自動車業界をより激しく揺さぶるのは、
C(コネクテッドビジネス)とS(シェアリング)

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自動車産業はEV(電気自動車)や自動運転の登場で、100年に1度の大変革期を迎えているといわれる。EV・自動運転を超えて“日本流”で勝つの著者のひとりで、アビームコンサルティングで自動車関連産業のコンサルティングに従事する轟木光氏に、変革の最前線で何が起きているか、今後の競争軸は何か、欧米中はどのような戦略を展開しているか、それに対して、日本の自動車関連産業はどのように戦っていけばよいのかを聞いた(聞き手:大坪亮・DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー編集長、構成:奥田由意・フリーランスライター)。

2030年にはAutonomous(自動運転)と
Electric Drive(電気自動車)は当たり前に

――ご著書では100年に1度の自動車業界の変革期で、4つの大きな変化が起きると書かれています。

轟木 光(とどろき・ひかり)
アビームコンサルティング シニアマネージャー。1999年に日産自動車に入社。車両開発、エンジン技術開発などに従事。また経営企画室にて環境戦略策定に携わる。3年間ドイツに駐在し、欧州の自動車産業のエキスパート2000人以上と交流、人脈を構築。アビームコンサルティング入社後は、日本の自動車関連産業を中心に戦略策定、調査等のコンサルティング活動に従事。『EV・自動運転を超えて“日本流”で勝つ』(日経BP社)の執筆チームリーダー。

 今後の自動車業界は、Connected Technology(コネクテッドカーなどのコネクテッドビジネス)、Autonomous(自動運転)、Shared & Services(カーシェアリングやUberなどのライドシェアリングなど、モビリティシェアリング)、Electric Drive(電気自動車)の4つのキーワードの頭文字をとった「CASE」を中心に動いていきます。

 ドイツのダイムラーが2016年パリモーターショーで、中期経営計画のキーワードとして発表した表現です。日本ではとかくAとE、つまり自動運転とEVばかりが注目されていますが、その2つに踊らされると、今後の業界の進む方向やトレンドを見誤ることになると私は危惧しています。

 自動車業界をより激しく揺さぶるのは、CとS、つまり、コネクテッドビジネスとシェアリングです。欧州、米国及び中国では、本気でCとSにまつわるビジネスを軸に今後の戦略を立てています。日本は残念ながら、まだこの新しい競争の波を捉えきれていないと感じます。

――なぜCとSなのですか。

 2030年に向けて欧州、米国及び中国ではCO2規制等のおかげで、EVは少しずつ販売台数を伸ばしていくでしょう。そしてその成長は持続し、EVは一般化していくでしょう。

 自動運転については、自動車産業とIT産業の開発競争に加え、大学研究機関において開発が促進されているため、2030年頃には技術としては完全自動運転が成立していると予想しています。

 つまり、Aの技術とEは2030年頃には当たり前のものになっている可能性があります。そして、自動車産業においては、ユーザーのアクセプタンス(受容)、コスト削減及び自動運転にまつわる保険など、技術以外のサービスや環境整備の部分に焦点が移ります。それがまさにCやSの部分になるのです。

 自動車産業は装置産業であり、多大な投資が必要です。経営資源を無駄にしないために、次世代の競争のゆくえを見極めた投資をしていかなければなりません。目先ではなく、2030年以降を見据えた戦略を立てる必要があります。そして、その頃に業界をリードしているものはCでありSであるという認識がなければ、日本の自動車業界は生き残っていけないのです。

 2030年に向けて自動車産業の利益の源泉は、「車の生産・販売」から「車を通したサービス」に移っていく可能性があります。たとえば、フォルクスワーゲンは中期経営計画「VW TRANSFORM 2025+」で、CASEの4つを組み合わせたMobility Service Providerになると宣言しています。

 これまで自動車産業は、バリューチェーンのなかで、車そのものを売るという部分で営業利益の大半を稼いできました。今後は車を売った後、あるいは売る前の部分に商機が生まれるでしょう。とくにCとSでは販売後のさまざまなサービスを含めた収益機会が増大します。

――CとSについて、具体的な動向を教えて下さい。

 シェアリングサービスが広がると、マスブランドの自動車の販売台数は減る可能性があります。車種別では、これまで北米では所有車は圧倒的にセダンが人気でしたが、今日では、移動にはカーシェアリングを利用し、所有する車はトラックかSUVというように、人気車種が変わり、セダンの販売台数は減少しています。

 使う場合はカーシェアリング、買う場合は所有する価値や意味がある車というふうに、すみわけが起こっているのです。欧州や北米ではすでにその傾向があります。

 そうなると、日本のマスブランドは割を食います。300万円以下のローコストセグメントはカーシェアリングに取って代わられ、所有するなら、もっとアッパーなイメージのブランドの車が良いとなっているからです。つまり、プレミアムブランドの優位が強化されるということです。

 シェアリングは、EVの普及とも深く関わっています。2014年にフォルクスワーゲンがディーゼル車に不正なソフトウェアを搭載し、排出ガス規制逃れの問題がおこりました。この「ディーゼルゲート」といわれる事件をきっかけに、内燃機関に対して厳しい目が向けられるようになりました。一方、CO2の法規制に対応するために、欧州ではEVの普及が急務となりました。弊社の予測によると、欧州のCO2規制に対応するためにEVをディーゼル車や従来の車の代替にするなら、2030年までに年間380万台のEVを売らなくてはならない計算です。

 ここにシェアリングが効いてきます。自動車会社にとってシェアリングは千台単位で大量納品できること、そして、シェアリングを通じてユーザーのEVへの接触回数が増え、EVのアクセプタンスが上がることを期待できます。このように、欧州のCO2規制に対応するためにもシェアリングは欠かせない手段となっているのです。

 完全自動運転車の普及も、シェアリングが一役買います。仮に2030年に完全自動運転車を投入したとすると、コストが次の壁となります。完全自動運転車のためのコストだけで200~400万円かかると言われていて、それが200万円から400万円の車両代にオンされるのです。この高コストは、シェアリングを使えば、ユーザー一人ひとりに分散されます。その結果、サービスとして成立し、市場投入も容易になります。自動運転に対する不安も、EV同様に、顧客との接点が増えることで、緩和されます。つまり、シェアリングを通じて、自動運転のアクセプタンスが向上するのです。

 Aの技術とEの普及のためにも、両者のマイナス面をカバーするシェアリングは不可欠な手段なのです。

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