(顧客)が、相互依存のような形でコミュニティを発展させていくケースが見られる。

 たとえば、毎年3月に米国のオースティンで開催されるイベント「サウス・バイ・サウスウエスト(SXSW)」である。出展企業が最新の製品やテクノロジーを紹介するのは一般的なイベントで見られる光景そのままだが、そこで紹介された内容について、出展企業の開発者とイベントに訪れた大企業のシステム担当者、システムベンダーや個人のエンジニアが、朝から晩まで語り合う姿を目にすることができる。企業と顧客という関係を超えたこのコミュニティは、ソフトウエアのアップデート要件はもちろん、新しい言語やシステムなどが生まれる場になっているという。

 ソフトウエアやサービス開発の裏で、さまざまなコミュニティがメッシュ状に展開されているのがIT業界の潮流だといえる。そのコミュニティ構築術からは大いに学べることがあるが、中でも肝心な要素として3つを取り上げたいと思う。それは「APIの公開」「ユーザーとのリアルな接点」「相互成長」だ。

 APIとはプラットフォーム側の機能を外部から利用できるように提供される手順や仕組みのことだが、IT業界では、このAPIをベースに開発者コミュニティを構築してきた。このコミュニティではプラットフォーム側のサービスやプロダクトが浸透する過程で、コミュニティとしてのビジョンやカルチャーなどが醸成される。開発者はそうした雰囲気を体感しながらコミュニティに参加するため、提供する側・利用する側という関係を超えて、コミュニティで生まれるものの価値を高め合う関係が生まれやすくなる。

 また、コミュニティには参加者間の信頼が欠かせないが、当然ながらそうした信頼関係はにわかに生まれるものではない。そのためには「ユーザーとのリアルな接点」が重要となってくる。まずはカフェなどで、少人数の勉強会や交流会などから始めて、顔が見える関係をつくる。それからカンファレンスや展示会などの機会を活用しながら規模を広げ、コミュニティとしての信頼を築いていく。そうした積み重ねは1つ目の「APIの公開」ともリンクする。

 この点で、日本のIT企業が催す接点の多くが「ショー」になっているのは課題といえる。前述のSXSWに参加する日本企業のブースも、開催期間中は自社製品やサービスをアピールするだけのショールームになってしまう。もっともショールームの全てを否定するわけではないが、「相互に信頼関係を築く場」という意識を持って、参加者とコミュニケーションが取れるような仕組みも同時に必要だと、ここでは述べておきたい。

 ブースで自社製品を陳列するだけでなく、参加者のスキルセットや関心領域、得意分野などを掛け合わせるインタラクティブな仕掛けを行うのもいいだろう。あるいは、100年後の業界地図をカードに書いて貼るといった、ブース訪問者のアイデアの集約の場としてもいいかもしれない。いずれにせよ、企業と外部の知が交わる場の設計をすることで、参加者に印象付けをしながらロイヤルティを高めることが肝要である。

 IT業界のコミュニティは参加者が成長し合えることが特徴的だ。たとえばソフトウエアを提供する側が製品に関する情報を開示すると、ユーザーからバグや改善提案、便利な使用方法などのフィードバックが得られる。提供者側はそれを基にバージョンアップを行ったり、さらなる活用方法を提供したりするのである。つまり、提供者はすでにある自社技術やサービスの質を高め、新しい可能性が得られる一方で、ユーザーは仕事の質やスキルを向上させることができるという構造だ。

 IT業界の場合、製品やサービスの多くがインターネット上で提供されるため、こうしたフィードバックのループを速く回せるという利点もある。この構造により、参加者たちのソフトウエアやサービスの開発に「関わっている感」は高まり、コミュニティそのものの維持・成長につながっている。

 IT業界におけるコミュニティの注目点として、「APIの公開」「ユーザーとのリアルな接点」「相互成長」の3点について、その概要を示した。ここからはグーグルでデベロッパー向けのコミュニティ運営を担当し、現在は「ポケモンGO」や「Ingress」といった位置情報ゲームを生み出したナイアンティックでコミュニティマネージャーを務める山崎富美氏へのインタビューを交え、さらに手法を深掘りしていく。

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