夫に「大黒柱」願望があると
妻のキャリアは軽視される

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女性の社会進出が当然のいま、夫婦のキャリアも平等に考えられるべきであろう。だが実際には、男性にはいまだ旧来型の「成功」を要求される傾向があり、妻のほうが社会的地位も給料も高い仕事に就いていたとしても、夫のキャリアばかりが優先されている家庭は多い。一方で、夫婦ともに充実したキャリアを築いている家庭もある。その違いはどこにあるのだろうか。

 専門職のキャリアは、仕事にひたすら身を捧げることが求められることで知られる。とりわけ、男性に対する要求は厳しい。成功した男性になるためには成功したキャリアが不可欠であり、この場合の「成功」とは権力と金を持っていることだという、極めて重い期待がかけられる。

 男性たちはこれまで、こういった期待に応えて、仕事第一の一家の大黒柱という役割を引き受けてきた。サポート役は専業主婦か、そうでなくても、夫のキャリアを優先する妻である。しかし現在、異性愛者の男性の結婚相手は、同じくらい要求の厳しい仕事に携わる女性であることが多い。さらに多くの女性は、夫が妻のキャリアをサポートし、かつての世代の男性たちよりも家族との時間も大切にすることを望んでいる。

 旧来の「成功した男性」のイメージと、現実の男性の生活とのズレは、次の難問を突きつける。妻もキャリアを追求するとき、男性は、仕事に対する自分の立ち位置をどうとらえればいいのか。

 私の研究が示すところでは、男性の中には一家の大黒柱(breadwinner)という旧来型のアイデンティティに頼るタイプがいる一方で、時代に即したアイデンティティを身にまとい、問題に対処している男性もいる。私はこれを「シェア型大黒柱(breadsharer)」と呼んでいる。

 共働きカップルに関する研究はたいてい、夫婦がどうやって収入や労働時間のバランスを取るかに焦点を絞るが、私の研究の結果では、シェア型と呼ばれる男性の根本的違いは、妻の仕事の社会的ステータス、すなわち社会における価値と名声をどうとらえているかにあることを示した。さらに、妻の仕事に対する見解によって、妻の仕事の金銭的価値をどう説明するかも決まっていた。つまり、給与には単なる金以上の意味があるということだ。

 社会学者のヴィヴィアナ・ゼリザーが雄弁に解説している通り、金には意味が吹き込まれており、この意味によって金の見方、扱い方が決まる。私の研究で明らかになったのは、男性が妻の仕事の名声や社会的価値をどう評価しているかは、妻の収入の位置づけに見て取れる。すなわち、妻の仕事の金銭的価値をどのような表現でおとしめたり、褒めたりするかに現れる、ということである。

 妻のキャリアの社会的地位や金銭的価値に関する解釈が異なれば、夫自身のキャリアへのアプローチも変わってくる。シェア型大黒柱は、妻のキャリアの可能性に対応できるようにしようと、職業選択についても柔軟であり、そのため決まったキャリアパスにこだわらず、いまいる組織を去ることもいとわない。これに対して旧来型の大黒柱は、妻のキャリアのために柔軟な行動を取る必要を感じず、自分が属する組織のヒエラルキーの中での出世を求める傾向があった。

 私は、あるグローバル戦略コンサルティング会社で働く男性たちを対象に調査を行った。この種の企業の例に漏れず、同社のコンサルタントたちは仕事に身を捧げるのが当然と期待されていた。家庭を離れ、遠方へ出張し、急な残業や休日出勤も当たり前にこなさねばならない。

 私はこの会社で、異性愛の既婚男性42人にインタビューを行なった。年齢は20代半ばから60代前半まで、会社のヒエラルキー内での地位もさまざまである。

 同社の男性社員はおおむね、成功するためには会社に身も心も捧げ、妻のいかなる仕事より自分の仕事を優先するのが当然と考えていた。彼らはこの法則の証明として、会社の幹部級の男性たちを挙げた。その妻たちのほとんどが、家庭外では働いていない。

 ただし、この法則は、私が調査した男性たち自身には当てはまっていなかった。私がこの研究を始めたときには、内部のある人から、同社の男性の大半は専業主婦と結婚していると聞いていた。だが実際には、42人の既婚者のうち、妻がフルタイムで働いていた人が23人、パートタイムの人が13人いた。42人の妻のうち、インタビューの時点で働いていなかったのは、わずか6人であった。

 つまり同社では、男性の家庭生活について当然とされる考え方と、男性の家庭における実際の状況とに明らかなズレがあったわけだ。私がインタビューした男性たちにとって、このズレは相当なキャリア上の不安を、そして夫婦間の対立をもたらしていた。

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