日本企業のオープンイノベーションに
欠けているもの

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連載初回では、BMWの事例を取り上げながら、オープンイノベーションにおけるコミュニティがもたらす効果について触れた。コミュニティの具体的な構築、運営方法に入る前に、今回はオープンイノベーションを成功に導くために最も必要な考えである「欠乏しているリソース」のとらえ方について考えてみたい。そこには日本の大企業でオープンイノベーションが上手くいかない理由が隠されている。アップルによるスマートウオッチの事例を交えながら考察しよう。

 オープンイノベーションは難しい。一度でもそのプロジェクトを任された人であれば、その設計から運営まで、思い通りに進まなかったことばかりが頭に浮かぶことだろう。さまざまな方法論を見たり、他社との交流を図ってみたりしても、思うような成果が出ない……なぜ、うまくいかないのか。原因の一つは、「オープンイノベーションのそもそも論」が欠けているせいだ。まずは「コミュニティファーストの戦略論」を話す前に、この点について整理しておきたい。

 日本企業のよくある問題として、新規事業をあまりにも「大きな市場」から考え過ぎてしまうことが挙げられる。大企業で散見されるのは、最低でも数百億円規模のビジネスに成長させるロードマップを求められることだ。特に売上高1兆円を超えるような企業であれば、数十億円の規模への期待値では事業として認められない。既存事業の効率化や拡充で達成できてしまう数字のため、新規事業としてリスクをとりながら進める意義がなくなってしまうからだ。

 だからこそ、大きな市場を主語にした参入を検討する。例えば、60兆円超えの自動車ビジネスに参入したいから、自動車メーカーと一緒に新しいソフトウエア開発ができないかという発想になる。あるいは「10兆円の介護ビジネス」を対象にして、介護ロボットの実装などを考え始める。しかし、それは市場を古い携帯電話で撮影した画像のような、粗い解像度で捉えたにすぎない。新規事業を見つけるには、より鮮明な解像度で問題を捉え、現場の実態に寄り添う必要がある。肝心なことは、もっと小さなイシューから始めることだ。

 2000年以降に急成長した新規事業は「インターネット」を活用することが特徴に挙げられる。インターネットを通じてサービスをアップデートすることが可能であり、他の企業やサービスと連携しやすくすることで、グローバル市場への進出が容易となった。さらに、関係する企業、サービス間で相互にデータの受け渡しができる点も有用に働く。

 こうした環境下では、つい大きな市場をターゲットにしたビジネスを設計しがちだが、世界を動かしてきた事業は、たった1つの技術や小さな仕組みからスタートすることがほとんどである。「小さく、面白く、意義あること」が基点となり、その基点が他社を巻き込んで拡大していく過程で、新規市場そのものが大きく、強くなっていく。これは後述するが、Apple Watch(アップルウオッチ)などのスマートウオッチ市場も1兆円規模に届こうかとしているが、それは小さな問題解決から始まったエコシステムが巨大化したからこその成果なのである。

 10兆円の介護ビジネス市場に展開できるアイデアがあったとしても、まずは「50億円規模の高齢者見守りカメラ市場」のシェアを完璧に押さえる問題解決を設計することが重要だ。その小さな領域での圧倒的な競争力が、グローバルなパートナーとの関係を生み、思いもよらない技術との連携を成立させる。10兆円の市場を見据えるには、こうした周囲の動きを導き出せるイシューをつくれるかどうかにかかっている。

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