論文セレクション

戦略とは競争力や独自性の基盤となる
価値創造システムである

シンシア・モンゴメリー ハーバード・ビジネス・スクール 教授

『Harvard Business Review』を支える豪華執筆陣の中で、特に注目すべき著者を毎月1人ずつ、首都大学東京名誉教授である森本博行氏と編集部が厳選して、ご紹介します。彼らはいかにして現在の思考にたどり着いたのか。それを体系的に学ぶ機会としてご活用ください。2018年9月の注目著者は、ハーバード・ビジネス・スクール教授のシンシア・モンゴメリー氏です。

資源ベースの戦略論の伝道者として

 シンシア・モンゴメリー(Cynthia A. Montgomery)は1952年生まれ、当年66歳。ハーバード・ビジネス・スクール(HBS)のティムケン記念講座教授である。HBSでは経営戦略とコーポレートガバナンスを研究してきたが、戦略の立案と実行に関する経営者のリーダーシップと役割について強い関心を持ち、創業者や企業家に対するマネジメント講座であるOPM(Owner/President Management)プログラムや、世界中のエクゼクティブが参加するAMP(Advanced Management Program)を担当し、最近までHBSの戦略ユニットの主任を務めた。

 モンゴメリーは、1974年にペンシルベニア州ピッツバーグの女子大であるチャタム・カレッジを卒業後、インディアナ州にあるパデュー大学に進学した。同大学の修士課程では経営学を、博士課程では経営工学を専攻し、1979年にPh. D.を授与された。同年、ミシガン大学ビジネス・スクールの助教授に採用され、1985年にノースウエスタン大学ケロッグ・スクール・オブ・マネジメント(以下、ケロッグ・スクール)の准教授となり、1989年にはテニュアの教授としてHBSに採用された。

 モンゴメリーの名を一躍有名にしたのは、『Harvard Business Review(ハーバード・ビジネス・レビュー)』(以下HBR)誌に、HBSの同僚であるD. J. コリスと共著で寄稿した、“Competing on Resources: Strategy in the 1990s,” with D. J. Collis, HBR, July-August 1995.(邦訳「コア・コンピタンスを実現する経営資源再評価」DHBR1996年7月号)であった。

 モンゴメリーが資源ベースを提唱するようになったのには、夫であるバーガー・ワーナフェルト(ビルゲル・ウェルナーフェルト、Birger Wernerfelt)の存在が大きい。

 モンゴメリーとワーナフェルトはミシガン大学で知り合った。デンマーク出身のワーナフェルトは、1974年にコペンハーゲン大学の修士課程を修め、HBSのDBAプログラムに進学した。HBSでは、マネジアル・エコノミクスを専攻し、1977年にDBAを授与された。

 HBS修了後、ワーナフェルトはミシガン大学ビジネス・スクールに採用され、1985年にモンゴメリーと同様にケロッグ・スクールの准教授に、1989年にはMITスローン・スクール・オブ・マネジメントにマーケティング担当の教授と採用された。二人は、イリノイ州エバンストンからボストンに移ることになった。ワーナフェルトは現在、同校のJ. C. ペニー記念講座教授を務めている。

ジェイ B. バーニーの登場で
資源ベースの考え方が脚光を浴びる

 ワーナフェルトはミシガン大学の在籍当時、資源ベースの経営戦略論(RBV:Resource Based View)に関する嚆矢の論文として、のちに高く評価されることになる、“A Resource-based View of Firm.” Strategic Management Journal, Vol.5, 1984. を著した。ワーナフェルトは、プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント(PPM: Product Portfolio Management)のように、企業経営や戦略を製品市場の成長率と相対的市場占有率だけから分析するのではなく、技術スキルや製造設備など企業が先行的に獲得している資源に基づく視点を持つべきであると主張した。同論文内では、競争優位を築いていた日本の半導体産業がコンピュータ産業へと発展していく事例を元に、「資源と製品マトリックス(resource-product matrix)」を示した。

 なお、ワーナフェルトの同論文は、10年後の戦略経営学会(Strategic Management Society)で1994年度最優秀論文賞を受賞した。ワーナフェルトは、そのときの感激を、“The Resource-Based View of the Firm: Ten Years After,” Strategic Management Journal, Vol.16, 1995.に著している。

 同論文によると、ケロッグ・スクールに在籍した1986年、モンゴメリーとワーナフェルトは共著として、“What is an Attractive Industry?” Management Science, Vol.32, No.10, 1986. を著し、産業の魅力度となる成長性と収益性を決める優位性は何かを検討して、あらためて資源ベースの考え方を提起したが、ほとんど引用されなかったことなど、資源ベースの考え方が受け入れられるようになるまでの経緯を述べている。

 1980年代の競争戦略論の主流は、マイケル E. ポーターが、SCP理論(Structure Conduct Performance Model)をベースにした “How Competitive Forces Shape Strategy," HBR, March-April 1979.(邦訳「[改訂]競争の戦略」DHBR2011年6月号)でファイブ・フォースを提唱して以来、参入障壁や移動障壁によって不完全競争の製品市場(an imperfectly competitive product market)を創造することであった。

 そうしたなか、不完全競争における製品市場の創造と企業の収益性との矛盾を提示したのが、ジェイ B. バーニー(Jay. B. Barney)であった。バーニーは、“Strategic Factor Markets: Expectation, Luck, and Business Strategy,” Management Science, 1986. において、収益性は製品市場で決まるのではなく、戦略に必要な資源を獲得するための戦略的資源市場(strategic factor market)で決まるとした。

 ワーナフェルトとモンゴメリーの資源ベースの考え方が、PPMに対する反論として提示されたのに対して、バーニーの資源ベースの考え方は、不完全競争市場戦略への反論として提示された。バーニーはその成果を、“Firm Resources and Sustained Competitive Advantage,” Journal of Management, Vol.17, No.1, 1991.として結実させた。

 同論文では、経営資源の構成要素として、価値(Value)、希少性(Rareness)、模倣困難性(Imperfect Imitability)、代替可能性(Substitutability)の「VRIS」を提示した。その後、バーニーはテキストとして、Gaining and Sustaining Competitive Advantage, 1996.(邦訳『企業戦略論 上・中・下』(ダイヤモンド社、2003年)を上梓したが、経営資源の要素に組織(Organization)を加えて「VRIO」のコンセプトを提示している。

外部環境と内部資源を結びつける
戦略理論を提示

 モンゴメリーはその後、HBSに移籍し、ポーターとともに編者として、1991年、「何が効果的な戦略をもたらすのか」という主題のもと、ケネス R. アンドルーズやブルース D. ヘンダーソン、パンカジュ・ゲマワットに至るまで、1980年代までにHBR誌に掲載された戦略関連の著名な論文を解説した、Strategy: Seeking and Securing Competitive Advantage, with M. E. Porter, 1991. を上梓した。ただし、HBR誌に寄稿された論文を対象にするという制約があったので、C. K. プラハラッドとゲイリー・ハメルのコア・コンピタンスは取り上げられているものの、資源ベースの考え方に基づいた論文は取り上げられていない。

 モンゴメリーは、前述の「コア・コンピタンスを実現する経営資源再評価」の中で、ケネス・アンドル-ズ以来の戦略論の系譜を解説している。それは、HBSでの戦略に関する先行理論の調査研究の結果を踏まえたものであった。

 同論文では、1980年代から1990年代における競争戦略論の傾向が、業界構造や市場などの外部環境から、企業のケイパビリティ論やコア・コンピタンス論などの企業内部へと移行するなか、外部と内部の視点を融合するアプローチとして資源ベースの経営戦略の考え方が有効であると、その意義を述べている。

 企業内部の経営資源の価値は、専有帰属性(Appropriability)、希少性(Scarcity)、市場の需要(Demand)という3つの要素からなり、経営戦略を実行するうえでは、経営資源を効果的な戦略ドライバーにすることが求められる。ただし、経営資源の価値は外部の業界や市場の状況に対してあくまで相対的な存在であり、それは例外なく時間の経過とともに低下するものである。そこでモンゴメリーは、同論文で、その評価のために5つのテストを実施することや、資源の価値を維持・向上させるための継続的投資が必要であることを提言している。なお、経営資源を評価する5つのテストは以下の通りである。

 1. その資源は模倣されないか(模倣困難性:inimitability)

 2. その資源の価値はどのくらい保つか(寿命永続性:durability)

 3. その資源から生み出される価値をだれが専有するのか(専有帰属性:appropriability)

 4. 独自の資源は別の資源に代替される恐れはないのか(代替可能性:substitutability)、

 5. 自社の資源は、他社よりも本当に優れているのか(競争優越性:competitive superiority)

 なお同論文は、“Competing on Resources: Strategy,”with D. J. Collis, HBR, July-August 2008.(邦訳「(新訳)リソース・ベースト・ビューの競争戦略」DHBR2008年8月号)として、HBR誌に再掲された。

 資源ベースの考え方の強みは、特定の事業における競争優位と、複数の事業を持つ多角化企業の競争優位とを説明できることにある。モンゴメリーはコリスと再度論文を執筆して、HBR誌に寄稿した。その論文、“Creating Corporate Advantage,” with D. J. Collis, HBR, May-June 1998.(邦訳「連結経営時代の全社戦略」DHBR1999年3月号)では、多角化経営を行う企業が競争優位を築くための価値創造を考察した。

 多角化企業は、「コングリマリット・ディスカウント」と言われるように、価値創造とはうらはらに、多角化経営の利点を全社的な価値創造に結びつけられない場合も少なくない。モンゴメリーは、多角化経営の問題は、事業の源である自社の経営資源との関連性を確認せず、製品やサービスとの関連性だけを見て事業を選択することの過ちにある、とした。

 多角化企業の全社戦略は、その原動力となる企業特有の資産、スキル、組織能力といった経営資源、事業、組織構造を互い連動させるような整合性をもってプランニングされる必要があり、モンゴメリーは、その分析フレームワークとして「全社戦略のトライアングル(Triangle of Corporate Strategy)」(下図参照)を提言している。

図:全社戦略のトライアングル

  競争的な事業環境において、企業には事業レベルの優位性と企業レベルの優位性があり、それは企業の成長過程で独自に形成されてきた配置方法によって決定されている。全社戦略のトライアングルは、企業の事業戦略と全社戦略の2つの分野を融合して、自社の優れた業績の源泉とは何か、を解明することを目的としている。なお、全社戦略のトライアングルについては、Corporate Strategy: Resources and the Scope of the Firm, 1997.(邦訳『資源ベースの経営戦略論』東洋経済新報社、2004年)に詳述されている。

戦略を企業家の手に取り戻すために

 モンゴメリーは、戦略を、企業が複数市場で事業活動を組み立てて、コーディネートすることによって、企業の競争力や独自性の基盤となる価値創造システムである、と定義する。

 戦略は本来、会社を創業し、それを永続的に発展させようとする、企業家のダイナミックなツールのはずである。だが、定式化された分析手法や理論を学んだMBAホルダーや戦略コンサルタントなどの専門家に戦略が委ねられることになり、経営者の持つべきホリスティック(大局的)な目的から乖離して、アイデアや計画のレベルに矮小化されてしまった、という認識がモンゴメリーにはある。

 モンゴメリーはそうした問題意識に基づき、“Putting Leadership Back into Strategy,” HBR, January 2008.(邦訳「戦略の核心」DHBR2008年4月号)を寄稿した。

 同論文では、戦略とは、外部環境における企業のポジションを定める単なる計画ではなく、企業の長期的な生き方やあるべき姿を描くものであるとして、モンゴメリーがHBSで主宰するOPM(Owner/President Management)プログラムを紹介している。OPMプログラムの受講が許可されるのは、大企業で昇進して取締役を務めるようになった人材ではなく、年間売上高が10億円から2000億円の企業オーナーや経営者など真の企業家である。

 モンゴメリーは、企業はたえず変化の渦中にあり、みずからも変化を余儀なくされるが、企業家の役割は、ストラテジストとして戦略の要点を明確にし、企業目的とその実現や評価の考えを具体的な行動に落とし込むことにある、と主張する。なお、OPMの参加者に対する問題提起と議論のケース・ディスカッションの流れは、The Strategist: Be the Leader Your Business Needs, 2012.(邦訳『ハーバード戦略教室』文藝春秋、2014年)に描かれており、興味深い内容である。

 モンゴメリーは、30年以上にわたって、ミシガン、ケロッグ、ハーバード大学のビジネス・スクールで経営戦略論を教えてきた。

 夫であるワーナフェルトが著した、前述の “The Resource-Based View of the Firm: Ten Years After” の末尾には、モンゴメリーから有益な示唆を得たことへの感謝を表明している。モンゴメリーもまた、『ハーバード戦略教室』の謝辞の最後に、“On the home front, I thank my husband, Birger, who kept candle burning when the light went out.” (家庭のことを振り返ってみると、あかりが消えそうになったとき、夫ビルゲルは、ろうそくをいつも灯し続けてくれた)と、ワーナフェルトに感謝の言葉を残している。

 モンゴメリーとワーナフェルトは、大学ばかりでなく、家庭に戻っても教育研究者として新たな発想や知見を互いに出し合い、意見の対立を回避するのではなく、刺激し合いながら、ミシガン、ケロッグ、HBS、MITという、最高峰のビジネス・スクールの教育研究者として歩み続けてきた。彼らの研究を通して、夫婦の生き方をうかがい知ることができる。

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